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憧れのその先で  作者: ハイカラな人


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5/6

光の代わりではなく

告知は、当然のように最悪の反応を呼んだ。


『あの偽物がまだ出てくるのか』

『承認欲求すご』

『被害者面するな』

『光を利用して売れたいだけ』


 言葉は全部読んだ。


 読む必要はなかった。

 だが、目を逸らしたくなかった。

 自分が何から逃げずに立とうとしているのか、それを正確に知っておきたかった。


 会場は大きくなかった。

 チケットも満席ではない。

 だが、それでよかった。


 これは、光の代替公演ではない。

 話題性で膨らんだ炎上を回収する場所でもない。

 言葉が、言葉自身として初めて立つステージだった。


 幕はない。

 幻もない。

 顔も隠さない。


 照明が上がる。

 客席のざわめき。

 好奇。疑い。敵意。

 全部届く。


 マイクを握った手が震える。


「今日は来てくれて、ありがとうございます」


 最初の一言は、思ったより静かに出た。


「最初に、隠していたことを話します」


 会場が、しんとする。


「私はこれまで、光さんの代役としてステージに立っていました。事故のあと、本人の依頼と運営の判断で、顔を隠したままライブを続けていました」

「騙されたと思う人がいるのは当然です。怒っている人がいるのも当然です」

「だからこれは、弁解のために話すんじゃありません」


 言葉は一度、息を吸う。


「誰かの理想を背負わされて、壊れていく苦しさがあることを、私は見落としていました」

「完璧でいなきゃいけない、期待に応え続けなきゃいけない、弱さを見せたら終わる――そうやって追い詰められて、壊れてしまう人がいる」

「私はその人を救いたくて代わりをやっていました。でも実際には、私もまた“完璧な誰か”をなぞることにしがみついて、自分を消していました」


 客席の空気が、少しずつ変わっていく。


 許しではない。

 美談化でもない。

 ただ、聞こうとしている気配。


 それだけで十分だった。


「だから今日は、光の代わりではなく、私として歌います」


 イントロが鳴る。


 それは光の曲ではなかった。

 言葉が初めて選んだ、自分のための曲。


 技術的には洗練されていない。

 ダンスも、光ほど緻密ではない。

 動きに迷いが出る瞬間もある。

 息も乱れる。


 だが、誤魔化さなかった。


 届かない高さは届かないまま歌った。

 震える足は震えるまま踏みしめた。

 完璧な偶像の輪郭ではなく、生身の体温を、そのまま差し出す。


 歌いながら、言葉は知る。


 模倣ではなく、自分の声で立つということは、守られていないということだ。

 ごまかしが利かない。

 比較される。

 足りなさが露出する。


 それでも。


 やっと、息ができた。


 一曲目の終わり。

 拍手は、まばらだった。


 だが、確かにあった。


 二曲目では、少し増えた。

 三曲目の最後、前方の客席で泣いている人がいた。


 それが自分のためか。

 光のためか。

 あるいは、その人自身の何かが重なっただけか。


 わからない。


 だが、届くというのは、たぶん、そういうことでいい。

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