再会
錬金術師ギルド外周8区支部。
久々に訪れた大きな支部は、とてつもない賑わいを見せていた。
「そこ! 横入りしないでください!」
「こちらは! 錬金術師の方の受付となります!」
「整理券を受け取ったら速やかにラウンジで……ラウンジでお待ちください!」
「わァ」
コートを着た錬金術師と商人たちがごっちゃになって受付に並んでいる。
用事があったのを思い出して、錬金術師ギルドへ行くついでに外周8区を見て回ろうって話になったんだけども。
「すごい人」
「長くなりそうにゃ?」
「手紙出すだけなんだけどね」
外周7区の支部はお祭り中は休業中である。
最初はそっちで手紙を出そうとしたんだけど、最近行けていなかった薬局の先輩方に聞いて愕然とした。
「とりあえず整理券もらってくる」
「こちらは! 錬金術師の方の列となります! 他のご用事の方はあちらに!」
「ぼく錬金術……」
「こちらは! 錬金術師の方の……他の方は横入りしないでください!!」
あのあのあのあの。
ダメだ、横入りマンと受付さんのバトルが激しすぎて割って入れない。
「コート持ってくりゃよかった」
「それはそれで目立ちまくりそうにゃ」
アルケミストコートは陰干し中なので、パッと見で自分の存在をアピールすることは出来ない。
どうしたものかと少し離れた位置で眺めていると、入口の方がざわついた。
高そうなコートに長い羽毛のマフラーを巻いて、サングラスをかけた女性だ。
指と腕には高そうなアクセサリーをつけて、高そうなつば広の帽子を被っている。
御付きらしき少年を引き連れてロビーを歩いて受付へ向かって歩き出す。
……あれ、少年になんか見覚えが。
女性が向かったのは錬金術師の列だ、止めようとした職員にポケットから出した銅色のバッジを見せている。
「パナディア支部所属、第2階梯錬金術師、マリナ・レダースです。滞在のご報告に参りました」
「な、なんだ、あの派手な女」
「パナディアのマリナっていえば、エナジードリンクの開発責任者と同じ名前じゃ」
「マジか!」
聞こえてきた名前に思わず吹き出しそうになった。
近くでざわつく待機者の言葉に反応したのか、胸をそらしながら推定マリナ錬師がこっちを見て……ぼくたちの方に顔を向けて固まった。
「現在混み合っておりまして、整理券の順番でお待ち下さい!」
「ええ、ありがとう」
受付から整理券を貰ったマリナ錬師がカツカツ音を立てながらゆっくりとこっちにくる。
「アリス錬師? やだ、こんなところで会えるなんて思わなかった! すっかり見違えちゃって!」
「ええと……マリナ錬師だよね」
「そうよ、久しぶりだからわからなかったかしら」
いや、久しぶりというか。
……どうしよう、眼鏡でひっつめ髪の女研究者だった人がレッドカーペット歩いてそうな感じになってる。
「アヴァロンに無事に到着したって手紙は受け取ってたけど、元気そうでよかったわ」
「手紙、間に合ったんだ」
錬金術師ギルドは魔獣を使った手紙の配達速度に一家言ある。
それでも数日から長いと数ヶ月はかかってしまうし、パナディアには空港がないのでちょっと時間がかかる地域だ。
マリナ錬師がアヴァロンに向けて旅立つ前に届くかは微妙だった。
「パナディアの錬金術師のねーちゃんだよにゃ……なんか、すごい、変わったにゃ?」
「そうよ、うふふ。あれからアリスちゃんの作ったエナジードリンクがどんどん評判になっていってね。販路も拡がってすごく順調なのよ」
「……そ、そうなんだ」
そういえばこっちでも評判になりつつあったな。
「おかげで研究以外にも生活に余裕がでてきて、任せてくれたアリスちゃんには感謝してもしたりないわ」
「ヨカッタ」
素朴な研究者を……ぼくがこの手で……ブルジョワジーに……。
「ごめんね、ゆっくり話したいけど滞在報告が終わったらすぐに商談と新作発表の準備があるの。サンプルの送り先は錬金術師ギルドの登録住所で大丈夫かしら?」
「うん……みんなでお家を借りて住んでるから、そこに届くと思う」
「頑張ってるのね……生活は大丈夫? 困っていることはない?」
「大丈夫、色んな人に助けてもらって、両親とも会えたよ」
「そうなの!? わぁ、それはよかった! 凄く安心したわ、落ち着いたらゆっくり話しましょうね!」
「うん」
本当に忙しいみたいで、受付から呼ばれるなりマリナ錬師は高そうな外套をばさりと翻し、整理券を持って受付へ向かった。
ここで会えるとは思わなかったな、順調だって話だけは伝わっていたけど……元気そうでよかった。
って、ぼくも整理券もらわないと。
「ちょっと再チャレンジしてくる」
「お、がんばだにゃ」
「アリスがんば!」
仲間の応援を受けて声を張り上げながら整理券を配っている職員の下へ向かう。
「錬金術師でご用事の方は!」
「あの、整理け……」
「こちらで! お伺いしております! こちらは! 錬金術師の方の!」
あのあのあのあの。
■
過酷な戦いを終え、整理券を手に入れたぼくは比較的すぐに呼ばれて用事を終えた。
滞在報告とか手紙の配達依頼とか、簡単に終わる用事だとサイクルが早いようだ。
無事に終わったぼくはスフィの背中に隠れて服の裾を引っ張りながら、じろじろ見てくる視線から逃げるように錬金術師ギルドを後にした。
「アリスおまえ、しばらく見ないうちににゃんか……」
「なんか……可愛い?」
「不思議じゃ、今のアリスは見てるときゅんってくるのじゃ」
「やめろください」
なんかこう、ひとつの大仕事を終えて気が抜けたのかもしれない。
油断すると貼り付けていた強者の仮面が剥がれそうになる。
「アリスはね、前はこんなかんじだったんだよ、おつかれさま」
「うぅ」
スフィに頭を撫でられながら気持ちを立て直す。
このままじゃあただの内弁慶幼女になってしまう。誰が幼女だ。
「うごごごご」
ぼくはワイルドウルフ、ぼくはワイルドウルフ、ぼくはワイルドウルフ。
ぼくはワイルドウルフ、ぼくはワイルドウルフ、ぼくはワイルドウルフ。
ぼくはワイルドウルフ、ぼくはワイルドウルフ、ぼくはワイルドウルフ。
ぼくはワイルドウルフ、ぼくはワイルドウルフ、ぼくはワイルドウルフ。
ぼくはワイルドウルフ、ぼくはワイルドウルフ、ぼくはワイルドウルフ。
かわいいスフィと双子なのにオス狼に間違えられちゃういかついビースト。
よし。
「空港で飛竜騎士の公開演習があるって聞いたんだぜ! おまえら見に行こうぜ!」
「お、戻っ……いや、違うにゃ?」
「アリス、それはやりすぎ」
ぼくもそう思う。




