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異世界チート魔術師(マジシャン) 作者:内田健

第三章:ウェネーフィクスの乱

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レミーアの思いやり

 もうそろそろ日付が変わる。揺り椅子から見上げた月の位置をほんやり眺めて、レミーアはそう思った。
 家の中にはまだ自分以外の気配がない。まだ帰ってきていないようだ。今日は随分と遅い。
 心配だ。荒くれ者や盗賊などに絡まれていないだろうか。太一は一見すれば普通の少年だし、奏やミューラは別嬪だ。絡むには十分魅力的だ。
 可能性は捨てきれない。レミーアはそっと無事を祈った。
 もちろん、太一たちに手を出そうとしかねないバカどもの無事を。
 月の明かりを浴びての読書はとても捗る。自室にこもっていてもいいのだが、たまにはこういう時間を過ごしたくなる。横に置いていた酒瓶をらっぱ飲みする。度数はそこそこ強い六〇度。こんな飲み方は、ミューラがいたら出来ない。グラスに注がないとうるさく言われてしまうのだ。お目付け役の鋭い目がない読書タイムはとても幸せだ。
 それも、もう終わりを告げるのだが。

「む……なんだ。もう無くなったのか」

 瓶をひっくり返しても、一滴すら落ちなかった。この程度では水と同じだ。酔わないからこそがぶ飲み出来るのだが。レミーアは、代えを取るために席を立った。いちいち取りに行くのも面倒に感じ、今度は三本くらいそばに置いておくことにしようと思いながら。
 ぽい、と瓶を背後に放り投げる。
 月の明かりを反射しながら放物線を描く瓶は、地面に落ちる前に砕け散った。
 否。砕け散ったように見えた。
 翳した手をゆっくり握り、レミーアはため息をつく。そして、口の端をわずかに上げる。

「……この私に、魔術の練習をさせるとはな。くく、相変わらず、驚かせてくれる」

 威力は違えど、行ったことは変わらない。レッドオーガを細切れにしてみせた太一の風魔法、エアロスラストだ。初見から、こうして意のままに操れるようになるには、少なからぬ時間を要した。
 太一が即興で考えたというその魔法。一度理屈を聞いてしまえばそう苦労せずに魔術を使えるレミーアをして、エアロスラストを再現するのに丸一日かかった。
 奏がカマイタチ、と呼ぶ風の刃、正式名エアカッターの派生と思っていた。
 しかし、話を聞くと、エアカッターとは似て非なるものだった。
 エアカッターは、風属性を操る魔術師としては基礎とも言えるもの。風を細く集めて叩き付ける、仕組みそのものはシンプルだ。
 基礎だから弱いか? もちろんそんな事はない。宮廷魔術師にもエアカッターを主力魔術にしている者がいるくらいだ。威力の調節がしやすく、また影響範囲もある程度選べる。汎用性があり、「使える」と「使いこなす」は別物であると教えてくれる魔術。そして何よりも、詠唱から発動までの速さ。威力よりもスピードを重視する風魔術師の必須要素だ。
 エアカッターを現すのに最も適切なのは鈍い大剣だ。切断力はそこまで高くはなく、代わりに打撃の力も秘めている。この魔術の強みは、相手が硬質の防具でがちがちに守りを固めていても、その上から打撃のダメージを比較的簡単に通せることだ。その一方で、斬る方の効果は期待しないのが吉だ。一定以下の硬さでなければ斬ることは出来ない。かつて奏が岩に深い傷を刻めたのも、高い魔力強度故である。
 対してエアロスラスト。こちらは純粋な切断力を求めた魔術だ。斬れなければ大したダメージは与えられないが、威力が相手の防御を上回れば、容赦の無い刃と化す。
 イメージは目標に飛ぶ切れ味重視の刃物。口で言うのは簡単だが、細い刃を再現するのに苦労した。魔術の行使で苦労したのはもう一〇年以上昔のため、新鮮な感覚だった。まず一本その刃を再現してから一本ずつ増やしていく。瓶を細切れに出来る今ならば使えるだろう。覚えてみて、これはかなりの武器になるというのがレミーアの正直な感想。
 太一といい奏といい、こちらの世界の人間とは魔術に対する認識が違う。奏は魔術をミックスしてとんでもない魔術を使ってみせた。一方の太一はバリエーションこそ少ないが、それでもエアロスラストというオリジナル魔法を生み出してみせた。魔術に捧げた半生で得た常識を、ことごとく打ち砕いた二人。
 二人を保護して正解だった。こんなに楽しい気分にさせられるとは。過去の自分は英断を下したと素直に思っていた。

「ん?」

 気配を感じて、レミーアは玄関の方に顔を向けた。
 ここしばらく、最も近しい人物のもの。
 彼女が少し訝しげなのは、その気配が二つだったということだ。
 ガチャリと音がして、玄関の扉が開く。入ってきたのはやはり二人。今しがた思考のメインを占めていた太一と奏の両名だった。

