出発
やってきた1月3日の早朝、冷え込む朝靄の中ぼくたちは家の前に集まっていた。
「で、結局シャオも来ることになったと」
「逃さんのじゃ……きさまらだけは……」
シャオはお留守番の雪の精霊に手紙を預けて同行する道を選んだ。
よく精霊たちが協力したなと思っていたら、土下座と泣き落としを使ったようだ。
どっちにせよ1度は姫巫女がラオフェンに帰らないと解決できないような事柄だし、同行するか待機するかの違いしかなかったけども。
外の目を考えればこっちから連絡を取るのはちょっとリスキーなので、連絡役を見越して置き手紙はひとつの手ではある。
「この機を逃したら星降の谷になんて入れぬのじゃぞ!」
「たぶんいつでも入れるが」
「わかっておらん! 星降の谷というのはのう! 大陸東側の国々にとっては聖地に近い! 滅多なことでもない限り踏み入ることもできぬのじゃ!」
「シャオちゃん、スフィちゃんとアリスちゃんがその"滅多なこと"だよ……?」
のじゃのじゃうるさいシャオにフィリアが突っ込みをいれた。
シャオも認識してるはずなのだがたまにバグるな。
「つーかねみぃし寒いから早く行くにゃ……」
「んゅー……いこうよ」
朝の眠さと寒さで静かなスフィとノーチェからも文句が出た。当然である。
「ぐぬぬ、とにかくついていくのじゃからな!」
本人がいいっていうなら別にいいか、あとで面倒なことにならないといいのだけど。
そんなわけで道に出て見守っている護衛たちに片手を振ったあと、ぼくたちは通りの向こうの礼拝堂を目指して出発した。
■
「フィリアも本当によかったの?」
「シャオちゃんじゃないけど、こんな機会ないし……。それに、その、お兄様とは手紙で少しやりとりしたんだけど……」
数日前、お祭り行脚から家に戻った時にフィリア宛の手紙が届いていた。
差出人はお兄さんからで、暗殺に関わった容疑者は特定出来たものの抵抗にあってお貴族バトルの真っ最中だということが遠回しに書かれていたそうだ。
無事に帰ってきた義妹とその友人を巻き込むわけにいかないので、再会はもうしばらく待っていて欲しいと。
「お兄様の邪魔になってしまいそうだし」
「ぼくが出ていって頭が高い! ……する手もあるけど」
「やめて……」
「小バエに轟炎爆裂を使うようなものじゃな」
どうやら認識バグが直った様子のシャオに大爆発を起こす第7階梯の魔術と同列に扱われた。
流石に高火力すぎるのはわかっているから冗談だ。
相手の対応によってはせっかく立て直そうとしてる家ごと消し飛ばしかねないし。
「だから、アリスちゃんたちと一緒に居たほうがお兄様も安心すると思うから。しばらくお世話になります」
「よろこんで」
「大歓迎ー!」
手を繋いできゃっきゃとはしゃぎながら歩くスフィとフィリア。
人の気配もない道を進んで大通りを越えて、そこからしばらく歩くと礼拝堂にたどり着いた。
「ここにゃ? ……っていうか門が閉まってるにゃ」
「高いけど、乗り越える?」
マイクの礼拝堂は教会が管理していて、基本的には正午くらいに開門される。
玩具の精霊神は子供の守り神として祀られていて、子供の安全と成長とかそういうのが祈られていた。
建物としてはこじんまりとした小さなものだけど、その代わり色んな区にひとつかふたつくらいはある。
「まぁこのくらいの高さならいけるにゃ?」
不法侵入の相談をしているノーチェたちをよそに、ぼくは門の鍵に視線を向けた。
カンテラを呼び出して炎を灯し、影を操って錬金陣を形作って魔力を通して……。
「シラタマ、氷ちょうだい……『錬成』」
氷で鍵穴に合わせた鍵を作り、差し込んで回す。
だめか……錬成で何度か調整するとぴったり合うのが出来上がって、カチャリと音を立てて解錠された。
「鍵閉めるから早く入って」
「…………」
「…………」
何とも言えない表情でみんなが入ってくるのを確認して、再び門の鍵を閉めると氷を溶かしてもらった。
「直接鍵を弄るのはダメだったのじゃ?」
「やってやれないことはないけど、やりたくない」
鍵そのものに施されてる錬金術対策はなんとでもなるけど、問題は戻せないことだ。
壊してそのままでいいなら別にそっちでもよかったんだけど、元通りにするとなると変形させる前に内部構造の記録を取って、その通りに戻さないといけない。
うっかり直しそこねると前の鍵が使えなくなって使用者が大変困る事態になる。
こういう細かいやつは周囲と同じように直せばいいだけの壁や床とは違うのだ。
「そんじゃブラウニー、おねがい」
「…………」
ぼくを背負ったままのブラウニーが礼拝堂の裏手に回り、茂みの中に置かれた箱の蓋を開ける。
箱の中には光を飲み込むような真っ黒な穴があった。
「んじゃいこう」
「おー!」
「にゃむ……」
みんなで黒い穴に入る。
向こう側は谷からこっちに来る時に使った建物と同じ場所のようだった。
「こっちもだいぶ直ってきてるにゃ」
「ほんとだー」
建物から外に出るとそこは前よりずっと復興が進んだ玩具の街。
今は作業している玩具たちの姿もない。
「ここからがちょっと長い」
「まぁのんびり行くにゃ……眠いし」
今回はふたりきりじゃなくみんなと一緒で、朝食のお弁当やおやつも準備してきた。
お昼前くらいには谷に到着できるだろう。
少し休みながら、ぼくたちはブラウニーが近くの建物から車を出してくれるのを待った。




