帝国立魔術師養成学園の騎士候補生 二十四
豪奢な漆黒のドレスに身を包んでいる。その背は太一はもちろん、凛やミューラよりも低い。けれども背の高さや性別など、まるで関係のないことである。
「……っ」
知らず、太一は息を呑んでいた。
彼女がどのような存在なのかが分かったためだ。
理屈を説明しろと言われても難しい。
しいて言えば、太一が召喚術師だから、というところか。
「精……霊……?」
太一の言葉を聞いて、黒髪の女は口の端をわずかに上げる。
それが笑みであると理解するのに一拍の間が必要だった。
忘れそうになる呼吸を意識してしなければならかった。
「ふふ。さすがに分かるようだね。君が、召喚術師であればこそだ」
右の髪を耳にかける仕草。
面立ちがより明確になる。
彼女は胸の下で軽く腕を重ねると。
「君が言うとおり、私は精霊さ。闇の精霊……そうだな、シェイド、とでも名乗っておこうか」
闇の精霊、シェイド。
よくプレイしていたゲームにでてきた闇精霊もシェイドだったと、太一の記憶の片隅が告げる。
「ふふ。人間の一部は私のことを魔王だなんて呼んでいるようだけれどね。闇だからかな?」
そんなことを呟き一人頷いているシェイド。
泰然とした雰囲気。強大な力。圧倒的な存在感。確かに魔王という言葉が似合うと、太一は正直に感じていた。
「まあ……私にとっては、名前は意味をなさないのさ。君が契約しているシルフィードやノーミードとは違ってね」
「…………コミュニケーションを取るための、便宜上の名前、ってか?」
「ほう。素晴らしいね」
明らかな上から目線ではあるが、彼女の称賛は心からのものだと太一は疑わなかった。
シェイドが上から目線であることに不満は全くない。どれだけ離れているのか、その距離さえも見えないほどに力の差を感じるのだから。
「理解が速いのもそうだし、この私を前にして、はっきりと言葉を紡げるのも立派なものだ」
「それは、どうも……」
気は抜けない。けれども、戦闘態勢を取る気にもなれない。敵わないのは分かっていたし、逃げられるとも思わなかった。
シェイドから戦意を全く感じないからこそ、こうしていられるといっても過言ではない。
「せっかくこうして会ったんだ。個人的には友好を深めたいところだが、今回はさっそく本題に入らせてもらおうかね」
君が今よりも強くなって余裕を持てるようになるまで、友好を深めるのはお預けだよ――シェイドはそう言った。
背中を伝う嫌な汗が止まらない。
彼女の提案は、太一にとっては願ったりだった。
「まずは、私からある程度の情報を開陳しよう。そうでなくては質問もできないだろうからね。ああ、アルガティに勝利したご褒美はきちんとあるからね。それでいいね?」
太一は一も二もなく頷いた。
今はまだ、異論を訴えられるだけのものが、太一にはなかった。
「私はこの世界の管理者を務めている。私はこの世界に存在するあまねくすべてを平等に愛している。だから、目的はもちろん、この世界の存続だよ」
「今回私が出てきたのは、君が条件を達成したからだね」
「その条件というのは、万全でないとはいえ私の右腕といえるアルガティを退けたからさ」
「正直、ノーミードと契約しただけでは、アルガティを退けられないと考えていたんだ。あそこまで戦えるようになる確率は低いと思っていたよ。私の想像のだいぶ上を行ってくれたね」
「君は順調に成長してくれている。だから、君にアルティアを守るために手伝ってもらうことを正式に決めることができた」
「それをアルガティの口から言わせるのはさすがに、と思ったわけだよ」
何が思ったわけだよ、だ。
そう思わずにはいられなかった太一だったが、それを口にすることはできなかった。
シェイドの話は理不尽極まりなかった。
太一の意思や都合はまるっと無視した挙句、凛まで巻き込んでいるのだから。
だが……その理不尽に文句を言うことができない。
世の中は得てして理不尽なものだと、誰かが言っていたのを聞いた記憶がある。
それに、太一とて得られたチート能力にものを言わせ、他者に対して理不尽をふりまいてきたのは否定のしようがない。
例えば戦った相手。人、魔物、ドラゴン、精霊の全てに対してだったり。
