事故
ブラウニーの乗ってきた大型のオープンカーに乗って玩具の街を走る。
もうみんな慣れたもので風を浴びながら景色を楽しんでいた。
さすが異空間と言うべきか、時期的には真冬なのに玩具の街の気候は穏やかで過ごしやすい。
「本当に端があったにゃ」
真っ直ぐ進んでいるとやがて玩具の街を囲う壁にたどり着く。
壁自体は高くないから遠くからだと見えないけど、鉄の壁がぐるっと街を囲んでいる。
方角的には北側にある壁の近く、外に続くトンネルへの入口には仮設っぽいテントが建てられていた。
「にゃんだあれ」
「給水所だ」
誰もいないテントの中にはペットボトル入りの水が置かれている。
「この先、少し長くなるから何本か貰っていこう」
「持っていっていいにゃ?」
「前に来た時、ラフィが給水所みたいなの作って送って言ってたからたぶん」
「んゅ?」
なぜかスフィが反応した。
ていうか前から思っていたけど、スフィとラフィは語感だけじゃなく発音まで似ていて呼ぶ時にややこしいな。
勝手にあだ名を付けるわけにもいかないし、ラフィ・ロールと呼ぶか。
『おーい、帰還でちか?』
「ラフィ?」
段ボール入りのペットボトルを何本か拝借していると、道の向こうからラフィ・ロールがぬいぐるみを従えてやってきた。
「勝手にもらってるけどよかった?」
ちょうどいいので積み込みを任せてラフィ・ロールの下へ行って確認を取る。
このくらいならあとでも許してくれそうなので補填するつもりはあったけど。
『いいでち、君たちのために用意しておいたものでち』
「ありがとう、助かる」
『いいでちいいでち、それにしてももう帰る日でちか。あっという間でちたね』
「道を使わせてもらったおかげで助かった。そうだ、できれば家にも直通路がほしいけど難しい?」
そういえばと、気になっていたことを尋ねる。
新しい出入り口を任意の場所に設置することって可能なんだろうか。
『うーん、敷地の中にマイクの像と祭壇、あとは定期的な礼拝があればいけるでち。夜の道は君かあの狐の子が必要でちから。警備は必要でちが、道そのものはあった方が良いかもしれないでちね』
「いけるんだ、じゃああっちに帰ったら作ってみる。……ところでさ、なんでぼくとシャオ限定なの?」
礼拝堂と像か、マイクの施設なら家の敷地内に作ることに抵抗はない。
我ながら絆されたものだと思うけど、これは前世で向き合ってあげることが出来なかった分だ。
『前にも言ったけれど、ここは子供のための避難所でち。必要のない子には道は開かれないでち』
「……ああ、そういう」
ぼくとシャオ、それからホテルの部屋に直通路を開かれたミリー。
共通点は近しい親族から直接攻撃を受けた経験ってところだろうか。
ぼくの場合は前世の話になるから、トリガーがあるとすれば実際の攻撃云々ではなく本人の心の傷の方かな。
「把握した」
『寂しいでちが、この街がその子にとって必要なくなる日が来るのが一番いいことでち』
「うん……でも、せめてぼくは来るよ。友達の街だから」
せっかく精霊関係で融通が利く特性を持って生まれたんだ、だったらこういう特典の使い方をしても罰は当たらないだろう。
微妙な空気が和やかな雰囲気に変わりかけたところで、積み込みが終わったのかブラウニーが路肩に止めていた車を動かしてこっちに来る。
『ふふふ、いつでも歓迎でちゅわっ!?』
「ちょっ、轢いちゃったにゃ!?」
「あわわわ!」
そして止まりそこねてラフィ・ロールを轢いた。
うちのくまさんがとうとう人身事故を起こしてしまった。
『なんで轢くでち! もっと前で止まればいいでち! 停車下手くそでちか!?』
「……まともなツッコミだぁ」
どうやらブラウニーの駐車下手は玩具の特性ってわけじゃないらしい。
よかった……いやよくないが。
■
一緒に頭を下げて謝り倒して許してもらい、ぼくたちはトンネルを抜けて街の外に出た。
相変わらず見渡す限り赤茶けた荒野、アリゾナロードと名付けたい風景が続く。
「びっくりしたにゃ」
「ラフィさん、平気そうでよかった」
「ねぇブラウ、駐車の時だけ運転変わらない?」
そう言うと、ブラウニーが背中の方をごそごそして謎空間から名刺サイズのカードを取り出してきた。
ブラウニーの絵姿が入ったカードは日本式の運転免許証に酷似していた。
因みに有効年月の部分が金色の帯になっている。
「偽造?」
「…………!」
免許制なこと自体驚きだけど、これでゴールド免許なのもはやバグだろ。
「アリス、それなあに?」
「これを運転する技能と知識を持ってることを示す免許証。ここが金色だと5年にわたって事故や違反を起こしたことありませんってことになる」
「事故……ないの?」
つい今しがた起こしたばかりだ。
次の更新ではペーパードライバーにつけられたゴールドメッキが剥がれてしまうだろう。
そもそも更新あるのかわからないけど。
「わかったけど、駐車の時は気をつけてね」
「…………」
おかしいことがわかったなら遠慮なく突っ込める。
頷くブラウニーに不安を覚えながら、ぼくたちは冬なのに暑い陽射しの中をかけぬけていった。
途中で水を飲んだり休憩をはさみながら3時間近くブラウニーが車を飛ばし、やがて街に戻るときにも使った小屋が見えてくる。
「あそこだ」
「ついたにゃ? 冬の格好でくるんじゃなかったにゃ」
「外が寒すぎるのじゃ」
気候が急激に変化しすぎてすでに全員コートを脱ぎ肌着姿になっていた。
ブラウニーが小屋からだいぶ離れた位置で車を止め、ぼくたちは先に降りる。
脱いでいた服を着直してから、小屋の前でブラウニーが裏手にあるらしい納屋に車を止めにいくのを待った。
「やっぱ着ると暑いにゃ」
「寒い日に逃げ込むのにはいいかもだけど、服がネック」
「そだねー、スフィもあつい……」
冬毛のせいで耳しっぽのモフモフ度が上がっているぼくとスフィにはなおさらこの気候は辛い。
そんな風に話していると、裏手の方からガゴン、ガタンという音が聞こえた。
駐車を終えて何事もなかったようにブラウニーが戻って来る。
「ねぇブラウ、やっぱ駐車の時だけ変わらない?」
「…………」
にべもなく首を横に振ったブラウニーが小屋の扉を開けて中に入っていった。。




