新たなる混乱の可能性と親友との会話
『中佐。ジョナス中佐!』
第12連隊の司令室に一人の男が駆け込んできた。
息を切らしながらもとにかく早急に報告がある様子でジョナス・サイアーズが腰掛ける司令室の机に向かって近づく。
『どうした?』
机に座りながら考え事をし、窓の外を見ていたジョナスは振り向く。
『例の謎の爆発地点を調査して参りましたが何も得られませんでした。何が爆発したのかもわかりませんがガンドラの住民は不安を抱いています。なにやらその辺りに奇妙なヒトデのようなものを見たという報告もありますが映像等の記録はありません……それよりも』
『うむ?』
『やはりこの街にドゥームの連中がいたのは間違いなかったようです。これを』
そう言うと部下の一人である男は写真を机にサッと乗せた。
『こいつは先日ガンドラの市民が偶然撮影した例の事件の写真です。ジャミングの影響で荒かった画像を解析班に渡してて鮮明なものにしてみましたが……片方はこの間この基地に訪れた若い奴だろうと思いますが、もう片方を見てください』
トントンと指で叩いた先には黒ずくめの集団がいる。
その姿を見たジョナスはニヤリとした表情を浮かべた。
『こいつぁ驚いたな。軍上層部が手を焼いているドゥームの特殊部隊の連中じゃないのか。私も軍内部の公開情報で見たことがある。我々の特殊精鋭部隊が追い掛け回していると噂で……なんでも隠密活動だけは辺境随一の力をもってるとか。なぜあの若造を追いかけているのか知らんが、ガンドラの付近に展開していたのか』
『あの人間はアークの移民だったらしいです。本日起きた謎の爆発テロの被害者でもあったようで……普通に生きてるようですが、なぜか狙われていました。それはさておき、奴らは我が国内でここ最近政治家などを何人も仕留めた連中。大手企業の経営者の子息も誘拐しているとの事。付近で展開するなら調査をしたいと思いまして、つきましては調査隊を組織したいのですが……よろしいですか?』
『好きにしたまえ。ついでに爆発はドゥームが原因と発表しよう。今そう決めた』
写真を手に持ちながら満足そうな笑みを浮かべ、あごに手を当てるジョナス中佐は突如として面と向かう部下の男が理解不能な言葉を漏らし、
部下は動揺する。
『は!? よろしいのですか!?』
『ウィルガンドとドゥームが裏で取引を行っているという噂もある……そろそろ尻尾を掴みたい所だと思っていた。3年前のテロ。ウィルガンドが被害者だったとしても許すつもりはないが、75年前の大戦でも奴らは裏でコソコソしていた。今回がそうだったとして足元をすくわれたくはないからな。揺さぶるのも悪くない』
『はあ……』
部下の男は「場が混乱するだろこのアホ司令官……」と言いたくなったものの、調査隊が組織できれば上手くいけば先行して彼らを捕捉できると考え、押し黙った。
『調査隊については君に一任する。私は……そうだな。どうやって発表するか考える事にしよう……以上だ』
再び窓の方を向いてしまったため、部下の男は「では!」といって敬礼し、足早に司令室を後にした。
ジョナスは写真を手に取りながら「フフフ、フフフフフフッ」などを不気味に笑っていた。
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一方その頃、ムギはヒトデの残骸をまとめてロランに送付、調査してもらうことにした。
ブライアンに渡しても良いのだが、ブライアン曰く「私共に渡されるとスタンダール軍が調査する事になり……情報の一部が秘匿される恐れがあるので……見なかった事にしますのでまずはムギさんで調べられてはどうですか」ということで、
調査はしたいがその前に他で調査しても良いと反応を示したのでこういった軍事系の武装にも詳しいロランにまずは調べてもらって何か情報を得ることにした。
ムギはその上でロランに連絡をとる。
一連の話はメールなどを使うと問題があるので「調べて欲しいモノがある」とだけ伝え、詳細は残骸の方に手紙として送付していたが、直接自分の声で謝罪したかったのだ。
『すまない……ガストラフェテスを失った。とんでもない化け物と交戦してね』
