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異世界チート魔術師(マジシャン)  作者: 内田健
八章 強敵・対決・完遂

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十六

 アンテとの邂逅直後、凛とミューラは急いで一時帰宅した。

「おお、戻ったか」

 視線を手に持った書類と聖都の地図の間で行ったり来たりさせていたレミーアは、弟子二人の帰宅に相好を崩し、書類を机に置いた。

「今戻りました」

「うむ」

 どうやら色々と報告は上がっているらしいが、そこから何かしらの成果に結びついているわけではないようだ。

 さすがにそれが続けば嫌になるのも無理のないことで、レミーアがそうなっても仕方がないだろう。

「相変わらず、いまいちですか?」

 ローブを脱いでハンガーに引っ掛けながら凛が問うと、レミーアは首をぽきぽきと鳴らした。

「ここ数日で、聖都全体の網羅は一度終わった」

「網羅はしたけれど、何もなかった、と」

「そういうことだ」

 それは飽きてしまう。

 シャルロットが連れてきている、書類仕事もできる騎士も同様に情報の整理を行っているが、新たな発見は無いそうだ。

 どこに違和感を覚えるか分からないので下手に手を抜けないのも、しんどい理由だろう。

 それをやりたいかどうかで考えれば、辛い、辛くないはすぐに考えることができる。

「お前たちはどうだった」

 レミーアは期待を隠さなかった。

 何かあったからこちらに戻ってきたのだろうと予想がついたからだ。

 今自分が見ていた資料をさっさと横に押しやって、さっそく弟子たちの言葉を聞く姿勢を整えるレミーア。

 同じ作業をしていた騎士たちもその様子を見ていたが、何も言わなかった。

 むしろ、凛とミューラが何を持ち帰ってきたかの方に意識を割いていたほどだ。

「進展と言えば進展でしょうか」

「私たちと同じく、この件に関して探っている組織の構成員と接触しました」

「ほう?」

 興味深い、とレミーアはやや前のめりになった。

 相手が聞く体勢を整えてくれたのなら、話しやすい。

 頼れる師が相手ならばなおさらだ。

「実は……あたしたちよりも強い敵と、出会ったんです」

「何……?」

 さすがにその言葉はレミーアも素直に受け止めることはできなかったようで、驚きの声を隠さなかった。

 凛とミューラよりも強い。

 それ即ち、レミーアにも同様のことが言える。

「そうか……どのくらいだ?」

 目で見て肌で感じて。

 アンテの強さをどの程度のものと見積もったのか。

 凛とミューラの肌感というものを信じているからこその質問だ。

 まあ、それ以上に切実な理由。

 ただのAランクが相対するモンスターの強さが分かったところで、今の三人にとってはどうしようもなく。

 ただのAランクが相対するモンスターと戦える程度では、強さの予測すら立たないような領域なのだ。

 よって凛とミューラの感覚の方が参考になるというわけだ。

「そうですね……一対一だったら、負けると思います」

「あたしも同意見です」

 仮にサシだったなら万が一にも勝ち目はない。

 そう言いたげな凛。

 ミューラも同意見のようだ。

 二人の意見が一致しているのなら、レミーアとしてもそれを疑うつもりはない。

 弟子のことはそれだけ大事に、愛と鞭をもってここまで鍛え上げてきたという、師匠としての自負があるからだ。

「とするなら、最低でも二人、できれば私も共にいる方が良いな」

 二対一ならどうだ。

 勝てる確率は上がるだろう。

 だが、それでも分が悪いのはこちら。

 であれば、凛とミューラに頼るのはもちろん、レミーアも参加すのが良いだろう。

 というより、それ以外の選択肢はあるまい。

「ふむ。今回の件の肝までたどり着けばよいのか」

「はい。無事着いたのなら、後は一対三でも構わないそうです。」

 太っ腹だ。

 いや、もしくは自分の腕によっぽどの自信があるのか。

 その両方、といったところか。

 弟子二人が言うには、アンテはずいぶんと好戦的であったとのこと。

 と同時に、自分の強さに自信があった。

 それならこちら側が戦力を整えてからでも問題はあるまい。

「では。その時が来たら共闘といこう」

 どのみち戦いは避けられはしない。

 ならば覚悟を決めて、今のうちに認識合わせをしておく、というわけだ。

 こうしていくつかの決まり事を凛とミューラとの間で終えたレミーアは、背もたれに身体を預けた。

 それなりに大きくて高価な椅子なので、体重をかけてもみしりとも言わないわけだが。

「厄介だな」

「はい。まさかこのことも見通して、私たちに精霊魔術を教えたのでは、と思っちゃいます」

「そう思うのも無理はないわね。あたしだってそう思うもの」

 と、一人では勝てない。

 二人でもなんとも言えない。

 三人ならあるいは。

 そういった敵だった。

「……もっとも、タイチに頼れば一瞬だったのだがな」

「タイチがいたら、訓練気味の戦いになりそうですね」

「太一はアンテみたいなタイプは嫌えなさそうだもんね」

「そうね」

 まだ本質までは分からないが、あの場面で攻撃することもできたのに、話だけして去っていった。

 真正面から激突してやる、という凛とミューラの覚悟を受けて、満足そうに。

「あいつはまだここには来れぬからな。いっそあいつがいないことを前提に動かねばな」

 凛とミューラに諭す、というよりは、自分に言い聞かせるように。

 ドナゴ火山山頂。

 そこでは太一が、イフリートと契約するためにさまざまな試練を受けていることだろう。

「さて、引き続き私たちも調査を進めよう」

「はい」

「もうしばらくはスラムで情報を集めます。……これ以上は、無い気がしますけれど」

「そうだな。だが、何もない、という情報も重要だ。頼むぞ」

「分かりました」

 そう。

 スラムに何も無いことが分かれば、それだけ調査の手を別のところに向けられる。

 無いことを確認する。

 これ以上そこでは成果は望めないものの、意味はじゅうぶんにあることなのだ。

「あの女とアンテに出会えただけでも、十分な収穫と言ってもいいよね」

「そうね。じゃあ、あたしたちは戻りましょうか」

「うん。……レミーアさん、行ってきます」

「任せたぞ」

 師匠の背中に押され、凛とミューラは部屋を出て、再びスラムに向かって歩いて行った。


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