表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界チート魔術師(マジシャン)  作者: 内田健
五章 北の呪い

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

164/257

三十一話

クリスマスから年が明けて1月5日まで、年の瀬毎日更新やります。

 登城に際して、城の敷地内への出入りは基本問題無い。

 太一はイルージアが自ら依頼を出した冒険者なのだ。この国を拠点にしていたら王御用達の冒険者といっても過言ではなかった。

 王自ら言葉を交わした冒険者を、自分の独断で追い返すようなマネは、一介の兵士にはまずできない。


「便利なもんだ」


 ただし、アポなしだったり緊急でない場合は登城の理由を述べ、城内に確認を取り……とそれなりに時間がかかる。

 今回はマルグリッドに渡されていた書状のおかげでほぼ顔パスである。

 書状には発行者であるマルグリッドの印と、所属する第九騎士団の印が押されていたからだ。

 城門の守備兵から聞いた方向に向かうと、それなりの大きさの建物と、とりわけ広い敷地。

 そこでは軽装の騎士達がそれぞれ鍛錬に励んでる様子が見て取れる。

 立て看板には『練兵場』との記載があった。

 どうやらこちらで間違っていなかったらしい。

 誰かいないかと練兵場を見渡す。

 すると。


「何かご用ですか?」


 後ろから声をかけられて振り向く。

 そこには文官と見受けられる青年が。

 この近辺には騎士宿舎もあることから、メインで利用するのは騎士たちだろう。

 この青年は、身体自体はそれなりに鍛えてはいるようだ。しかし佇まいというか、醸し出す雰囲気から察するに戦いを生業にしているようには見えない。


「ああ、えっと……第九騎士団の、マルグリッドさんを探してるんですけど」

「はあはあ、なるほど、あなたがタイチ・ニシムラさんですね。騎士団詰め所の方にも通達が来ておりますよ」

「そうですか、それで、えっと」


 ああ、と気付いたようにひとつ頷く青年。


「申し遅れました。私はスタイン・グラウゼンです。第九騎士団の事務部門を担当しております」


 微笑みつつスタインは略式の敬礼をした。


「それでは、私がご案内いたしましょう」

「お願いします」


 太一はそれをありがたく受け取ることにした。

 まあ、向かう先は修練場なのだが。

 話がスムーズに済むので、案内してもらう方がいい。

 移動しながら話を聞いていると、第九騎士団が集まっているところまでたどり着いていた。


「こちらです」


 先日話をしたマルグリッドを見つけた。

 スタインは、騎士団員の模擬戦らしき訓練を一段上から見守っている。


「副団長。お客人を案内いたしました」

「ああ、すまない」


 マルグリッドは振り返ると、太一を見て小さく笑みを浮かべた。


「おお、来たか」

「では、私はこれで」

「助かった、グラウゼン」

「いえ。それでは失礼いたします」


 スタインが去って行く。

 残されたのは太一とマルグリッドだ。


「済まないな、助かる」

「俺にとっても都合がいいので気にしないでください」


 太一がこの場所に来た理由。

 マルグリッドから依頼されたのは、騎士団の相手をすることである。

 シカトリス皇国の中枢部、特に騎士になるような者たちは、この国の役職としてもかなり高い方だ。

 そんな彼らは、太一が強いことはよく知っている。

 この後も大きな任務が控えている。

 そして、太一と共に訓練することは、きっと騎士団にとっては大きな糧になるだろうと判断してのことだ。


「では、第九騎士団団長と顔合わせをしてもらおう」


 第九騎士団の団長は、一人黙々と素振りをしていた。


「団長。ニシムラ殿に来て頂きました」

「そうか」


 メルクリアスが振り返る。


「第九騎士団の団長を務めているメルクリアス・ジルラードと申す。此度は我らの要望を聞いて頂き感謝いたす」


 硬い挨拶だ。

 寒さのため厚着をしているからかずいぶんと熱がこもっているようで、身体から湯気が出ている程だ。ずいぶんと振り込んだようである。

 マルグリッドからは、お堅く冗談が通じないが、公明正大で情に厚いと聞いている。

 相手をすると気疲れすることも多いが、信用できて頼りになるという点においては他騎士団の団長と比べても追随を許さないという。

 まあ、その性質から少々煙たがれることも多いが、功を誇らず罪を偽らないことから、イルージアからも全幅の信頼をされている。


「こっちも勉強させてもらいます」


 さきほどマルグリッドにも言ったが、太一にとっても都合が良い。

 太一が騎士団の訓練に混ざることは、間違いなくイルージアも知っているだろう。

 何が都合が良いかと言えば、何かが起きた際それをすぐに知らせてもらえることだ。


「ふむ……ではさっそく、少々切り結んでみたいと思う。準備はいかがか?」

「大丈夫です」


 恐らく、身体を温めたりする必要はあるか、という意味で聞いてきたのだろう。

 太一の返答を聞いて、メルクリアスは感心したように頷く。

 短い返事だったが、その言葉の裏に込めた「実戦では準備運動などできない」という主張を正しく受け取ったのだ。


「では始めよう。マルグリッド」

「はっ」


 彼女は腰に差していた剣を剣帯から外し、太一に手渡した。


「刃引いた訓練用の剣だ。これを使え」

「分かりました」


 受け取ったのはオーソドックスな長剣。長さも重さも武具店でよく見かけるものだ。柄もそこそこ長く、片手持ちも両手持ちも対応している。切れ味を殺している代わりに、頑強さ

