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照合開始によって判明した事実。

 ムギは「ロランの剣」と名づけている光の剣を信用できる業者によって転送すると、自身はすぐさま魔導具屋へと足を運ぶ。


 そこで大量の使い捨ての一度魔力を放出すると溜め込むことが出来ない魔導カートリッジを購入する。


 使い捨て魔導カートリッジは実は非常に需要のある品。

 辺境の都市国家や周辺の村々ではまず手に入らない貴重品。


 しかしながらガンドラは交易が盛んなことから、普通に店頭に並んでいたので魔導具屋の店員すら引き気味になるほどの大人買いというのをムギはしてしまったのだった。


 その後、ムギは他には何か武器はないかと店内を探ったものの特段いい品はなかった。


 この手の国の魔導具屋が置く武器類は対人用が多く、対魔獣用は殆どおいていない。

 対魔獣用でないとストッピングパワーが足りないのがムギの特性であるので新たなガストラフェテスが届く間は慎重に動かねばならなくなった。


~~~~~~~~~~~~~~


 2日後、銀行の金融取引データをブライアンより受け取ったムギは部下であるリッキーとロンと通信でやり取りを交わし、データの照合を開始。


 ガンドラの街中にあった完全締切の倉庫の一室を完全に借り切って作業に当たっていた。

 ムギは倉庫にある事務用机を借りると、そこに持ち運んでいる小型端末などを設置して作業を行い始める。


 エルは「調べごとがある」といって再びどこかに行ってしまったがカヤとエクセルが近くにいたのでもしもの不安は少なかった。


 その際、リッキーからムギは報告を受ける。


『部長。例の調べ物についてですがいくつか面白いモノが引っかかってましてね』


 送信されたデータはPATOLISシステムを利用して、PATOLISがネットワーク上から調べ上げた黒ずくめの集団に関する情報である。


 全くといっていいほど情報は無かったものの、気になる情報をPATOLISは回収していた。

 スタンダールのとある大企業の幹部を襲った姿を目撃した者がおり、それが黒ずくめの集団であるとSNS上に報告していたのだ。


 たった1件であるものの、PATOLISは繋がりがあるのではないかと拾ってきていたのだ。


『それで自分もちょっと調べてみたんですがね、ここ3年でスタンダールの著名人は死に過ぎじゃないですか? 与野党含めて政治家が何人も死んでますし、有名企業の幹部やそれらの家族が行方不明になる事件が相次いでいる。ウィルガンドでもドゥームでもそういう傾向が少なからずあるらしいです』


 軍事や政治オタクであるリッキーは仕事の合間を縫って自社のシステムを利用して調べたことをムギに伝える。


 実はそういう「諜報組織的」なものに以前より憧れを抱いていたのでテンションマックスでこの仕事に励んでいた。


『そりゃ興味深い話だな。俺を襲った連中は本来そういうのを狙ってたのか?』


『特に気になるのは狙われた企業の連中、PATOLISに調べさせてみたら政治家のパトロンやってる連中なんですよ。スポンサーっすね。政治活動を少なからず停滞させたい奴がいるんじゃないかと思うんですよ』


 ムギがリッキーより渡された資料を見ると、大企業の者達の大半は政治献金を行っている者たちであり、PATOLISは彼らが政治家と繋がりを強めている姿をニュースやSNSなどから収集してきていた。


『リッキー、見てて思うんだが……これは一人の人間や1つの組織がやったことだと思うか? あまりにも全方位で展開しすぎだ。まずここまで状況を作り出すためにかかるコストが尋常じゃないはず。一体どこが何を狙ってやってるやら』


『PATOLISは列強の国家が関与しているのを否定しています』


『なぜ? 根拠的なのは示したか?』


『結果を導き出す際に大きく関与したのが資源です。この三国は見ての通り資源にめぐまれちゃいない。ないわけじゃないですがね……世界情勢に大きく影響するだけのモノを持ってないんですよ。メディアンの歴史的に見ても資源もないような国で事を荒立ててもなんの利点もない事は証明されてますしね……PATOLISは何か暴走した結果じゃないのか的なことを導き出しましたが、どう思います?』


『何か……ねえ? 三国を支配する裏のシステムでもあったか? そんなの神かなんかの関与を疑うがな』


 椅子に腰掛けているムギは脚を組み、神の試練ではないかとも一瞬考えたがエルはそれを否定していた件から何かが裏に潜むが制御基盤を完全に失っているのではないかと考え付いた。


 それが何なのかがわからない。


『金融関係については1日もかからんはずです。処理の速さだけはピカ一ですからね。俺はロンと一緒に株価とか為替とか金融取引関係の方向性からも何かわからないか探ってみます』


『頼んだ』


 リッキーが通信を切ると、ムギは誘拐事件についてなんとなく気になったので調べ始めたのだった。