「おお、帰ったか」
「ただいま」

 はて。もう一人の弟子はどこに行ったのか。
 そう思ったレミーアが問いかけると。

「あー、うん。アズパイアに置いてきちゃった」

 と、太一は答えた。実際はミューラが自分の意志であの場に残ったため、置いてきた、というのは多少語弊があった。
 レミーアは考える。いきなり本題か、それとも前置きするか。
 その選択は、すぐに決まった。
 奏の表情がかなり切羽詰っていたから。

「そうか。ま、あいつもガキじゃないし、問題なかろ。とりあえず座れ。何か出してやる」
「うん」

 席につかせて、レミーアは紅茶を淹れて二人に出す。
 味にこだわると時間がかかるので、簡素なものだ。こだわりの紅茶を出すのが目的ではない。因みに、お湯は魔術で熱した石を手ごろな鍋に放り込めば一発である。
 レミーアの光源を取る魔術で明るくなったリビングの壁に、三人分の影が映し出される。
 カップからのぼる湯気も、かすかにその存在を主張している。
 即席にしてはまあ悪くはない。自分で淹れた紅茶を一口飲んで、そう評価したレミーア。そして、改めて二人の顔を見た。
 太一はそこまで変わらないが、普段と比べてやや仏頂面。そして、ひどいのは奏の方だ。普段からハキハキとした少女の顔に落ちる翳。これは相当なものだ。
 さて。どう切り出すか。もう一口紅茶を喉に流し込み、何から話を持っていくかを決めた。

「どうだタイチ。精霊との絆は強くなったか」

 最近はそこまで事細かに聞いていない。何か変化があった時にだけ報告をするように太一には言ってあるのだ。だから、彼女から様子を尋ねるなんて久しぶりだったりする。
 我ながらへたくそだな、とレミーアは表に出さずに内心苦笑した。

「ああ。少しずつだけど、念話みたいなのが出来るようになってきたよ」

 太一は手に持っていたカップを置いて、そう言った。

「そうか。それは何よりだな。魔法のバリエーションは増えたか?」
「んー。増やそうとは思ってるんだけど、イマイチなあ。それ以前に力の加減が難しい」

 太一の史上最高クラスの魔力強度と、数々の伝承や、果ては子供向けの童話にまで登場する程に格の高い精霊、エアリアル。この二人が協力して放つ術だから、その非常識さは想像の範囲外だろう。どれほど加減したってかなりの威力が出てしまうのだ。身も蓋も無いことをいえば、相手を倒すだけならバリエーションなど太一には必要ない。どんな魔法を放とうと、全てが必殺の攻撃力だ。

「まだ魔術と魔法が混ざるなあ」
「慣れるしかないぞ」

 レミーアはそれについて既に説明をしている。端的に言えば、四属性からなる現代魔術。光や闇、そして召喚術師といった属性を持つ者が操るのは魔法。
 細かく説明すると、魔法の起源から四属性の始まりといった魔術史の授業となるため詳細は省いた。要はユニークマジシャンが使うのは魔術ではなく魔法と呼ぶということだ。
 太一が使うのが魔法。奏やミューラ、レミーアが使うのが魔術だ。
 身内しかいないから「魔法」と言っているが、外では迂闊に「魔法」という名詞は出すなとレミーアは警告していた。魔法とはすなわちユニークマジシャンの事を指す。世界に一〇人といないのであり、ある意味では国王よりも貴重な存在。
 ユニークマジシャンの誰もが有名人であり、国賓として国の重鎮に登用されたりするのが当たり前なレベルだ。望まない面倒を呼び寄せるか、頭がおかしい人物として忌避されてしまう可能性が高い。
 因みに魔術師に対して、ユニークマジシャンは魔法師と呼ばれる。

「魔法と言えば」

 太一は視線をカップに固定している。

「シャルロット姫が、俺たちに会いに来たよ」

 レミーアはぴくりと眉をあげた。その一言で大体の事情を察することが出来た。
 エリステイン魔法王国第二王女、シャルロット・エリステイン。この国の象徴とも言える存在であり、現時点において世界唯一の時空魔法師。
 彼女と会ったというなら、二人のこの様子も納得である。

「ほう。よくお前たちが被召喚者だと分かったな」
「……言われてみれば、確かに」

 どうやって太一と奏が異世界人だと特定したのか。黒髪黒目はこの世界では確かに珍しいが、全くいないわけでもないのに。

「まあ、それは良い。権力が少ないとはいえ王族。そこいらの貴族とは比べ物にならんからな」

 何らかの手段があったと見るべきだろう。そこは今は重要ではない。

「で、先方は何の用だったのだ?」
「ああうん。なんか、貴族の反乱を止めるのに手を貸して欲しいんだってさ。かっとなってつい引き受けちゃったよ」
「早まったな。何をさせられるか聞いて無いだろ」
「……返す言葉もない」

