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異世界チート魔術師(マジシャン)  作者: 内田健
第二章:元高校生は冒険者として生活してます。
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冒険者としての厳しさ

いつの間にかストック出しきりました(笑)


今回はバラダーたち大活躍です。

 ユーラフへは、太一たちのチームと、バラダーたちのチーム合同で行くこととなった。

 馬車ではなく、歩きでアズパイアを出発した。徒歩での遠征の経験値蓄積である。アズパイアからユーラフの道中に、太一たちにとっても、バラダーたちにとっても、脅威となる魔物はいない。だが、いやだからこそ、やる価値は十分にある。

 最も肝となるのは野営だ。テントを張って食事を用意し、周囲を警戒しながら見張り番もする。

 言葉にすれば簡単である。しかし実際は口で言うほど易い事ではない。今回、街から保存食は持っていかない。全ては道中で確保する。それが可能だと知っているラケルタの指示だ。

 食べられる植物と食べられない植物の見分け方。

 動物の捕獲と、その血抜き。

 それだけでも、日本人である太一と凛にはかなりの衝撃だった。

 生きるために必要なこと、と言いながら、ミューラは捕らえた野うさぎに感謝と祈りを捧げ、その首に短刀を突き立てた。焚き火で焼けたうさぎの肉に、味付けは無かった。

 こういった生き方は地球でも行われている。ただ、それはテレビで見掛けるドキュメンタリー番組で観るのがせいぜい。

 魔物を殺すのとは感覚が違う。どちらも命を奪う事に変わりがないのだが、それでもやはり感じるものは一緒ではなかった。

 バラダーたちやミューラの奮闘もあり、何とか食事にありつけた。これはなかなか厳しい課題である。いくら強かろうと、餓えと渇きには勝てないのだから。

 その後は夜中の見張り番である。バラダーたちのチーム、太一たちのチームから一人ずつ担当する事になった。前半中盤後半の三分割。夜の見張り番は手慣れた様子のバラダーたちに比べ、太一たちは翌日眠かった。この辺も経験不足が露呈する。道中五日間。本当に足りないものが多いと実感させられたのだった。

 ユーラフに着いたのは、五日目の夕方。門番にギルドカードを提示して村に入り、ユーラフの村長を訪ねて炭坑探索の依頼で来た事を告げる。Bランク冒険者チームとCランク冒険者チームが同時に受けに来た事を知ると、村長は大層驚いていた。この依頼を受けるのは殆どがDランクの冒険者チーム。たまにCランク冒険者チームが来るくらいだ。Bランク冒険者チームが来ることは殆ど無い。

 明日から早速炭坑に潜ることを伝え、太一たちは村長宅を後にし、宿屋に向かった。

 初めてのダンジョン探索は、明日早朝から始まる。





◇◇◇◇◇





 この場所に見覚えはなかった。

 とても白い。

 右も左も。前も後ろも。上も下も。

 全方向が、白い。

 何故ここにいられるのだろう。

 地に足を着けている感覚はない。浮いている感覚もない。

 自分が存在する感覚がない。

 だが、確かにここにいる。

 

