某国の秘密兵器1(戦闘回)
それはエルとアークが会話に興じていた1時間前のこと。
昼食がてら商工会を出たムギは突然何者かに大気操る魔法を爆裂されたことによって吹き飛ばされた。
無論、ムギは防御力に長けていたので特に問題はなかったが、街の外の誰もいない遠くの平野にまで吹き飛ばされる事になってしまった。
そこはかなり遠方に森が、すぐ近くにはポツンと大きな岩山とも言うべき岩がある場所。
このような荒業とも言える方法を敵がとった要因はムギの呪いなどに対する魔法耐性が非常に強いことに起因する。
最初にムギに彼らが襲い掛かったときも、ムギには様々なゲームで言うデバフとも言える魔法を受け付けなかった。(この時エルも受け付けていなかったが)
これはメディアンに来た当初のムギには備わっていなかった力で、旅立ってからしばらくして能力不足を痛感していた所に出会った者としばらく行動を共にしながら教えを請うことで得た力である。
半年ほど行動を共にした結果ムギは自身の戦闘スタイルを確立させ、その結果己に眠る唯一の才能に気づくことになった。
それが魔力制御と魔力耐性。
魔力は非常に強い魂より沸きあがるエネルギーである。
ムギの場合、メディアンの平均的魔法使いを100と換算する魔力容量計算法にて信じられないことに魔力保有量は「5」しなかったのだが、
なぜかムギは2000とか3000とか桁が違う魔力を体に浴びてもなんら問題はなかった。
これこそがムギが単体でまともに魔獣と戦うことが出来る力の1つとなっていたほどの才能だった。
魔力は体に大量に浴びると放射線のごとく肉体にダメージを受けるもの。
一般の魔法使いも一度に300とか400といった数値の魔力を体内に流し込んで魔法を行使する場合は非常に精密な魔力制御が必要となる。
そうしないと体が内部から崩壊するので、保有魔力に長けているからといってもその保有魔力を全て使って絶大な力を持つ魔法を行使できるかは自身の魔力耐性と魔力制御能力に比例していた。
だがムギにはそんな制御などなくとも体が影響を受けなかった。
これがメディアンにおけるムギの唯一の戦闘面での才能と言えた。
保有魔力は0に近いが、外部から膨大な魔力を取り込んでも問題ないのだ。
呪いやデバフといった類の魔法は基本的に体内に大量の魔力を流し込んで一定の効力を発揮させようとする所、ムギにはこの手の魔法の効果が発揮されなかったのである。
この耐性は魔法という存在があるメディアンでは稀有でかつ非常に優れたものであったが、
ただそれだけでは活躍などできるわけがない。
5という数値では殆どの魔法を行使する事などできず、メディアンにおいてもそのままでは脆弱な人間でしかない。
だが、そこは技術が下支えした。
魔導カートリッジと呼ばれる電池のようなものを使うことでムギは人並み以上の魔力を保有することが出来、
がんばればどんな魔法も行使する事が出来た。
各種魔導具を開発して提供したロランは「500年前ぐらいならお前は田舎で畑を耕しながら魔獣におびえる生活しかできなかったよ」とブレイクスルーが起きるまでの技術ではありえなかった事と説明しつつも、
現在の技術なら「継戦能力」をある程度犠牲にすることで高い戦闘力を保持することが可能。
しかも、ここで重要なのがムギは「保有魔力自体は0ではなかった」という事。
メディアンにおいて奴隷同然の扱いを受ける者の多くは保有魔力が0であり、完全に魔法等を扱うことが出来ない者となる。
彼らは人が一部を除いて三原色までしか見ることが出来ないのと同じでどう足掻いても魔法を行使できない。
魔力という力を全く扱えない人間。
本来ならば地球人の9割以上がそういう者たち。
アークはムギに対し「0じゃなかったのは奇跡」として「それが1だろうが5だろうが、使えるか使えないかは運命すら変える」と言うほどであった。