エリステイン魔法王国の国王ジルマールに対してだったり。
ガルゲン帝国の皇帝に対してだったり。
三大大国の国王や皇帝に対して、表面上はどうあれ実質上は立場が上だった。ただの冒険者がそのように接することができる相手ではないのに。
理不尽が、更なる理不尽に押さえつけられた。
言葉にしてしまえば、たったそれだけのこと。
どの口が言うんだ、と。太一が自分自身に対してそう思ってしまったのも事実だった。
それに、気になることもあった。
アルティアを守るためという言葉だ。
「君を召喚させて本当に良かった。戦力は万全にしておきたかったからね。君には、ウンディーネとサラマンダーとも契約してもらって、更に強くなってもらう必要がある」
召喚させた。
つまり……シャルロットが召喚魔法を使用したのは、どのような伝達手段であったにせよ、元をたどればシェイドの差し金ということだ。
「うん。これだけ言われてはらわた煮えくりかえっているはずなのに、激昂しない。その自制心にも見るべきところがあるね」
シェイドはうんうんと頷くと、その表情を申し訳なさそうなものに変えた。
「信じてもらわなくて結構だけれど、君と、君のお友達を巻き込んだことについては申し訳なく思っているよ」
確かに信じることは難しい。
「けれども。アルティアを脅威から守る。そのためには、それが有効な手ならばどのようなことであろうとも、どのように思われようともやり遂げると決めているんだ。遠慮や配慮をしていては、守れないと分かったのでね」
「その脅威については、君がウンディーネとサラマンダーとの契約が成されたときに改めて話をしよう。そうそうすぐ危機に陥るわけではない。けれども、あまり悠長に構えていられるわけではない。それだけは理解しておいてほしい」
「アルティアが滅ぶと分かっていて、放っておけるような状況でもないだろう?」
手のひらで転がされるのは非常に気に食わないが、シェイドの言うとおりであった。
太一も凛も少なからずこの世界の住人と友誼を結んでいる。
ミューラとレミーアはその筆頭。もちろん彼女たちだけではない。その人々に災厄が降りかかると分かっていて、放置はできない。
それに。外聞をいっさい気にすることなく、目的を達成するために一直線にまい進すると宣言された。そのような者は強い。戦闘力とかそういったことではなく、とても強い
太一は頷いた。
癪であるというのは正直な気持ちだが、同時にただ座視していることはできないというのもまた正直な気持ちだった。
「分かってくれてうれしいよ。それじゃあ、アルガティに勝利したご褒美の話に入ろうか」
アルガティは、勝利の報酬は主から、と言っていた。
それは約束通り履行されるようだ。
彼女が嘘を言っているわけではないというのは、太一はなんとなく理解していた。
与える情報をしぼることはあるだろう。
けれども、嘘ではない。
シェイドの話の表現をかえれば、やがて訪れる危機に困窮して頼ったのが太一ということである。
つまり、太一という戦力がなくなるのは惜しいはずだ。
そのような相手に対して嘘だけは言わないだろう。
それに、シェイドのような強者が、太一程度に嘘をついてけむに巻く必要などない。
もっといえば、今この時、姿を見せる必要さえなかったはずなのだ。右腕であるというアルガティに言わせればよかったのだから。
世界の危機。これを嘘と断じて、実際は嘘でなかった場合。気付いた時には取り返しがつかないのではないか。
シルフィードとノーミードの力を得た太一からみても、勝負にすらならないと思わせるシェイドほどの強者をして危機と断言するのだ。尋常ではない事態だというのは想像できる。
そう考えたからこそ、思うところは多々あれど、太一はシェイドの言葉を本当だと判断したのだった。
そしてもしもだが、シェイドの言葉が嘘だった場合。世界に危機が訪れないということになる。謀られた太一は割を食うが、危機が訪れないのならばそれはそれで問題ないのではないか、とみることもできると気付いたのだ。