ぽたり……


 自分でも何故。

 こんな支離滅裂な思考をしているのか分からない。

 それでもこの状況を表現するのなら。

 それが一番しっくりくるのだ。

 ここは、どこだ。

 分からない。

 だが、ここがどこだか知っている。


ぽたり……。


 矛盾。

 矛盾している。

 自分の思考に、そう評価を下した。

 だが、分かる。

 分からないのに、分かる。

 分かるから、不安ではないのだ。


ぽたり……。


 では、何故ここにいるのか。

 アタシが呼んだのよ――――

 どうやら彼女が呼んだらしい。

 懐かしさを覚える声だった。

 聞き覚えの無い声なのに。


ぽたり……。


 もう、待ちくたびれたわ――――

 待たせているのか。

 それは悪いことをしている。

 早く、会わなければ。


ぽたり……。


 いいえ、慌てなくていいわ――――

 さっきと言っている事が違う。

 それに、この落ちる音は一体。


ぽたり……。


 もうすぐ目覚めるの。それは、カウントダウン――――

 何が目覚めるというのだろう。


ぽたり……。


 会えるわ。これは、運命だから――――


ぽたりぽたり……。


 何かを思い付いたのか問い掛ける前に、視界が光に染まる。


「ちょ、待ってくれ!」


 自分の声で、太一は目が覚めた。

 伸ばされた自分の手と、その先に見える天井。

 意識を取り戻すためには、少しの時間が必要だった。

 やがて覚醒していく頭。

 何か夢を見ていた気がする。だが、それが何なのか、もう思い出せない。

 何となく懐かしく、何となく切ない夢。

 とても大切な何かなはずなのに、何も思い出せない。どういう事なのだろうか。


「君は誰なんだ。教えてくれ……エアリィ」


 極自然に口にした名前。

 エアリィなる人物と、異世界で出会った事など無いのに。太一にとっては、知っているのが当然と思える名前だった。






◇◇◇◇◇






 炭坑は暗く、灯りが無ければ足下すら見えない。

 凛とミューラが、火を灯して光を生み出している。

 メヒリャも火属性の魔術師である。だが、本人が言うには「細かい魔術は苦手」とのことだ。

 攻撃魔術の威力には自信があるが、汎用性が無いらしい。他でもない本人が言うのだから間違いはないだろう。

 バラダーたちは、ダンジョンに潜る時は松明を持っていくらしい。今回は凛とミューラが灯りを供給出来るため、荷物が減っている。

 ミューラはシンプルに火を。

 凛はランタンをイメージした火を。

 灯りが二つともなれば、相当な光だ。

 足元もよく見える。ならばダンジョン探索も順調かと言えばそうでもなく。


「うおわあっ!?」


 太一がトラップを踏み抜いて、左右の壁から飛び出す槍を何とか真剣白羽取りし。


「っいやあああ!」


 寄りかかった壁が回転式の隠し扉で。中にあったたくさんのドクロに凛が可愛らしい悲鳴を上げ。


「こんな子供だましのトラップ、見破らな、きゃあああ!」


 余裕綽々でひょいひょいと歩くミューラを、天井から降り注ぐ芋虫が襲い。


「ぜえ、ぜえ……」

「はあ……はあ……」

「…………」


 炭坑に潜って都合二時間。

 三人の若者はくたばっていた。

 ラケルタが呼び掛けても返事がない。ただの屍のようだ。

 

「なんだ。本当に経験不足だな。こんなとこまだまだ温いほうだぜ」


 流石のバラダーも苦笑いを浮かべている。


「これは……前途多難……」


 メヒリャの評価は散々だ。しかし、反論の余地はない。ついでに気力もない。

 途中何度か魔物にも出会った。その時の戦闘は見事なものだ。連携はまだまだ改善すべきところもあるにはあるが、そんなものを吹き飛ばす位に個々の力が凄まじい。

 このダンジョンで出る魔物でははっきり言って力不足。そう断言してもいいくらいの強さである。

 一方、冒険者としての総合力はまだまだだ。

 Eランク冒険者ですら引っ掛からないような罠に引っ掛かる。マシなのはミューラだが、彼女も脇が少し甘い。バラダーたちからみて、突出した強さが無ければ、既に数回死んでいる。

 自分達を経験不足と評したミューラだが、それは謙遜でも何でもなく、純然たる事実だったのだ。


「はあ……ったく、ここは炭坑だろ? 何でこんなにトラップあるんだよ……」


 力無く呟く太一。


「この炭坑はよく盗賊のアジトにされるんだよ。だから、侵入者妨害のために、坑夫たちが仕掛けたんだ。ギルドの罠師とかに依頼してね」


 項垂れる太一たち三人。坑夫たちは引っ掛からないのだろう。つまり、冒険者でありながら、彼等にも劣っているということ。他にも、折角仕掛けたトラップを太一たちが無駄に発動させているという側面もあるのだが、泣きっ面に蜂と考え、あえて言わないでおいた。