~~~~~~~~~~~~


 『3年で34人……少なくないねえ。直近じゃ5日前に親子3人が行方不明になってるか。スタンダールの首都から……警察が無能? いや、あの黒ずくめの集団……エルがいなかった頃なら俺を誘拐できていたかもしれない。ここんとこ俺の不安を払拭しているのはエルのおかげなんだよなあ……本当……女神様だよ』


――だが奴らがそういう事をしていたと仮定したらあのヒトデはなんだ?…………拠点防衛用? 例えば、誘拐した連中を未だにどこかで確保してて、そこを守るための兵器だったとか……エルもカヤもあいつらは直接戦闘を得意とする集団ではないと言ってたしな-……


 ムギ未だに情報と情報が繋がらずに答えが出せないので黙り込む。

 その時、少々気になったことがあった。


 M.E.Fの前CEOのことである。

 パティルム曰くつい最近亡くなったとのことだが、その件についてのニュースがないか気になったのだ。


 そして偶然ではないつながりを見つけてしまう。

 それは先月のニュース記事であった。

 

―――――――――――

 

 ~M.E.FのCEO、《ナクルロ》氏の遺体発見。テロリストが関与か。~


 交易中に行方不明となっていたM.E.FのCEOであるナクルロ氏がおととい遺体で発見された。

 遺体にこれといった外傷はなく、現在司法解剖が行われている。


 専門家は毒物または呪いなどの魔術や印を駆使した可能性を指摘している。


 M.E.Fの創業者であるナクルロ氏は、辺境の都市国家、《ジンジャール》出身。

 自身の能力を活かしてこれまで「ランニングコストが高く利益が出ない」とされてきた浮遊式の大型ホバークラフトによる高速貨物輸送事業を成功させる。


 M.E.Fがこの成功を収めた理由は比較的安全かつ高低差のさほどない陸続きの航路を見出し、そこの都市国家間において素早く定期的に運びたい物資などを運んだ事によるもの。


 何よりも定時制を確保したことが今日の評価に繋がった。


 例えば生鮮食品などは凍らせたりすることである程度鮮度を維持できるが、やはりいち早く運搬できるのが好ましいのでこれまでは空輸に頼っていたが、航空機による輸送コストはバカにならず何よりも辺境の都市国家間に航空機向けの空港施設などがないケースも多くあった。


 一般的に空輸による貨物輸送は飛行船によって行われる中、飛行船の速度は速くないのでこういった事には向いていない。


 かといって陸運もこれまでは「遅いし安定しない」と言われていた所、

 ナクルロ氏はその隙間的需要を狙い、主に高級食品などを中心に陸運事業を展開することで収益化を見出し、成功を収めたのである。


 そんなナクルロ氏は寄付などによる慈善事業も積極的に行いそのためにナクルロ財団を創設しているが、ジンジャールなどを中心に展開していて、近年ではその慈善事業をスタンダールなど三国があるストゥルフ地方にも展開して治安維持活動を行う自警団などへのスポンサード活動なども積極的に行っていた。


 そのため、今回の事件の背景には自警活動によって萎縮したテロリストの恨みを買ったものではないかと思われ、テロリストの関与が疑われる。

 現在、テロリストからの犯行声明等は出されていない。


―――――――――――――


『これは間違いなく今回の件と少なからず関係あるな……間違いないだろ!』


 PATOLISはM.E.FのCEOであるナクルロが今回の事件に関与したとは思っていないのか、テロリスト関係での情報収集にてこの情報を収集してきてはいなかったが、(もしくは検索のための設定をムギやリッキー達がミスしていたが)


 ムギは何かあると考え、すぐさまパティルムに連絡を取った。


 ムギは事の次第を伝えると、パティルムは青ざめる。

 自身も積極的に慈善事業に関与していたため、狙われている可能性があったことに気づいたのだ。


 彼が新CEOになったのも「ナクルロ氏の遺志を継ぐならば同じような人間性を持つ人物の方が好ましい」とされたためであるが、それはいわば「いつなんどき狙われるかわからない」ことを意味していた。


 ムギはパティルムに警戒するよう伝えると同時に、ナクルロ氏の使っていた個人用の端末やメモ関係などの情報提供が欲しいと頼むと、


 パティルムは基本的に彼は全て電子データにしているので、取引関係など企業秘密に関わる以外の個人データなら全部渡せるといってきた。


 ムギからの警告に対するお礼として、部下に頼んですぐさまデータを洗い出して提供するという。


 ムギは先日の黒ずくめの連中の件について説明した上で、もし襲ってくるとなると直接的な攻撃力は低いが魔術などを駆使する可能性を指摘してそれに見合ったSPを雇うべきだとアドバイスした。


 パティルムは「あっしは戦いはてんでダメなんで……急いで雇いまさぁ。ありがとう旦那」といって通信を切った。


 ムギは金融取引のデータ照合結果を待ちながらも、パティルムの安全を祈るのだった。

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