星竜祭
星竜祭の賑わいは想像以上だった。
前日の前夜祭も普段と比べて随分人出が多かったけど、今の大通りは人間でごった返している。
「うへー、めちゃくちゃ人が多いにゃ」
「あの紋章があるお店がふるまいごはんのところだよね」
「…………お金払っていいから並びたくない」
大通りには普段の倍以上の出店が並び、飲食店も仮設の屋台で食事を提供している。
人の多さと比べると1店舗あたり約150食想定は少ないのではと思ったけれど……出される食事は少量だ。
大量の店が祭りのふるまい料理を出すから、客からすれば1店舗あたりの量は少なめのほうがありがたいのだろう。
食事店からすると量が多めの試食みたいなノリで良い宣伝にもなる。
「人気のあるお店はすごいね」
「ねぇ……女将さんとこも凄い人」
「並ぶ……?」
「ぼくはちょっと無理」
「だよねぇ」
アルヴェリア人は割りと行儀がよくて、店の前でちゃんと整列している。
衛兵があちこちにいるから悪さはできないのだろう。
「つーか明らかに衛兵の数が多いにゃ」
「お祭りだからでしょ」
「そうかなぁ……」
これだけ人でごった返しているなら衛兵も数が必要になるだろう。
何故かフィリアは疑わしいといった視線を向けてくるけど、完全な濡れ衣である。
「こっちの関係者はあそことあそことあそこ、あそこの屋根の上……にいたのが隣に逃げた」
隠れようとするな無駄だ。
今も動きやすい屋根の上からバッチリ追いかけられている。
わざわざ衛兵にまで情報を伝えて特別に警戒を広げる意味がない。
「しっかしこのうるさい中でよく気づけるにゃ」
「今日は種も仕掛けもあるからね」
実は雪の精霊たちについてきてもらっていた。
シラタマは自身の眷属である雪の精霊と情報をやりとりすることができる。
領域外だと有効な距離はめちゃくちゃ縮まるんだけど、冬場なら100メートルくらいはいける。
こっそり隠れながら周囲を探ってもらい、不審な人がいたら報告を入れてもらう。
ざっくりした位置がわかるなら耳をそっちに向けて集中すればいいので、護衛たちの位置は大体わかっている。
「ま、いい加減慣れてきたし色々みてまわろう」
「おー!」
庶民オブ庶民としては遺憾極まりないけれど、護衛の存在は生まれの問題で仕方ないことなのだ。
いつまでも気にしてはいられない。
気を取り直して街を巡ることにしよう。
■
空港に隣接しているために庶民の中でも裕福な人間や商人も多く、活気もある『外周8区』。
陸の玄関、大街門が存在する『外周5区』に隣接した『外周6区』。
これらの丁度中間にある外周7区は、言ってしまえば完膚なきまでの下町である。
昔ながらの住人が多く、居住者の気風は気は強いが根っこは優しいといった感じ。
もちろんエリアにもよるが、住んでみた印象は『住みやすい街』だった。
「結構冒険者が多いにゃ?」
「んだね」
普段との最大の違いは、このあたりでは見かけない人種も多くなることだ。
たとえば見るからに裕福そうな一般人。
広場の自由エリアで大道芸を見せて日銭を稼ぐ旅芸人や冒険者とか。
そんな人々が出歩く中、ぼくたちは出店で集めた料理を持ち寄り、広場のベンチに座って食事中。
軽く胃を満たしたぼくは、食事をするノーチェたちと背中合わせになって広場を眺めていた。
広場を通り過ぎる旅装束をした獣人もちらほら見かける。
「なあ、外周3区ってどこまで歩いたらつくんだ?」
「わかんね、西ってあれだろ、右だろ」
「バッカおまえ、右はあれだよ、北だよ」
「はやく兎人の姉ちゃんのいる店で酒飲みてえ」
たぶん外から来たのだろう犬系獣人のおじさんたちが通り過ぎていく。
会話から『生物としての頑丈さだけで生き延びてきたぜ!』って雰囲気が滲み出てる。
同じノリで生きてたらほぼ確実で死ぬ身としては正直羨ましい。
獣人のひとりがこちらを視界に入れて、怪訝そうな表情を浮かべて足を止めた。
「どうした?」
「いや……うーん?」
「はやくいくぞ、夜になっちまう」
「おう、まだ昼だっつーの」
数秒ほど顔をしかめつつ首を傾げていたが、他の連中に促されて歩いていった。
狼人の女児が珍しいのかと思ったけど……視線が合わなかったな。
「アリス、おまえこれ食うにゃ?」
「ごめん、おなかいっぱい」
すぐ背後にいたノーチェがしっぽをうねらせながら、肉と芋を串に交互に刺して味のついたオリーブオイルで揚げた料理を差し出してくる。
ありがたいけど今は胃が受け付けない。
「おまえマジで食べる量減ってるにゃ、ちゃんと食わないとダメにゃ」
「回復中だから心配しないでいいよ。ありがとう」
「スフィ、ほんとにゃ?」
「うん……スフィも心配だったけど、あんまり言うとアリスね、無理して食べようとしちゃうから。でもごはん食べるようになってきてるよ」
一時期は1日にビスケット1枚食べきるのも大変なくらいに食欲が死んでたけど、父さまや母さまと関係が改善するにつれて回復してきてる。
スフィにもかなり心配をかけてしまったので、頑張ってリハビリ中だ。
とはいえ、下町の料理は味が強いから量を食べるのがまだ辛い。
心配そうなノーチェをなだめながら食事が終わるのを待ってから、この後どうするかを考えることにしよう。
街を見たいだけで出てきたから何も考えていなかった。
……あれ、もしかしてぼくもおじさんたちのノリを笑えない?
本人は完全無自覚でしたが実質ハンガーストライキ
たぶん母さまが送り出す時に引き留めなかった最大の理由




