表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界チート魔術師(マジシャン)  作者: 内田健
五章 北の呪い

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

145/257

十二話

 ミューラ(?)が構えをとる。

 コンビを組むことの多い凛からすれば見慣れた、いつもの構えだ。

 偽ミューラは、特に凛の様子を見ることなく、そのまま接近を開始した。

 凛の出方を窺うことが多いミューラを見慣れているため、即座に動くパターンは珍しい。


(速い!)


 スピードはいつものミューラ。

 凛は、ミューラが動くのとほぼ同時に後退を開始している。

 接近した敵を一時的に凌いで距離を取り直すことを苦にしているわけではない凛だ。

 魔術師としては希有な技術を持つが、接近戦せずに済むならその方がいいに決まっている。

 ミューラの剣の腕はすさまじい。

 一〇代半ばにして、その剣技は騎士を上回るほど。

 この機動力から見るに、恐らくは技量も本物準拠だろう。


「はっ!」


 『水砕弾』を三発。

 偏差射撃だ。

 本物のミューラなら、この程度では足止めにはならない。

 果たしてどうか。


「やっぱり」


 案の定、足止めにはならなかった。

 剣と短剣を操り、一発を避けずに弾く。

 その間も、勢いが弱まることはない。

 回避を前提とした二発目、三発目はあらぬ方向へ飛んでいった。

 これ以上接近を許すのは面白くない。

 凛はもう一歩、砂を強く踏みしめてバックステップ。

 距離を保ったまま、魔術を選択。


『ボールライトニング!』


 雷魔術。

 着弾地点を削り取る。

 巻き込まれればミューラとて無事では済まない一撃。

 殺傷能力が高すぎるため、彼女との訓練ではまず使わない魔術だ。

 ミューラの勢いを弱める、または止めることを期待しての選択だったが。


(……うまい!)


 見事な体捌き。

 ミューラは身のこなしのみで、『ボールライトニング』を掠めるように回避。

 更に距離を詰めにかかった。

 止められない。

 土魔術で杖の先に剣を生み出し、冷気を纏わせる。

 これと『雷神剣』を併用した際は『雷神剣』で受けるダメージに目をつむってでも、土の剣に対処していたのを思い出す。

 この剣の切れ味は、そこそこの業物程度では受け止められないということだ。

 ミューラの剣でさえも、受け止めるのは難しいことだろう。


「くっ」


 強く踏み込んだ地面からざり、と感触が伝わる。

 足場が悪い。

 砂に足を取られると一気に情勢が変わる。

 それにも気をつけなければ。

 剣士として細かい動きになれているミューラの方が、足捌きも上だろう。

 まだ遠い。

 もう少し。

 後コンマ数秒。

 今。


『風人脚!』


 アクト――アクティが、太一と戦えるようになるために使った風属性の強化魔術。

 凛はこの魔術をそこまで習熟していないため、彼女のように操れるわけではない。

 ただし、強化度合いは、当然術者による。

 アクティよりも魔術師としてレベルが上の凛が使えば、当然その速度は彼女よりも上だ。

 ミューラのように剣を操れるわけではない。

 だからこそ、スペックに任せた強引な一撃を、偽ミューラの虚を突く間合いと速度で。

 凛にも当然リスクはある。

 ミューラという、良い腕だと分かっている剣士の間合いに自分から飛び込んでいくというリスクが。

 それでも。

 ただ間合いを取っているだけでは解決しない問題がそこにあった。


「はっ!」


 リスクは怖いが、飛び込まなければ。

 気合い一閃。

 えい、と心の中で叫びながら地面を蹴る。

 すれ違いざま、剣ごと斬るつもりで。

 凛のすさまじい速度に、偽ミューラは止まることもできていない。

 だが、それは反応できていない、ということではなかった。


(……『赤蓮』か!)


