白魔導師とその弟子
これは私とスノウルちゃんが出会ってから3日後のお話。
自然豊かな村の端、清らかな小川の潺が聞こえる森の傍に小さな小屋がある。
その小屋の薄暗い作業場の中には一人の女と一人の少女がいる。
一人は艶やかな白髪、若々しい肌で細目に隠れた澄んだ青い瞳。
……まぁようするに私のことなんだけど。
今日も今日とてポーション造りに励んでいるのだ。
~ 眠れる天の使徒よ わが前に群れを為せ 害なす筵に 羽ばたく雫を ~
呪文を詠唱するといつもの青い薬が生まれる。
これ以外の一般的な回復薬は呪いなんてかけないから簡単に出来るんだけどこの薬は私のお手製、大変でも文句は言えない。
「マシロ、お客様がきている」
もう一人は雪のように白い肌を持つ黒髪の少女、その名もスノウル。
彼女は私のお古の魔導服を着ている。
最初に来ていた魔導具コートと品のいいコートは目立つので部屋の奥のクローゼットにしまっているわ。
スノウルちゃんはあっという間に我が家に馴染み私の弟子として家事を手伝ってもらっている
時々私の仕事も見学させている。
今はまだ力の扱いに不安があるようなので極力人と触れ合わせてないんだけど……、そこはまぁ様子をみていきましょう。
「やぁやぁマシロさん! 今日もポーション作りに精がでますね!」
作業場をでてすぐ、中央に机が一つと椅子が三つ並ぶ。
その周りを縦長の小さな本棚、観賞用の花と薬草達が埋める居間に足を運ぶ。
村の賑わいを眺められる窓から心地よい日差しが差し込む私のお気に入りの場所だ。
その中心の席に腕を組んで座る筋肉質な男性が元気に声を掛けてくる。
活き活きした顔をしてるからきっとプレゼントは上手くいったのだろう。
「スワロさんもご機嫌そうでなによりです、プレゼントはうまくいきましたか?」
確認のために私が問うと彼は一層ウキウキとした表情で答える。
「はは! 当然さ! マシロちゃん! あんたの目に狂いわない! 今年もまた嫁にしょっぴかれずに済んだよ」
彼が笑いながら語るのは今は昔のお話。
付き合って一年目の結婚記念日になんの用意もしてなかったスワロさんが奥さんの逆鱗に触れた結果、奥さんが村一つ滅ぼす勢いで暴れまわったことは私も忘れられない。
あの時はギルドのみんなで集まって防衛線を張ったっけ……、懐かしい。
そう……ギルドのみんなで……。
「それはなによりです」
私は私自身の思考を遮るように彼に頷く。
「……マシロ?」
そんな私達のやりとりを私の後ろに隠れ袖を掴みながらついてきたスノウルちゃんは私に問う。
「……何かしら?」
しっかりと掴んだ袖を少しだけ震わせながら彼女はいった。
「嫁という奴はそんなに恐ろしいのか?」
……全く、スワロさんはいい人だけど教育にはよくないわね。
久しく彼の子供達に会ってないけど大丈夫なのかしら?
とりあえずスノウルちゃんの疑問に答えないと。
「そうね、危険じゃないけど魔女より怖いかもね」
「マシロとどっちが強い?」
「……うぅん、昔は五分五分だったし同じくらい?」
「世界は広いのだな……」
私の解答に納得したスノウルちゃんは目を輝かせ呟いた。
「ところでマシロちゃん、誰なんだいその後ろの娘?」
私達のやりとりが落ち着いたのを見計らってスワロさんは首を傾げる。
なんだかんだいって彼は人当たりがいい。
スノウルちゃんの対人教育には丁度いいかな?
