外周5区にて-2
冒険者ギルド外周5区支部は外門に近い場所にあった。
酒場が併設された巨大な建物には様々な格好の人間が出入りしており、朝早いというのに活気が尋常じゃない。
「俺が誰だかわかってんのか!? ヴェネテアのCランク冒険者だぞ!」
「Cランクかぁ? いくらで試験官を買収しやがったんだ?」
「てめぇ! 吐いたつばは飲み込めねぇぞ!」
「おまえら喧嘩すんなら街の外でやりやがれ! 衛兵に突き出すぞ!」
錬金術師ギルドとは喧騒の種類がだいぶ違うな。
面子を重んじるヤクザな仕事だからか、どうも血の気が多い。
「さっさと済ませるにゃ」
「ここ、アリスの教育によくない」
「教育……?」
おかしな危惧をするスフィに突っ込みながら、みんな揃って端っこの受付に並ぶ。
いかついおっちゃんの列はいつも空いていて助かる。
サクサクと列は消化されていき、あっさりとぼくたちの番がきた。
と思ったら、隣で受付をしていた冷たい表情の女性が立ち上がった。
「すいません、交代お願いします」
「ああ、構わんが……」
苦笑しながらいかついおじさんが席を立ち、冷たい眼の女性が代わりに座った。
「ようこそ、冒険者ギルド外周5区支部へ」
冷たい表情がとても穏やかな笑みに変わる。
逆に怖いわ。
冒険者ギルドで受付やってる女性は獣人の子供が来ると機嫌がよくなる法則でもあるんだろうか。
「ええと、あたしら冒険者にゃ、手紙が届いてないか確認したいにゃ」
「はい、ギルドタグを確認させてくださいね」
ノーチェが冒険者ギルドのタグを渡すと、女性は魔道具に入れて情報を確認しはじめる。
「しっぽ同盟のノーチェ、確認できました。少々お待ちくださいね」
女性は1度立ち上がって背後にある衝立の向こうに行く。
「……そういえば、手紙が届いてるかどうかってここでもわかるにゃ?」
「錬金術師ギルドだと受け取った支部と届いた支部で共有されてるから、ここも同じだと思うけど」
だから連絡がこの支部から外周7区支部に出されているなら、記録は残っている……はず。
あれ、ユテラたちが来るとしたら陸路と空路どっちだ。
シーラングから陸路で北上するには湿地帯と大森林を抜ける必要がある。
店と妻子を抱える非戦闘員の男が子供連れでやるような旅じゃない。
祭りに合わせて安価な航空便も出ているだろうから、外周8区経由じゃないか?
「やらかしたかも」
「ニャン?」
気づいたところで受付の女性が戻ってきた。
「こちらの支部に連絡の記録はありませんね……滞在登録中の支部に飛鳥便で照会を出しておきましょうか?」
「あ、お願いできるにゃ?」
「ええ、手数料はかかりますが手紙などがあればこちらに移送も可能です」
「じゃあお願いするにゃ」
「照会と移送の保証金込みで大銅貨1枚、移送できるものがない場合は銅貨5枚の返金となります」
「ほいにゃ」
ノーチェが背伸びをしながら大銅貨1枚をカウンターに乗せる。
「そういえば照会ってどうやるにゃ?」
「鳥型魔獣を使役している魔獣使いの方が滞在しているんですよ。魔獣を定期的に巡回させることで近くの支部と連絡を取り合っております。その定期便に照会依頼を出して、次の定期便で結果が戻って来る形になりますから……午後になってしまいますね」
「じゃあ夕方にきても大丈夫にゃ?」
「はい、数日以内であれば大丈夫ですよ」
ここも錬金術師ギルドと似たような連絡網を使っているらしい。
ノウハウを共有しているのかもしれない。
「じゃあよろしくにゃ」
「はい、他に御用はありませんか?」
「うーん……依頼も受けないし、大丈夫にゃ」
「……そうですか、またいつでもおいでくださいね」
残念そうな受付の女性に見送られながら、また固まって出口を目指す。
なぜならかなり嫌な視線もいくつかあるし、悪口みたいなのも聞こえてくる。