「アルガティが君の元を訪れた理由だけれど。君が二柱目の精霊と契約できそうになったら行かせると決めていたんだ。一柱だけでは抗えない敵に対して、二柱目との契約を促すために。そして、二柱の力を得ることで、どれだけアルガティに迫れるかを見るためにね。勝てる可能性は低く見積もっていたから、君は見事に私たちの見立てを覆してくれたよ」
やはり試されていたようだ。
太一が一度倒れた時にとどめを刺されなかった理由も、それならばわかる。
「登場のタイミングはあの子に任せたんだ。大方、こうして誰もいないところに釣り出しやすい場所でっていうのと、後顧の憂いが小さくなるのを待っていたんじゃないかな。君が戦いに集中できるようにね」
なるほど。
太一は一つ頷いた。
突然ではあったが、太一より高い位置にいる彼らに、太一を慮る理由はない。むしろ、一通りの事件がある程度片付いてから手を出してきたことを考えれば、アルガティなりに太一の事情を斟酌したといえるだろう。
完全に納得できるわけではない。重ねて言うが、太一に異を唱えられるだけの力がないので仕方がない。
「さて。アルガティに勝った君には、もう一つ情報を開示しようじゃないか」
そういって人差し指を立てるシェイド。
「君は、レージャ教の顔が一つではないことを知っているね?」
シェイドの問いに、太一は頷いた。
ドルトエスハイムの死に際の言葉。そこで、ジルマールに忠告した。レージャ教に気をつけろ、と。
その話を、内乱が終結した後の会談にてジルマールより聞いている。
太一としては、宗教が複数の顔を持っていることを特に不思議には思わないのだが。
「表の顔が見せるのは、他者を救済しようという素晴らしい面だ。実際に救われている者も多数いるのは間違いない」
レージャ教がそのような宗教であることは太一も知っている。
実際に多数の結果を出していることも。
「もう一つ、裏の顔。それらは私の手足となり動く実働部隊だよ」
「……」
驚いた。
だが、それほど大きいものではなかった。
話の流れから、そうなるのではないかと予想ができていた。
「彼らには様々な動きをしてもらっている。この世界を救うためにね。そしてその中には、君の力を試し、向上させるための試練も含まれる」
ぴん、と、一つの線でつながった。
太一の脳裏に浮かんだのは、ジルマールから伝えられたドルトエスハイムの忠告。イニミークスがレージャ教と繋がっていたのではなかったか。
そして。
イニミークスは。
何をしたか。
「血みどろの狂想曲は……!」
「そう、私の差し金だよ」
「っ!!」
シルフィの力を得なければ鎮圧できなかったあの悪夢。
レングストラット城を襲った悪夢。
その引き金となった血みどろの狂想曲は、目の前の精霊が引き起こしたものだという。
「もちろん、私にとって必要だったから起こしたことだ。それによって生まれた犠牲も、必要なものだったんだよ」
納得など誰ができるのか。
けれども、必要なことだったというのを、冷静に理解しようとする自分が内側にいることに、太一は愕然とした。
ただ犠牲を出すだけならば、血みどろの狂想曲をそれこそ同時多発テロのように世界中で起こせばよいだけの話だ。
けれども、実際はそうではない。
太一がいる時に起きたのが一度。それ以前に起きたのは、太一が知る限り二〇〇年前のガルゲン帝国とシカトリス皇国の戦争時のみ。
「更に言えば、君がかつて戦った紅く変異した魔物は、血みどろの狂想曲に連なるものだよ。これもまた、必要だった」
「人が死んだんだぞ……!」
太一の怒りは当然のものだった。その犠牲になった者たちの悲しみや苦しみの一端に触れたからこそのもの。
それに対して、シェイドは表情をわずかほども動かさなかった。
「私は最初に、この世界すべてを平等に愛している、と言ったね?」
話を逸らされた様に感じた。
けれども、彼女の瞳には後ろめたさといった感情が一切見られず、はぐらかされているわけではないことを悟る。
シェイドが間違いなくそう言ったことは覚えていたため、彼女の言葉を肯定する。
「そう。平等なんだよ。君は魔物の犠牲については何も言わず、人の死だけを取り上げた。魔物の犠牲はよくて、人間の犠牲がいけない理由はなんだい?」
そう、諭すように言われ。
太一は次の言葉を封じられた。