『あー、じゃあガンドラ付近で確認された爆発は俺の武器のせいか。付近に何もなかったのが幸いとはいえ、思った以上に威力は高かったな』
ロランは特に気にしている様子はなく、むしろニュース映像で何度も流れているガンドラの光が自身が作った武装によるものであることに微妙に満足そうにすらしていた。
『丁度、容量アップした魔導コンデンサーを手に入れてガストラフェテスを改良しようと思ってた所だ気にするな。お前が武具を丁寧に使おうと努力してんのは知ってる。毎日磨いてるみたいで稀にお前がくれる写真に写った武具の金属部分の反射光がすげえ綺麗だしな。なーに、形あるものはいつか崩れる。俺はむしろ秘密兵器が上手く役に立ったことを喜びたいね』
ロランは懐の深さを見せつけ、ムギを安心させる。
そういう男だからこそ今のムギがいるわけだが、心底彼に出会えたことに感謝していた。
『それとネタ装備になっている光の剣、あれの改良プランも用意してる。いい技術情報を手に入れてな……どうしてもやってみたいんだ。送ってくれるか?』
『え、それ送っちゃうと俺は魔力を溜め込む力が無くなって戦闘力皆無になるんだけど!?』
光の剣。
ムギがこの世界に転移したその日に始めてその目にした魔導具であり、ムギを救った者が扱っていた武器でもある。
仕組みは魔力障壁などと同じで、物質と干渉する魔力を利用してその刃を作るわけだが、SF映画のようなものと違い、単純な実剣とは普通に鍔迫り合いできるし、切れ味も良くない。
浪漫溢れるその武器だが、その浪漫に惹かれる者はこの世界でもムギのように少なくなかった。
SF映画並の美しさに魅了されたムギは「絶対この武器が欲しいんだ」とロランと出会った当初より主張していて、
いざ作ってもらってはいたのだが、あまりの切れ味の悪さと燃費の悪さに次第に使わなくなり、今はサブウェポンという立場となっている。
近接武器のメインウェポンの1としてはザ・ウー(The woo)を使っているが、
こちらはカヤがムギに剣術を指南する際に辺境のとある武器屋で見つけてきた魔導具で、現在はもっぱらこちらを利用していた。
ただ、この光の剣は魔力を吸収する「魔導誘引石」という大気中に漂う大量の魔力を吸収する石が埋め込まれており、ムギはこれを使うことで普段は魔導カートリッジ内に魔力を溜め込んでいたのである。
いわば生命線そのものであった。
ガストラフェテスは「あんなんじゃ話にならんから」とムギ用にロランが考案してこさえた武装であったが、
この光の剣は武器としては微妙な性能である一方、全ての要であるムギの「一番重要な第二の心臓部」と言えるものなのだ。
『もう組み込むための部品などは作ってある。座標移動で転送してくれれば3日以内に改良し終わってそっちに送りかえせる。最近使ってないって話だがいざという時の緊急用ウェポンが弱いんじゃ話にならないだろう?』
『そうだけど……』
ムギとしては改良は是非ともして欲しいところであったが、ガストラフェテスだけでなく虎の子の魔導誘引石すら失うと「ただの人」になる可能性もあり、慎重な姿勢を示したい所であった。
『ガンドラで使い捨ての魔導カートリッジを大量購入しろ。それに、魔力の充填だけなら宿屋だとかそこらでも出来るだろ。今お前がいるのはウィルガンド、都市国家じゃない。いくらでも充填できる。なあにどうにかなるってもんさ』
ロランはどうしても改良を施したかったので、そこは譲らなかった。
『衣服もボロボロだけどそっちは大丈夫だよな?』
『ガストラフェテスみたいに跡形もなく吹っ飛んでないなら大丈夫だ。ダメージはしばらくすると自然に修復する。お前に渡した武装は全てメンテナンスフリーが自慢の品だ。ともかく早いうちに頼むぞ』
ロランはそちらを送る必要性はないと主張しつつも、ムギを急かした。
ムギは仕方なくロランに虎の子の魔導具を渡すことにし、通信を切るとすぐさま手配して一気に武装を失った。
衣服は爆発を受けた際よりかはかなり回復してきているがまだ虫食い状態であり、魔導カートリッジは充填していなかったので残量は1本フルになっていたもののもう1本は2割程度。
カヤとエル達に守ってもらわないとどうなるかならないため不安がよぎるものの、「いまはエルがいるから」と己を奮い立たせたのであった。