 流石にいつまでもトラップで時間を喰うわけにはいかない。バラダーたちにトラップの回避指南をしてもらいながら、サクサクと進んでいく。最初太一たちに先導させたのは、自分達がどれだけ未熟者かを知るためだ。バラダーたちが先導をしてからピタリと罠に掛からなくなった。

 力の差を痛感する。

 しかしこれでただで起きるのも癪である。ラケルタが分かりやすく解説してくれるのを、頭と身体に叩き込んでいく。

 入り組んだ炭坑を、直感に任せ、魔物を狩りながら進んでいくと。

 ふと、雰囲気が変わった。


「太一。何か変」

「凛も感じるか」


 太一も今はあえて気配をさぐっていないし、凛もソナー魔術も使っていない。

 いつでもそれを使える訳ではない。頼りすぎるのも問題だ。そう諫言してきたレミーアの教えを実践中である。

 空気を肌で感じとる、直感の類い。いい機会だと、二人はそれを鍛える事にしたのだ。便利魔術を持っていないミューラの感覚は二人より遥かに鋭敏で、太一と凛の前に気付いていた。


「何かここにいたらいけない気がする」

「奇遇だな。俺もそう思う」

「あたしも……でも、何か変ね」


 ミューラの疑問は、太一と凛も覚えたものだ。この炭坑に潜って既に四時間。それだけ長い間いるのに、「いたらいけない」という感覚を覚えたのは初めてだ。

 バラダーたちはこの気配に何を考えるのか。そう思って見てみると。メヒリャが洞窟の壁一点をじっと見詰めて微動だにしない。


「早えな。見付けたか」


 こくりと、メヒリャが頷く。


「やっはり。どうやら、この先にいるようだね」


 何があるのか。そして、何がいるのか。


「人払いの魔法具だよ」

「人払い?」

「うん……」


 メヒリャが杖の先端で壁を突く。パン、と音かして、違和感が一切吹き飛んだ。

 杖の先には、割れた木の板。先程までそんなものは無かったはずだ。


「人払いの魔術に……隠蔽の魔術……」

「どうやら、後ろめたい誰かさんがいるようだね」

「折角だ。潰しておくか」


 気負いなどまるで無い。人払いの魔術を見破ったことも、この先にいる誰かを潰すと言ったことも。これが経験の差なのか。とてもではないが、すぐには埋められそうもない。先に進んでいくバラダーたちを追いかける。

 やがて、洞窟の先に開けた場所が見えた。洞窟としては不釣り合いな生活感が溢れている。そこにいたのは、一三人の男たち。粗野な風貌に薄汚れた服を纏い、視線をこちらに向けている。

 やがてこちらの人相を把握した一人が笑い出した。


「おうおめえら。バカな冒険者が武器くれるってよ!」

「上玉の女もいんじゃねえか! こいつあいいや!」


 どうやら、相手の実力を見た目でしか判断出来ないらしい。凛とミューラは不快げだが、太一にとってはあまり脅威とは思えなかった。ゴブリンたちの方がよほど厄介だ。彼等は全力で獲物を狩りに来る魔物だから。