 太一は腰に差してきたミスリルの剣と刀を外してマルグリッドに預かってもらう。

 模擬戦で真剣など使わない。

 腰に訓練用の剣を差して抜いたのを確認し、メルクリアスが腰を落とした。


「行くぞ」


 太一も応じて構える。

 シカトリス皇国の騎士団で採用されている皇国流の剣術は、エリステイン魔法王国、ガルゲン帝国の騎士団が採用している剣術と同様に正統派だ。

 メルクリアスから見て、太一の構えは様になっているものの我流であることは間違いない。

 しかしその構えによどみはなく、技術もそれなりにあるように見える。

 メルクリアスがそんな感想を抱いていると、太一が踏み込んで斬りかかった。

 振り下ろした剣が鈍い音で受け止められる。

 その威力から、太一は竜を足止めしたときの力は出していないことが分かる。

 技術としては騎士に比べて拙いものがある。


「むんっ」

「っと」


 メルクリアスが受け止めた剣を払う。

 それに合わせて太一が飛び退く。

 飛び退いた太一が着地する瞬間を狙い、メルクリアスが距離を詰めた。

 足下を狙った横一閃。

 太一は風を使って上昇気流を起こして着地速度をわずかに下げる。

 下がったのはたった一拍程度、一呼吸にも満たない時間だが、メルクリアスとて国軍といえる騎士団の団長を務める者。

 その一瞬のずれだけでもずいぶんと変わる。

 かわされた足狙いの一撃から剣閃が跳ね返り斜め上に切り上げられる。

 それを受け止め……ずに刃の上で滑らせる。

 同時に踏み込みながら掌底。

 メルクリアスはどう受けるか。

 剣を使わない反撃に、メルクリアスは手のひらを使い受け流す動きで太一の掌底を横に逸らした。

 一通りのやり取りが終わり、二人は少し距離を取った。


「今のは、小さい盾か……」


 ぽつりと呟く。

 あの動き、腕にはめるタイプの盾ではなく、手に持つタイプの盾で行うものだ。

 太一が名前を思い出せなかったバックラーという盾だ。

 あれが大きな盾なら、掌底など正面から受け止めてしまえば良いのだから。

 この世界の武器は、身体強化魔術前提で作られているのでかなり頑丈なのである。いくら強化していても盾を破壊できるほどの威力を素手で出すのは難易度が高い。

 メルクリアスに言ったわけでは無い太一のつぶやきだが、拾われたようで律儀に返事がきた。


「選択肢を限定する理由はないのでな」


 騎士団としてスタンダードな、バックラーよりも少し大きい盾を持ち歩く騎士が多数派ではあるものの、正式装備として用意されている盾の種類は複数あり、各々の騎士が採用する戦法に合った盾を選ぶのだという。

 メルクリアスはそのスタンダードな盾を基本として、バックラーなど複数の盾の使い方を習熟しているのだという。


「なるほど」


 確かにひとつに絞る必要はない。

 選択肢が多い方がいいというのはその通りだからだ。


「身につける技術は、その全てが騎士の命を守るもの。それが限られている、即ち騎士の命がより危険にさらされるということだ」


 その通りである。

 戦場で盾を失う事態は普通にするべき想定だ。

 その状態での模擬戦だったが、メルクリアスはバックラーの技術を応用して太一の掌底を防いだ。

 例えば盾を失った後、運良く見つかった盾がバックラーであっても十分以上に戦えるというのは大きい。バックラーの技術を会得していなければ間に合わせとなってしまい、それを手にすることで余計に戦闘力は落ちてしまう。

 そうなるくらいならいっそのこと盾なしの状態で戦った方がいい、まである。


「騎士とは守る者。騎士が守るためには、まずは己の命を守れなければ話にならぬ」


 国の矛であると同時に盾でもある、それが騎士というものだとメルクリアスは語る。


「しかし、そなたの剣は面白いな。その分だと、拳法も使うのだろう?」


 メルクリアスは興味深げだ。


「まあ、俺に剣を教えてくれた師も、剣に蹴りとかも混ぜますし……」


 太一は剣の刀身をきん、と指で弾いた。


「俺の場合、剣を使わない方が強いんです」

「なるほど……」


 メルクリアスは思わず唸らざるを得なかった。

 どれだけ強大か、いくら見上げてもその天井すら窺えないティアマトを押さえ込んだのが、メルクリアスの目の前にいる少年だ。


「武器が耐えられない、ということだな」

「そういうことです」


 納得した様子で頷く。

 太一が持っている剣は、どちらもメルクリアスの目から見て業物といえた。

 ただし、それらを使う相手は、人間でも勝てる相手に限られてしまうのだろう。


「よく分かった。……ふむ、いったんこの辺りにしておくか」


 メルクリアスは剣を鞘にしまう。


「それでは、我が騎士団を揉んでやって欲しい。何、とことんまでしごいてもらって構わん」

「分かりました。俺も騎士団の剣術を見せてもらいます」

「思う存分盗んでいって欲しい。マルグリッド、今日はここまでだな?」

「はっ。ニシムラ殿は宮廷魔術師たちとの訓練もありますので、この後はそちらに顔を出すことになっております」

「うむ。次に来る時を楽しみにしていよう」

「俺も楽しみにしています」


 太一とメルクリアスは笑顔を浮かべて握手を交わした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