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131話: エリオ君のお家訪問! ⑧

「……本当に、するんですか?」

「うん、無理言ってごめんね。お願い」


 戻ってきたエリオ君と昼食を食べた後、俺は帰る前にやりたい事を一つ伝え、お願いをした。


 ◇


「すごい沢山本があるね、図書館みたい」

「書庫、ですからね……あの、本当にお一人でここに?」


 エリオ君に連れてきてもらったのはこのお屋敷の書庫。かつてルカが封印されていたその場所だった。


「うん、約束の時間になったら開けてくれる?」

「……先輩がこんな事する必要は……いえ、わかりました。ですが何かあったらすぐに連絡してくださいね」


 そう言って心配そうにこちらを見つめながら、エリオ君は書庫の扉を閉める。外からの光が遮られると、中にある小さなランプだけが周囲を照らしている空間は狭いのか広いのかよくわからなくなった。


 (……ここに、ルカはいたんだよね)


 結界を張られて閉じ込められて、たった1人でずっと。

 ここにはもう結界はないけれど、俺はこの屋敷の扉を開く事ができないから、時間が来るまではずっとここに1人だ。

 こんな事で当時のルカの気持ちが理解できるとは思っていない。だけど、この屋敷に来て俺は改めてルカの事を知りたいと思った。ルカとはよく話すけど、過去の話とかは変に刺激してしまわないか心配でできない。だからまずはこういう所から知っていこうと思う。


 (周りの音がなくて、寂しい場所だな……)


 静かだから、自然と考え事をしてしまう。

 思い出すのはこの間の学園演劇の事。暴走したルカの魔力はとんでもない大きさで、一歩間違えたら悲惨な事になったのは想像に難くない。規格外の暴力的なまでの魔力。邪竜が恐れられているのはきっとこういう所だというのは嫌でも理解できてしまう。

 だけど、同時にルカはその暴走に苦しんで怯えている様に見えた。暴走のきっかけはわからないけど、あの時のルカは酷いショック状態だったから。


 (きっと凄く怖かったんだよね)


 いくら力が強くても、心までそうとは限らない。

 ずっとずっとひとりぼっちで、優しい人からも拒絶されていたルカに俺は少しでも寄り添いたかった。 

 ルカの境遇とは比べものにならないけど、俺も過去に魔力暴走の経験があるし、邪竜とは違うけど、夢魔として偏見の色眼鏡をかけられているからその苦しさは少しだけわかる。


 (……だけど、俺にはクロードがいてくれたから)


 そんな苦しくて怖い中で俺が今まで進んで来れたのはずっと一緒にいてくれるクロードの存在が大きかった。同じ秘密を守って支えてくれる相手がいるだけで、世界はすこし生きやすくなる事を俺は知っている。


 (だから、俺はルカにとってのクロードになりたい)


 勝手に自分の境遇と重ねているだけかもしれないし、物凄いエゴかもしれない。だけど、俺はどうしてもルカの事を放っておけないし、未だ心の中の一番大切なところにある記憶の情景をいつかルカにも見せてあげたいと思ってしまった。

 竜族の人や、世界を変える事は俺にはできないけど、1人じゃないよって側にいることはできるから。ルカが今より少し生きやすくなるように、その手助けができたらいいと思った。


「先輩、時間になりました」

「ありがとうエリオ君、そろそろ帰ろっか」


 書庫の扉が開き、外の光が入ってくる。ずっと薄暗いところにいたから、その眩しさで少し目が眩んだ。


 (ルカも、初めて出た時に同じ物を見たのかな)


 どうか、この先、光に包まれた道をルカが歩けますように。

 そんな祈りを胸に俺は書庫を後にした。


 ◇


「そうだ!帰る前に一回詠唱見てくれない?」

「いいですよ」


 今日の練習の成果を見てもらうため俺達は詠唱の部屋の扉を開いた。


「じゃあ、やるね」


 深く息を吸い、口を開く。

 言葉の流れに沿って、丁寧に魔力を流して炎をイメージする。まだ、完璧にはできないけど、それでも今できる、教えてもらった事を精一杯込めて最後の言葉を口にした。


「どう、かな?」

「今までで、一番良かったと思います。声と魔力のバランスがよく取れていました」


 掌に浮かぶ炎に照らされた部屋は一瞬だけど綺麗な春薔薇色に染まっていた。


 あとはこの感覚を忘れずに反復してくださいと続ける言葉には一切のお世辞がない。魔法に真摯なエリオ君からの言葉だからこそ、俺はこの二日間で少しだけ詠唱が上達した事を実感できた。


「ありがとう!エリオ君のおかげでコツ掴めた気がする」


 そう言って俺はエリオ君に手を伸ばす。


「あのね、良かったらまた学校でも魔法教えてくれないかな?」

「!……っ、勿論です。任せてください」


 少し間を置いて握り返された手からは、軽くなった手袋越しに前よりもはっきりと温かい体温が伝わってくる。


「ありがとう。頼りにしてるね」

「……っ、はい!」


 目の前の緑の瞳が優しく細まる。

 このお屋敷で俺はルカのことだけじゃなく、エリオ君の事も改めて知ることができた。漠然と凄い後輩というのではなく、事実として真摯に重ねた努力を知れたのはとても嬉しい。エリオ君は自分からそういう事を言わないだろうからこれはとても大事な機会だったと思う。


 (俺もまずは、自分にできる事を一個一個やっていこう)


 今の俺はまだ、出来ることが少ない。

 ルカの事にしろ、将来の事にしろ、何をするにも力不足だと思う。だからこそ、こうやって少しずつでもやれる事を増やしていきたい。

 そしていつか、目の前で優しく笑う、彼のようになれたらいいな。なんて少し高すぎる目標と穏やかな尊敬の気持ちを抱きながら、俺達はお屋敷を後にした。

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