ムギはとある人物と共に修行に明け暮れる事で自身の戦闘スタイルを見出しただけでなく、短時間ならば辺境でも有数の戦闘力を誇る人物へと成長を遂げ、尚も成長し続けているのだ。
その者は女性であったが、ムギに対して真摯に付き合い、彼の眠れる才能を引き出すことに成功した。
ロランもある程度その才能を見出していたが、完全に引き出したのは彼女であった。
その結果、黒ずくめの集団はムギを「物理的に吹き飛ばす」形ででしか孤立させる方法を見出すことが出来ず、非常に強引な荒業にて彼を自分達の戦場に引き込んだ。
できれば吹き飛ばした際の重力による自由落下の速度でダメージを受けて欲しかったのだが、ムギはその程度の落下速度を殺せるだけの力すら持っていた。
『やはりこの程度では……アルファ1、状況を開始する。アレを出撃させろ』
着地点の状況を見ていた指揮官は土煙の中より無傷の状態のままのムギの姿を見ると秘密兵器の投入を指示する。
それは空中より投下されたのだった。
ムギはパンパンと土を払って立ち上がると、現在の自分におかれた状況を確認した。
まず通信が出来ない。
ジャミングが仕掛けられている。
幸いにもムギは小型端末、地球で言う高性能ゲーミングノートパソコンのような端末を常に携帯しており、
その中には独立型PATOLISを含む様々なプログラムをインストールしていて有事の際に使っていたのでPATOLISを使えたのだが、
索敵能力などは皆無であるため、敵の正体や現在地については不明瞭な状況にあった。
――この間の連中で間違いないな。ブライアンがスタンダールの特殊部隊ではないと言ってた奴らだ……彼から貰った資料にはあんな見た目の装備を保有する部隊はいなかった。いるとしても第12連連隊が秘密裏に保持しているかどうか。だが12連隊についても国家安全保障調査室が調べる限りではそんな装備はもっていないという……是が非でも正体を掴みたい所だぜ……。
事前にブライアンからかなりの資料を受けと言っているムギはスタンダールの可能性は低いと考え、一体誰が何のために自身を襲おうとしているのか気にしていたが、
しばらくするとまるでジェット機が飛んでくるかのような轟音が聞こえ、音の方向に振り向く。
ムギはその姿を見て目を疑った。
ヒトデである。
ヒトデのような何かである。
金属か何かの複合装甲に包まれた7本腕のヒトデのような何かが空からこちらめがけて突撃してきていた。
ある程度形状が特異な者ばかりと言われる魔獣でさえ、ここまで生物的に逸脱した見た目ではない。
間違いなくメディアンでは条約違反となる生物兵器か何かの類である。
サイズは全長5m程とみられ、巨大なのは巨大だが標準的な魔獣よりは小さい。
体のいたる所に穴のようなものが見え、それが攻撃武器なのではないかと推測する。
ムギはまずガストラフェテスを構えると、FCSを用いて鉄粉から精製した徹甲弾を射撃。
魔導カートリッジの容量はムギが5に対して1000ほどあるが、そのうちの100ほどの魔力を用いて狙撃した。
だが謎のヒトデはこれを凄まじい機動を見せて回避する。
ムギとの距離は300mほどあったが、その程度の距離だと回避してしまう能力があった。
――攻撃の感知能力がある……目にあたる部分やセンサー的なものは見えないのに?……まるで魔獣みたいな……。
装甲に覆われたヒトデは回避行動をすると一気に加速。
そのまま自身の質量を用いてムギへと襲いかかってきた。
ムギは冷静にこれを対処する。
魔導カートリッジの魔力を用いて自身に魔力を流し込み、そして左手でピースを閉じた状態のように人差し指と中指を伸ばして腕を正面にもっていった。
体は急所の多い中心線をさけるように相手に対して横に傾け、膝を曲げて体の重心を落とす。
『気道……側壁ッ!』
スゥーと息を飲み込んだムギは魔獣の体当たりに対抗するのと同様の方法にて、敵の攻撃が直撃する寸前に魔力を用いた壁を生成して攻撃を防ぐ。
それは一般に魔力障壁と呼ばれる技であった。