「魔物だって生きている。番を持ち、子を育て、この世界に生きている存在だ。この世界に生きているんだから、魔物も私にとっては愛すべき存在なんだよ」
なんと言おうか。
次の言葉を探している太一に頓着することなく、シェイドは言葉を続ける。
「魔物は確かに人間を喰らう。人間は身を守るために魔物を倒さなければならない。人間にとって敵だというのも理解できる。けれども魔物だって、生きるために人間を襲っているに過ぎない。殺しに来るから返り討ちにしているに過ぎない。魔物からすれば、命を奪いに来る人間は敵だよ」
その通りである。本能に従って生きている。魔物にとって、人間は糧の一選択肢。それを言ってしまえば、人間だって動物を狩って肉を糧にしている。シェイドがそれをあげつらわなかったのは、彼女の慈悲か。
「君に、君たちに見せていないだけでね。アルティア存続のために、私は精霊も犠牲にしているよ。そうしないと守れないんだ。犠牲がない方がいいのは間違いないから、分かってくれなんて言うつもりはない。けれど、人間の犠牲だけが許されない、という論理は、私は承服しかねるよ」
納得はできない。
けれども、反論もできない。
太一は自分の意見が間違っているとは思っていない。
ただ。
シェイドの言葉を否定できる要素はない。彼女は「必要だから同族の精霊も犠牲にしている」と言った。平等という言葉は間違っていないのだ。良くも悪くも。
「まあ、私の行動の是非について誰かと論じる気はないから、ここまでにして話を戻そうか」
話を戻そうというシェイドの態度はあっさりとしたものだった。
その態度が、逆にこれ以上何も言わせる気はないし聞く気はないという意志表示となっていた。
太一も努力をして頭を切り替える。彼女は太一に頓着せずに話を続けるだろう。かっとなった頭では、シェイドの言葉を聞き逃す。凛のような頭を持っていないからこそ、理解するためにはより集中する必要があった。
「先ほど、レージャ教の裏の顔が私の手足であることは説明したね? 学園で起きたことについてもレージャ教の仕業なんだけれど、これは私の手足によるものじゃあない」
「…………?」
一瞬思考が止まる。
辛うじて動いている方の思考が、頭を切り替えて良かったと安堵していた。
「レージャ教の裏も一枚岩じゃなくてね。裏切り者がいるんだよ。学園のことについては、その裏切り者がガルゲン帝国の力を削ぐために、ひいてはアルティアそのものの力を削るために起こしたことだ」
「……」
レージャ教の裏の顔がシェイドの手足。そしてそこから裏切り者が出た。その経緯はともかく、結論から言えば。
顔に出ていたのだろう、シェイドは苦笑した。
「君の想像通り、私の管理不届きだよ。理由はどうあれ、そのような評価になるのも当然だね」
一応、理由はあるのだろう。ただシェイドは己に非があることを否定しなかった。
「私の気付かないところで、唆されて裏切らされた、というのが正確なところかな。もっとも、口車に乗って裏切るのだから、心のどこかでそう思っていた節があるのは間違いないのだろうけれどね」
シェイドはそう言って少しだけ笑う。
けれども、太一にとっては笑えなかった。
そこに一つの要点があるように感じたからだ。
「君は勘もいいね。その通り、大事なのは口車に乗せたのは誰か、なんだよ」
太一の予想を、シェイドは肯定した。
「この世界が、一枚の板の上にあると思い浮かべてくれるかな?」
いわゆる天動説のようなものか。
天動説から地動説になった。詳しくは知らないが、そうなったことだけは知っている。そして、それを知っているというのは、この場合はとても大きかった。
「うん。その板の裏には、もう一つ世界がある」
「……え?」
そういうつながりになると思っていなかった太一は、思わず声をあげた。
「その裏にある世界はセルティアというんだ。アルティアとセルティア。表裏一体なんだ」
まだはっきりとした明言はない。が。
これだけ聞かされれば、推測していくのは難しい話ではない。
つまり、口車に乗せたのは。
危機に陥っている原因は。
「そう。レージャ教の裏の一部を唆したのはセルティアからの刺客。何故そんなことをしているのかといえば、侵略する相手が弱体化している方がやりやすいから、という戦略に基づいてだね。ま、別に不思議でもなんでもない作戦さ。やられた方はたまったもんじゃないけれどね」
