光の代わりではなく
告知は、当然のように最悪の反応を呼んだ。
『あの偽物がまだ出てくるのか』
『承認欲求すご』
『被害者面するな』
『光を利用して売れたいだけ』
言葉は全部読んだ。
読む必要はなかった。
だが、目を逸らしたくなかった。
自分が何から逃げずに立とうとしているのか、それを正確に知っておきたかった。
会場は大きくなかった。
チケットも満席ではない。
だが、それでよかった。
これは、光の代替公演ではない。
話題性で膨らんだ炎上を回収する場所でもない。
言葉が、言葉自身として初めて立つステージだった。
幕はない。
幻もない。
顔も隠さない。
照明が上がる。
客席のざわめき。
好奇。疑い。敵意。
全部届く。
マイクを握った手が震える。
「今日は来てくれて、ありがとうございます」
最初の一言は、思ったより静かに出た。
「最初に、隠していたことを話します」
会場が、しんとする。
「私はこれまで、光さんの代役としてステージに立っていました。事故のあと、本人の依頼と運営の判断で、顔を隠したままライブを続けていました」
「騙されたと思う人がいるのは当然です。怒っている人がいるのも当然です」
「だからこれは、弁解のために話すんじゃありません」
言葉は一度、息を吸う。
「誰かの理想を背負わされて、壊れていく苦しさがあることを、私は見落としていました」
「完璧でいなきゃいけない、期待に応え続けなきゃいけない、弱さを見せたら終わる――そうやって追い詰められて、壊れてしまう人がいる」
「私はその人を救いたくて代わりをやっていました。でも実際には、私もまた“完璧な誰か”をなぞることにしがみついて、自分を消していました」
客席の空気が、少しずつ変わっていく。
許しではない。
美談化でもない。
ただ、聞こうとしている気配。
それだけで十分だった。
「だから今日は、光の代わりではなく、私として歌います」
イントロが鳴る。
それは光の曲ではなかった。
言葉が初めて選んだ、自分のための曲。
技術的には洗練されていない。
ダンスも、光ほど緻密ではない。
動きに迷いが出る瞬間もある。
息も乱れる。
だが、誤魔化さなかった。
届かない高さは届かないまま歌った。
震える足は震えるまま踏みしめた。
完璧な偶像の輪郭ではなく、生身の体温を、そのまま差し出す。
歌いながら、言葉は知る。
模倣ではなく、自分の声で立つということは、守られていないということだ。
ごまかしが利かない。
比較される。
足りなさが露出する。
それでも。
やっと、息ができた。
一曲目の終わり。
拍手は、まばらだった。
だが、確かにあった。
二曲目では、少し増えた。
三曲目の最後、前方の客席で泣いている人がいた。
それが自分のためか。
光のためか。
あるいは、その人自身の何かが重なっただけか。
わからない。
だが、届くというのは、たぶん、そういうことでいい。