「てめえら盗賊だな」


 一通り男たちの言葉を聞いて、バラダーは静かに言った。彼の声色に、一切の容赦が無いことに気付いているのだろうか。


「だったらどうだってんだ? ええ? ハゲ!」


 罵られたバラダーは、自分の頭を二回撫で上げ、笑う。


「否定なしか。ありがとよ」


 背中の大剣を抜き、男たちに向ける。


「心置無く、てめえらのきたねえツラを斬れるってモンだ」


 バラダーに続き、ラケルタが薄い笑みを浮かべながら弓に矢をつがえ、メヒリャが杖を構える。


「んだとこら! このにんず……が」


 椅子を蹴り上げ、立ち上がった男の言葉は、最後まで続かなかった。彼の喉には矢が生えている。ラケルタが射ったらしい。凄まじい早業である。

 口の端から血を吹きながら、男は仰向けに倒れた。


「盗賊なら、自警団に突き出したところで死罪。なら、ここで死んでも変わらないよね?」


 盗賊たちの顔から笑みが消える。


「全滅させたって……ユーラフで報告する」


 メヒリャが杖を掲げた。その先に火の玉が生まれる。


『ファイアアロー』


 小さな火の矢が三本、盗賊に向かっていった。それを皮切りにバラダーが駆け出し、ラケルタが再び矢をつがえた。

 悲鳴が周囲の壁に当たり反響する。


「……」


 目の前で人が死んでいる。

 紅い血飛沫が舞っている。

 盗賊は死罪。何故なら悪人だから。それはこの世界の常識なのだろう。

 日本でも凶悪な犯罪者には死刑が課せられる。彼等盗賊も、日本で罪を犯したなら死刑に匹敵する凶悪犯だろう。情状酌量の余地はない。

 だが、人がこのようにリアルに死ぬところを見たことはなかった。

 スプラッタ映画など目ではない。どんなにバイオレンスだろうと、あれはフィクション。太一と凛の目の前で起きているこれはリアル。


「タイチとリンは、人を殺めたことが無いのよね?」


 ミューラとレミーアには、どういう世界から来たかを話している。その時、冒険者として生きるなら人を殺す必要もある、と言われていた。

 返事をする余裕すら無い二人を見て、ミューラは二人の肩をそっと抱き寄せた。


「無理しなくていいわ……でも、目は逸らしちゃダメ……。あたしたちは、こういう世界に生きてるから」

「ミューラは、あるのか?」


 何が、とは訊かなかった。訊く必要がなかった。


「あるわ」


 ミューラは答える。彼女は太一と凛の一つ年下だったはずだ。


「勘違いしないでね。人を殺めて平気なほど、腐ってはいないから」


 バラダーが一人を豪快に切り伏せる。


「必要なのよ、これも。あいつらを放っておいたら、もっと酷い被害が出る。一度盗賊に堕ちてしまったら、死罪か、冒険者の討伐隊に潰されるか。それしかないのよ」


 Bランク冒険者のバラダーたちと、ただの無法者に過ぎない盗賊とでは、戦闘力の地力が違う。両足に矢を穿たれ、動くことの出来ない盗賊が命乞いをしている。他に動いているのはバラダー、ラケルタ、メヒリャのみ。一人を残して全滅したようだ。


「おい。仲間はどこだ?」

「い、いねえよ! これで全部だ! 助けてくれ!!」

「嘘じゃないという証拠は何かあるのかい?」

「嘘ついても意味ねえだろ! 本当だ! 信じてくれ!」

「盗賊の言葉を……信じるのは大変……」


 三人から冷たい視線を浴びせられ、男はそれでも喚いている。


「分かった分かった。悪かったな、疑って」


 満足したのか、バラダーが男の言い分を認めた。


「当面はユーラフに危機はねえってこったな。あんがとよ」


 安堵した男の顔が、すぐに驚愕に染まる。そして彼は、その表情のまま動かなくなった。

 バラダーの大剣が男の心臓に突き立っている。それはさながら、ここで裁かれた盗賊たちの墓標のようだった。

今後、更新間隔が開きそうです。

三日に一話を目標に一先ずやっていきます。早く書ければ早く更新しますし、三日では出来ないと思えばもっと間が空きます。

すみませんがご了承下さい。



良ければ次も読んでみてください!


2019/07/16追記

書籍化に伴い、奏⇒凛に名前を変更します。

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― 新着の感想 ―
[一言] なろうの投稿者が共通してよく間違えているようですが、「諫」は目下の者から目上の者に対してモノ申すときにしか用いません。師匠であるレミーアが太一や凛に与えるのは、助言です。太一や凛がレミーアの…
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