「…………」
セルティアの話など聞いたこともなかった。
ずっとアルティアだけなのだと思っていた。
まさか、世界の裏という概念がありその裏にも世界があるなんて、思いもしなかったのだ。
「私は精霊を犠牲にしていると言ったね。けれども、その犠牲の仕方は、力を無理やり奪い取る、というものじゃない。レングストラット城の土精霊について、やったのは裏切り者たちだよ」
何度驚けばいいのだろうか。情報が多すぎる。
得られた情報によって感情が激しく上下して、精神的な疲労も加速度的に溜まって行く。
話についていくだけで精いっぱいだ。
「セルティアは本来は敵じゃあない。けれども、今のセルティアはアルティアを侵略しようとしている。敵じゃあないけれど、奪われないためには抵抗して勝つしかない。私が犠牲を出しているのも、君を召喚させたのも、そのためなんだよ」
そう話を結び、シェイドは口を閉じた。
それ以上の言葉はない。彼女の話はこれで終わりのようだ。
本当はいくつも質問すべきなのだろう。
現に聞きたいことはたくさんある。
けれども、今はその時ではないとも思う。
何より、これ以上情報を与えられても、太一の頭では処理しきれない。
思考が焼き切れそうだった。
「ふむ。強制とはいえ君には協力してもらうのだから、私としては更に情報を開示することはやぶさかじゃない。ただ、今はこれで止めておいた方が良さそうだ。せっかく話したのに、理解してもらえないというのでは意味がないからね」
太一の理解が追い付いていないのを悟ったシェイドが話の打ち切りを宣言した。
「伝えるべき情報はまだ残ってる。次に会う時に、続きを話すことにしよう。ああ、そうそう。この話を他の誰かにするのは構わないよ。けれど、相手は選んだ方がいいね。……その意味は、自分で考えてみることだ」
それだけ言うと、シェイドは踵を返し、その身体を闇に包み始めた。
どうやら彼女はここから退散するらしい。その気になればすぐに全身を包むことができるだろうに、そうしないのは太一からの質問を受ける猶予か。
太一としてもいくつも質問はできない。質問した分だけ増える情報の処理ができないからだ。
ならば、明確な答えが返ってくる質問を。答えが分かりやすい質問を。
焦りながらも考え、質問を決めた。
「闇の精霊シェイド! 一つだけ聞きたい!」
「なんだい?」
シェイドは肩越しに振り向き、横目で太一を見やる。
質問を待っていたのは間違いなさそうである。
「俺たちにとって、敵なのか、味方なのか! それだけ教えてくれ!」
太一としては、話を聞く限り味方だとは思えない。
だが、だからといって敵対は間違ってもしたくはない。
勝てないと分かっている相手に勝負を挑まなければならないなどまっぴらごめんだった。
「……ふふ。君は私を味方だとは思えないだろうね。それで構わない。君からすれば私は無茶苦茶やっているだろうからね。ただ、私は君たちを協力者、味方だと思っている。敵対などみじんも考えちゃいない。それだけは間違いないと宣言しよう」
太一の質問にそう答えると、シェイドの闇が加速度的に濃く、大きくなっていく。
「次会う時を楽しみにしているよ。ますます強くなってくれ」
シェイドを完全に闇が包んだ。
太一の上背の数倍はあるかという闇が一瞬にして霧散する。
そこには、シェイドの姿はどこにもなかった。
「……はぁ~」
シェイドの気配は何一つ感じない。太一は大きなため息をついた。
納得できるところもあった。
理解できるところもあった。
逆に納得も理解もできないところもあった。
ただ一つ言えるのは、敵対しないと分かって確かに安堵している自分がいることだった。
「どうすんだよ、これ……」
太一一人では持て余す。間違いなく自分だけで抱え込めるものではない。
すぐにでも凛とミューラに、そしてレミーアに相談したいところであった。
「……戻るか」
自分自身だけで処理できないのならば棚上げするしかない。
太一はコロシアムに向けて戻るのだった。
2019/07/17追記
書籍に合わせて、奏⇒凛に名前を変更します。