 項垂れる太一。奏、ミューラを含め、三人ともそこには行き着かなかったのだろう。それほど衝撃的だった何かがあったのだと予測できる。

「恐らくは戦に駆り出されるだろう。下手をすれば、冒険者にも満たないレベルの人間が相手になるだろうな」
「うげ」

 人間が相手。奏はともかく、太一に手加減を求めるのは酷だ。精々魔力強化でプレッシャーを与えるくらいか。それしか出来ない、人を殺めるのを恐れていると分かれば、相手にとって脅威とはならない。

「まあそれも良い」
「良いのかよ」

 何故太一と奏を特定できたのか。
 戦で殺し合いをさせられるかもしれない。
 それら二つを些事として切り捨てたレミーアに、太一は思わず声を上げる。

「うむ。まずはお前たちが冷静になるのが先だ。そんな精神状態で、まともな判断と広い視野が得られると思うな」
「ああ……」

 思い当たる節が大いにある。太一はやや間をおいて頷いた。

「素直で良い。さて、第二王女と言葉を交わしたのだろう?」

 肯定する太一。

「なんと言われたのだ?」
「まあうん。元の世界に帰る方法は無いってさ」

 どんな気持ちでそのやり取りをしたのだろう。
 淡々と告げる口調に、静かな怒りが込められている。
 気持ちは分からなくもない。だが八〇余年の時を生きてなお、二人へのフォローの言葉が浮かばない。自分を呼んだからには送り返せる。そう考えるのは普通のことだろう。それを無理だと突きつけられれば、怒るのも当然だと思えた。
 長期的に考えれば、太一と奏にとっては正に死活問題。しかし、彼らが生きているのは今この瞬間だ。もしも帰れる方法が見付かった時、「あの時こうしていなかったばっかりに」と後悔させるのは忍びない。
 とんでもない力を持っていても、まだまだティーンの少年少女。二人が成してきた実績と現時点での人間の出来を比べるとちぐはぐだ。
 だがそこが、レミーアにとってはむしろ好ましく思える。

「タイチ、カナデ」

 人は間違いなく成長する。

「隣には誰が座っている」

 だがそれは容易くはない。

「違えるな。一人ではない。同郷の者と共にいることを考えろ」

 太一と奏はお互いの顔を見合った。

「私もミューラも、お前たちの味方だ。他にも、お前たちの味方をしてくれそうな者はいないか?」

 いないなんて事はないはずだ。この世界に来て、数々の知り合いを得たとレミーアは聞いている。全員が無条件で、などと都合の良いことを言うつもりは毛頭無いが、太一と奏が困ったら親身になってくれる人は少なくてもいるはずだ。

「お前たちが戻れるまで。何年でも、何十年でも協力してやる」
「不吉なこと言わんでよ」

 太一が苦笑する。その横で、奏は俯いて肩を震わせていた。

「根拠の無い気休めは、私は嫌いでな。何、最悪、ここを第二の故郷にしたらいい。少なくとも、私は大歓迎だ」
「ちょ、冗談きついって」
「ん? 私とミューラでは家族として不満か?」
「いやそんなことはないって! って、そうじゃなくって。もっとこう、一緒に帰る方法を探そう、とか。元気付けてくれるとこじゃないの?」
「だから最悪、と前置きしたろう。無論帰る方法は探すさ」

 レミーアは腕を組んで背凭れに寄りかかる。

「お前たちを家族と思っていいくらいには信用しているし、気に入っている、と言っているんだ」
「レミーアさん……」

 涙声は、奏。

「その件は任せておけ。保証は出来んが、最大限の努力は約束しよう」
「……よろしくお願いします」

 太一が頭を下げた。追従するように、奏も。

「さて、タイチ、カナデ」
「ん?」

 頭を上げた二人に、レミーアは明るい笑みを向ける。

「私に対して、いつまでもそんなしょぼくれたツラを向けてくれるな」

 レミーアは太一と奏のために動くと約束してくれた。そんな人に対して、いつまでも落ち込んでいるのは礼を失すると言うものだ。

「そうですね……」

 奏が目尻を拭う。

「今日は取り敢えず寝ろ。寂しいなら添い寝でもしてやろうか? ん?」
「いりません!」

 太一と奏の声がハモる。
 奏は気恥ずかしさ。
 太一は煩悩で眠れないだろうという青少年の悩みから。
 仲のいい二人を、レミーアは姉のような瞳で見詰めるのだった。
たくさんの感想を頂きましてありがとうございます。

今後も返信はしますが、やはり更新が最大の答えだと思いますので、そちらを優先します。
返信は一言二言になりそうです。すみません。

もちろん、感想は全て読ませて頂いています。賞賛、指摘、批判。ありがたく目を通しています。

今後も気兼ねなく書いて頂けると嬉しいです。

目指せ中三日更新!

読んでくださってありがとうございます。
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