 迫る凛の一撃を、ギリギリ間に合った魔術剣が受け止め、逸らした。

 なるほど、魔術剣ならば受け止められるのか。

 威力を加減した覚えはない。

 それでも受けられるのだ。

 さすがは、ミューラの奥の手である。

 しかし、凛もただで転ぶようなタマではない。

 『赤蓮』を見た瞬間に、次の手を用意していた。


『ファイアボール!』


 くるりと反転、アンダースローで火の球を投げつける。

 偽ミューラもまた、同じ魔術でそれを迎撃。

 二人のちょうど真ん中で炸裂。

 実力ある魔術師同士の撃ち合い。

 当然威力も並ではなく、爆風に両者が後じさった。

 黒煙が晴れる。

 飛び込んできたら罠にかけてやろうと準備していたが、案の定、偽ミューラは飛び込んで来なかった。

 どうやら、思考回路もある程度本人に近いようだ。

 ミューラの剣を見る。

 わずかにだが、刃が欠けているように見える。

 打ち合えても、威力の相殺はしきれなかったようだ。

 今の攻防、わずかながらに凛が上回った。


「この調子で続けるのは、ちょっとしんどいなぁ……」


 工夫を凝らして、得た戦果が剣を欠けさせただけ。

 同じ手は連続で使ってもミューラには届かない。色々準備を整えなければ。

 ミューラの全力を、凛は知らない。

 見たことはある。

 素晴らしいとも思う。

 しかし、実際に知っているわけではない。

 全力のミューラが、凛に向かってきたことはないからだ。

 と、同時に。


「……ま、私も、ミューラに対して全力で行ったことはないからね」


 訓練の時は、本気ではあった。限られた力の範囲で、レギュレーションを設定して。

 今は、違う。

 凛としても、掛け値なしの全力をミューラに見せるのは、これが初めてである。

 そもそも、対人戦で相手を殺しかねない攻撃など滅多にしない凛。

 良く見知った少女とうり二つなので抵抗感は残るが、精霊がわざわざ偽物・・と断言するのだ。

 今ここに限っては、心のブレーキを取っ払ってもいいだろう。

 それに……。


「偽物に、ミューラの本当の強さがあるもんか!」


 彼女の強さを、その本質まで真似できるはずがない。

 楽観的な思考ではない。その可能性もちゃんと視野には入れてある。

 ただ、自分を奮い立たせるためにそう叫んだ。

 想いを魔術に変換するイメージ。

 偽ミューラは応戦の構え。

 決着までは、そう長くはないだろう。






 太一の目の前では、怪獣大決戦が繰り広げられている。

 海に潜るのを邪魔するリヴァイアサンを退けようとするティアマト。

 海に潜らせるわけにはいかないリヴァイアサン。

 両者の激突は陸上、海上、陸上と場所を変え、今も続いている。


『ぐうぅっ』


 リヴァイアサンの遠心力が効いた尾の回転攻撃。

 強かにティアマトのボディを打ち据え、怯ませた。

 強大な一撃に、衝撃が見えるかのようだ。


『……えぇい! しつこい男たち!!』

『なんとでもいうがいい、ティアマト!』


 優勢なのは、リヴァイアサンである。

 反対に、ティアマトは動きにやや精彩を欠いていた。

 その理由は明快。

 リヴァイアサンの後ろに控える太一が理由だ。

 太一が最初に見せた土魔法の一撃。

 そして、時折放っている風魔法の牽制弾。

 何の変哲も無い風の塊が、島にそびえていた標高五〇〇メートルの山を、一発で消し飛ばした。

 竜種としては間違いなく最強クラスであるリヴァイアサンとティアマトをもってして、あれは耐えきれるものではないと本能が訴える。

 特にティアマトは、初撃の土魔法が、手加減された上での一撃だったと思い知ったのだ。

 反対にリヴァイアサンは、それだけの力を持つ太一が味方であることで、ティアマトの足止めがこれ以上ないほどうまくいっていた。


「……」


 油断なく、両竜の戦いを見つめながら、太一は現状を分析する。

 ティアマトからは、焦りが見える。

 呪いの影響か、一刻も早くこの領域を離脱して海底神殿に向かいたいのだろう。

 しかし今のところそれはリヴァイアサンと太一が阻止できている。

 太一としては、少々うまくないと感じていた。

 ティアマトの焦りが、時間が経つごとに増しているようだ。

 焦りが頂点に達した時、それがうまく物事を運べないことへの憤りに変わり、そして突拍子もない行動につながることは十分に考えられるからだ。

 もしも完全に潜られた場合。

 海中の相手への攻撃力は、おおよそ七割は減ると考えた方がいいと、シルフィやミィからは言われている。

 止められるかどうかは未知数。

 激減した太一の攻撃でも、ある程度の浅いところまでならティアマトへダメージは通るというのが精霊たちの見解だ。

 が、もしもそれを無視して進まれた場合。

 深度が増すほどに攻撃力が減り、やがては完全に相手にされなくなるということだ。

 ウンディーネと契約出来ていれば、力を複合して使うことでシルフィやミィも、海中で十分な戦闘力が得られるというのだが。


「まさに、鶏が先か卵が先か……ってやつだよなぁ」


 ティアマトを止めるには、リヴァイアサンの力が必要だ。

 ティアマトを止めるのが、リヴァイアサンの力を得るために必要なことだ。

 今はティアマトを圧倒できているが、それも条件付き故だった。

 まあ、それは分かっていたことだった。

 呪い解除の妨害を最優先に動こうとするティアマト。

 それを阻止し続ければ、相手が焦るのは十分考えられる推移だ。

 そんなとき、恐れていたことがやってきた。

 やおら、ティアマトが魔力を急激に増大させた。

 ブレスの準備に入ったようだ。

 何をしでかすか分かったものではない。

 リヴァイアサンが妨害に入る。

 太一もまた、妨害のために動く。

 ティアマトの動きに即応できる準備は整っていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