直接絡んでこない理由はわかりやすい。
数少ない獣人のお兄さんお姉さんが、近づこうとする普人に向かって殺気を放っているせいだろう。
武術大会の影響か獣人の子供も少しだけギルド内にいるので、アホを近づかせないために駐屯しているようだ。
そんなわけで身なりの良い獣人の女の子チームにも関わらず絡まれることはない。
悠々とギルドを後にしたあと、ぼくたちは武術大会を見に行くことになった。
トラブルがなくて快適なはずなのに、物足りなく感じるのはなぜなのだろう。
■
大人の部は3日間に渡って行われる。
今日は3回戦から5回戦まで、明日は準決勝と決勝戦。
人数が多いのもあるけど、戦闘時間も長引くために期間を長く取っているようだ。
午前中にはじまった3回戦を、観客席に座って眺める。
飲食はもちろん酒や賭けまで解禁されているせいか、子供の部とは観客の熱量が違う。
「いけ! そこだ!」
「叩き潰せ!」
声援も野蛮である。
「ちょっと怖いのじゃ」
「固まってようね」
周囲から聞こえる怒号に怯えたシャオが、すすっと肩を寄せてくる。
現在は大人の獣人同士の試合が行われている。
薄毛虎人の女と、獣毛牛人の男。どちらもゴリゴリのインファイターみたいだ。
拳を打つ音がここまで聞こえてくるような激しい殴り合いに盛り上がりが凄い。
「あの姉ちゃんつええにゃ」
「牛さんのほうも」
軽快なステップで距離を詰めながら拳や蹴りを打ち込む虎人。
太い腕でガードしながら、時々突進しつつ拳を打ち込む牛人。
港で会ったグラム錬師もそうだったけど、牛人はボクサースタイルが多いのだろうか。
攻撃を当てる回数は虎人が多いけど、一撃の重さは牛人に軍配が上がる。
「『ナックルコンボ』!」
「『パワーガード』!」
お互い息があがりはじめたところで、虎人が勝負を決めに出た。
両拳に緑の光をまとわせながら拳の連撃を浴びせる。
牛人の方は両腕に黄土色の光をまとわせて防御態勢を取った。
「随分とリスキーな武技を使うなぁ」
「危ない技にゃ?」
近くに居た知らないおじさんの言葉にノーチェが反応する。
「あれはなぁ、ナックルコンボと言って拳を使って連続で攻撃し続けるほど威力が上がっていく特殊な武技なんだよ。だが攻撃を止めたり失敗すると反動で筋肉が硬直するっていうデメリットもあるんだ」
「そんにゃ武技があるにゃ」
「へぇー」
「縛りをつけることで精度や威力をあげたり、特別な効力をもたせているタイプなのね」
「そういうこった」
代償を支払う魔術……いわゆる呪術に近い性質の武技みたいだ。
「ってことはにゃ、つまり……」
「もし攻撃を止めたら、隙だらけになっちゃうってこと?」
「ああ、だから相手は息切れを狙ったんだろう。あの武技は動けないが硬いぞ」
謎の解説おじさんのおかげでノーチェたちも楽しめているようだ。
ありがとう解説おじさん。
現実にいるとは思わなかった。
あんな激しいラッシュなんてしていたら息が続かない。
息を吸おうとするとどうしても動きを止めざるを得ないため、そこが虎人のタイムリミットか。
確かにリスキーな武技だ。
「ああ! 止まっちゃった!」
スフィが悲鳴をあげる。
ビクともしない牛人に、攻撃を激しくした虎人が動きを止めてしまった。
拳の光が消えると同時に反動の硬直を起こしたようで、両腕を震えさせながら変な体勢で固まっている。
硬直自体は1秒程度だったが、牛人が動くには十分な隙だった。
防御体勢を取る虎人に、牛人の体重を込めた右腕の一撃が決まる。
ガードの上からふっ飛ばされた虎人が場外に転がり落ちていった。
凄い威力だ。
残った牛人は勝利宣言を聞くと、アザだらけで震える左腕を力なく垂らしながら右腕をあげる。
激しい勝負の決着に歓声が上がった。
パワーのある獣人はやっぱ強いなぁ。