あんまり話し込むと余計なことを吹き込まれそうだけど。
「弟子のスノウルちゃんよ」
「……うむ」
私は少し自慢げに彼女を紹介し、彼女は控え目に頷いた。
ぎこちない挨拶だったが昔彼等の子供を紹介された時の謎の敗北感を拭えたような、そんな気がした。
「おぉ弟子か! そいつは頼もしいな! マシロちゃんの弟子ってんなら一流の魔導師になるだろう!」
スワロさんも私達の様子になんの嫌悪感も示すことなく賞賛を浴びせてくる。
悪い気はしないけど少しだけ勝ち誇っていた自分が馬鹿らしく思えた。
そうして私が油断してる間にもスワロさんの発言は続く。
「なんてったってマシロちゃんと俺達は街を救った勇者と共に冒険していたからな!」
私も大概だけどスワロさんも昔話が好きだ。
それでいて彼の場合は少し誇張して表現する節がある。
世界を救った訳ではないので街を救ったことを取り上げて武勲にしているのだ。
まぁそれ自体は良くも悪くも輝かしい思い出だけどさ。
「……余計なことは言わないの」
私は彼の言葉に待ったをかける。
輝かしい冒険時代のお話は純情な弟子を前にすると途端に黒歴史の博覧会よ。
余計なことを言われる前に止めないと。
私はそれなりに真剣な目配せで彼を睨む。
スワロさん曰く糸目と相まってそこそこの威圧感がある私の視線に彼も語ることをやめた。
「マシロは本当に強いのだな」
その間ずっとスノウルちゃんの純粋な眼差しは一直線に私の背を射貫いていた。
これ以上彼女からの期待光線の出力が高まったら胸に穴が開きそうよ。
「じゃあ話題を変えるついでにビッグニュースを聞いてくれよ!」
スワロさんもスワロさんで仕事をほったらかし私達に熱弁を振るい続ける。
やれやれだわ。
「何かしら? ニュースって?」
私が質問をすると彼は突然真剣な顔つきで話し始める。
「まだ確定情報じゃないんだけどさ、なんとあの魔王が殺されたらしい」
その一言が放たれた瞬間、私の背中を刺してた眼差しが消えた。
袖を掴む小さな手が明らかに動揺していることがわかる。
その震えを感じた私は不意に三日前の疑問を思い出す。
……一体この子は何者なんだろう?
スノウルちゃんを弟子として迎えてから彼女の身元について色々と思案した。
魔導師の知り合い、というか私の師匠に相談用の伝書鳩を送ったり、あらゆる種族の生態図鑑に目を通した。
「……妾は、……妾は主を殺した!!」
彼女の発言に関係のありそうな事件についてギルドに情報提供を依頼した。
今日は丁度薬草の納品ついでにスワロさんから情報を聞くつもりだったのだ。
しかし、恐らく、彼女の反応をみるに恐らく。
恐らく私は今、うっかり彼女の正体に近づいてしまったのだろう。
ラスボス戦闘前のような上等なコートを着てたし、なんとなく関係者なんじゃないかなぁ……くらいには思ってた。
強力な魔導具を持ってるということはそれだけ莫大な資産を持っているか、資産のある組織に所属してるか、だからね。
転生前、日本で一般人が拳銃を持っていないように。
逆に拳銃を持つのが警察か任侠者みたいなように。
この世界でそれらの組織は協会と魔王軍に扱いが近い。
彼女が魔導具のコートを着ていたこと。
彼女が私の前に現れた時を返り血を浴びていたこと。
彼女が人間でなくて、まだ見たことのない種族であること。
彼女が途方もなく世間知らずであったこと。
彼女が私以外に頼る相手が無かったこと。
彼女が異常な腕力を備えていること。
これらはこう推測出来る。
強力な資産力のある組織に所属していて、
そこの権力者を裏切って殺してきて、
そしてその組織は人間以外の種族が存在出来て、
一般常識から隔離された状態にあって、
組織以外に頼る相手がいないほど世間から対立していて、
肉体的にただならぬ素質を持っている。
色々と考えた挙げ句、私はこう答える。
「……具体的な説明をいただける?」
私の唖然とした表情を察してかスワロさんはニヒルな笑顔で口をきる。
「……なんでも魔王の娘に裏切られたらしい」
彼女は怯えそっと私に抱きつく。
これはもう確定だろう。
私の元にやってきた弟子、魔王の娘、スノウル。
これから大変そうだけど別に悪い気はしない。
「……大丈夫よ、スノウルちゃん」
私はスワロさんに聞こえないようそっと囁き彼女の頭を撫でる。
昔母が私にしたように。
「どんな時も楽しくいきなきゃね!」
今の私達はきっと大丈夫。
貴方のための魔法があるんだから。
to be continued……
とりあえずこんな感じで白魔導占師と魔王の娘の出会いの物語は幕引きです!
ここまでご覧いただき感謝感激なのです!
ここからは作者のメタ的後語りです。
今後本作はLIVE2Dモデルを作ってアニメ動画化を予定しています。
他作品の【UFA】と【魔王交狂曲】も動画化予定ですが色々波があるのでお許しください、なんでもしますから。
本作の続編は反響を見てからどうするか考えます。
応援いただける方がそれなり(曖昧な判定基準)にいらっしゃってくださるなら二人の今後のエピソードも書くかもしれません。
参考がてら嘘予告します。
~嘘予告~
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魔女狩りの神鳥協会 牧師『ポダルゲー』
数多の出会いの先に彼女達をまつものとは!!
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みたいな感じで打ち切り漫画並の謎キャラオンパレードです
マシロは過去を持つキャラクターなので話の流れ自体は用意しています
ただ時間は有限で全ての理想を叶えるには短いものです
それはそれとそれとして楽しく生きれればいいなぁと思います
以上長い長いあとがきです、またの機会にお会いしましょう!