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ミシハセ  作者: 金子よしふみ
第四章

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詳しく尋ねる

 シミュレーションゲームのタイトル、それが「ミシハセ」と言う名と知った。妖怪ミシハセが人から搾取し統治する土地を奪還する、という展開らしい。

 道井が知らないだけだが、作屋守とてこれまでの人生の中でゲームに触れて来なかったというわけではない。在学中、友人やクラスメートたちに比べれば、薄味なのは、間違いはない。ドはまりしたこともなければ、親にゲーム機をねだったこともない。友人が「話題作! 絶対面白い」とまで言いながら手持ちがないと嘆いた時に、そこまでこいつが言っているのなら、と少し身銭を切ってプレイさせてもらったことがある。それは対戦型ゲームで、そういう系統に慣れたその友人が「作屋、今までやってなかって嘘だろ」とお手並みを驚くくらいの腕前はあったようだ。むろん作屋守にはどの程度が上手い下手なのかが分かってなかったので、お調子者ないつもの彼の、おべんちゃらとまでは言わないものの、購入資金を出した者への手もみくらいにしか思っていなかった。

 当然、すごろくとかトランプとかリバーシとか、そういったゲームも体験済みだ。体育祭の打ち上げのカラオケ経由した後ゲームセンターにつきあったこともある。対戦ゲームをする者、ゾンビを射撃するゲームをする者、クレーンゲームをする者、リズムゲームをする者、そんな中でも作屋守はただただ傍観者を決め込んでいた。興味がなかったわけではないが、見る専に徹した。素人が手を出してミスして絶叫、自分がそんな醜態をさらすのは羞恥でしかなかった。そんな彼だったが、シミュレーションゲームがなんたるかを知らないわけではなかった。

「貸しましょうか?」

 ラーメンを平らげた勢いのまま、道井は爪楊枝に手を伸ばしながら言った。一通りの説明をしておいて、それを言い出さないのはゲーマーの名が廃るとでも言いたげな感じだった。

「いや、その時には自分で買うことにするよ」

 まだ数口残っている作屋守はレンゲに揺れるカレーラーメンのスープを啜って、水を口にしてから返答をした。シミュレーションゲームならデータが残っているはずだ。後輩の戦歴を知るのも、自身のそれを残すのも憚られる。それに、やんわり断ったのには他に理由もある。ただ単にタイトルと最近の興味のシンクロというだけで手を出す、というのは軽薄というか落ち着きを欠いている行動に感じられて、自身にあきれる気持ちが浮かんでくるからだった。

「予想外だけど、うん、まあ、的外れでないかも」

 水を飲み干して、ピッチャーからグラスに注ぐと、先輩からのおごりをおごりとも思わないほどにスルスルっと食っちまった後輩は作屋守の話も咀嚼することなく、なんだか勝手に納得していた。

「作屋さんが格ゲーってのはイメージわかないけど、ロープレとかシミュレーションゲームとかは何か合点がいく」

 それは先入観とか偏見とかだとたしなめようとしたが止めた。咎める必要もないし、単なる皮相的な評価に過ぎない。プライベートをしゃべって来なかったのはほかならぬ作屋守自身なのだ。そう思わせたのならお互い様、ということになる。

「ところで」

 ようやくラーメンを食い終えた先輩は、グラスを空けると

「なんでゲームなんて持って来てんだ? 職場に」

 指導的に尋問を始める口調になった。

「え? 今更?」

 すっかり油断していたゲーマーは慌てふためきだして、

「いや、俺もまさか入っていると思わなくて。最近やってなかったから棚に片付けておいたはずなのになんでか鞄に入っていて。俺もキツネにつままれた気分のまま出しちゃった感じなんですよ」

 宿題やったのに忘れたと言い張る小学生級の理由を早口で言った。

「まあ今度から気を付けるんだぞ」

 後輩をそれ以上責めることをしなかった。初犯だし、上司が見ていたわけでもない、というのが建前で、作屋守にはそんな噓みたいなことが起こりうると今は思えたからである。


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