外周5区にて-1
「別に取って食おうってんじゃねぇんだ。シーラングで昇格試験を見てやった仲じゃないか」
「おひさしぶり」
この説明くさいセリフはぼくに言っている訳じゃない。
人混みに紛れて静かに神経を研ぎ澄ませている"誰か"に向けてのものだ。
外についてきているのは夜梟っぽいけど、編成が変わってまだ人員を把握しきれてない。
「なんだお前ら、このおっさんと知り合いなのか?」
「竜宮を含めたゼルギア南東部では有名な御仁でござるよ」
「俺はあちこちフラついてるからな」
錬金術師ギルドが紙の大量生産と印刷技術を確立してるから、東では情報が速い。
とはいえ物理的な距離を克服するまではいっていないので、一部地域では超有名でもそこから離れると知名度がなくなるケースも多い。
「そうなのか……俺はムーヴ、未来のAランク冒険者だ! 覚えといてくれ」
「おお、自己紹介がまだでござったな。拙者はレンジュロウ、竜宮から武者修行に参ったしがない武芸者にござる」
「あー……これ名乗り合う流れか? ヴァンベルトだ、好きに呼べ」
「ぼく」
「まぁ覚えとくよ! じゃあ俺は行くから!」
一応名乗ろうとしたら遮られうえにさっさと歩いていった。
まぁいいか。
「青いでござるな……それでは拙者もこれにて失礼致す」
「ああ……さて、お嬢さんのお仲間は元気かい?」
そのあとすぐに立ち去ったぼくと背丈がさほど変わらない鼬人を見送り、ヴァンベルトが話しかけてきた。
「元気だよ、みんなは武術大会にいってる。大人の部を見るっていうから別行動してた……ノーチェは年少の部で優勝してたよ」
「そりゃめでたい、大したもんだ。ま、なにはともあれ無事でよかった、これからも頑張れよ」
「うん、ありがとう」
なんだかんだで心配してくれていたらしい。
軽く挨拶を済ませてヴァンベルトは歩いていく。
ほんとに偶然通りかかっただけだったのか、我ながら凄い引きだ。
それにしても、色んな人たちが集まってきていて大きなお祭りだというのを実感する。
■
宿につくとスフィたちが先に戻ってきていた。
みんなの顔見るとなんか安心する。
「なんかつかれた」
「おつかれさまー」
スフィの座るベッドに頭から倒れ込む。
髪の毛を撫でる手に任せて目を閉じると……あ、だめだ。
目を閉じたらそのまま寝そうだ。
「さっきシーラングで昇格試験みてくれたヴァンベルトって冒険者にあった、ノーチェの優勝を伝えたら大したもんだ、おめでとうってさ」
「お、おー……?」
「……あの強いおじさん?」
「あぁ! あのおっちゃんにゃ!」
いまいちピンと来ていなかったけど、すぐに思い出したようだ。
まぁ1回会っただけだしね。
「シーラングで思い出したけど」
「うん?」
「ユテラって覚えてる? 宿屋の子」
「覚えてるにゃ」
「猫人の子だよね、そういえばお祭りくるって言ってたよね」
時期的に到着していてもおかしくないんだけど、バタバタしていたから手紙の確認ができていなかった。
「たぶん錬金術師ギルドには手紙が預けられてないんだよね、どうしたんだろう」
「いや、普通にあの建物に入るのは抵抗あるにゃ」
「わしでもひとりだと入る時にドキドキするのじゃ、錬金術師ギルドはなんか雰囲気が違うのじゃ」
「えぇ……」
まぁ冒険者ギルドと比べてなんかお屋敷っぽいというか図書館っぽいというか。
大きな支部は独特の雰囲気がある、確かに子供が入りづらい建物ではあるか。
「因みに最後に冒険者ギルドにいったのっていつ?」
「それは……ええと……にゃ?」
「12月に入ってからは1度も行ってない……気がする?」
錬金術師ギルドからの生活支援、パパ(仮)の臨時支援。
普段の生活はそれで十分なこともあって、12月に入ってからは冒険者ギルドには行っていないようだ。
「もしかしたらそっちに連絡きてるかも」
冒険者ギルドは出入りも利用も気軽だけど、わざわざ自宅まで手紙や荷物を配送してくれたり、わざわざ教えてくれるサービスはやっていない。
情報がそこで止まっている可能性があった。
「明日、冒険者ギルドにいってみるにゃ?」
「外周5区に大きな支部があるから、戻る前にそこで聞いてみよう」
「つーか決勝まで武術大会が見たいにゃ、ダメにゃ?」
「予定だと28日だっけ、そのくらいならいいんじゃないかな」
ここも騒がしい客がいない落ち着いた良い宿だ。
大きな祭りの間くらいはいてもいいか。
「そもそもノーチェがリーダーだし、みんなの意見を聞いてから最終判断はノーチェがしていいよ」
「やっぱまだちょっと自信ないにゃ。あと金だしてるのはアリスだしにゃ」
「相談してくれるのは嬉しいけどね」
やっぱりというか、金銭的負担の不均衡みたいなのが負い目になっているようだ。
まったく気にしないよりは好感が持てるけど、遠慮まではしなくていいのに。
「はい、スフィも決勝見たい!」
「私はノーチェちゃんとスフィちゃんに合わせるよ」
「わしも決勝がみたいのじゃ」
「じゃあ武術大会の決勝までは外周5区にいよう」
軽く相談した結果、スフィたちはみんな決勝が気になっているようだ。
よっぽど気になる選手でもいたのかもしれない。
「明日の午後からだよね、午前中に冒険者ギルドいくのでいい?」
「問題ないにゃ」
「うん!」
こうして今後の予定を決めて、ぼくたちは静かに眠りについた。
祭りの賑やかな音は夜遅くまで続いていたけど、意外と不快には思わなかった。




