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新釈ピュグマリオン  作者: 大橋むつお
29/49

29・咲月の再チャレンジ、そして……

新釈ピュグマリオン・29

『咲月の再チャレンジ、そして……』



 咲月は、オーディションの再チャレンジの付き添いに、栞を選んだ。


 学校の友人だけでなく、家族からもAKPの再チャレンジに反対されてるんだろう。そう思ったが、栞はなにも言わずに会場まで付いて行ってやった。


 咲月は受験生としては、少し年かさだった。たいて中学生くらいで、中には小学生と思しき子供までいた。


「気にすることなんかないよ。要は実力と時の運。実力は……大丈夫。運は、あたしが連れてきたから!」

「え、どこに?」

「咲月の影……ほら、いつもより濃いでしょ。こいつが逃げて行かないように……」


 栞は、目に見えない針と糸を取り出すと、影と咲月を縫い付けてしまった。


「これって……?」

「そう、ピーターパンの最初。ウェンディーがピーターパンの影を縫い付けちゃうじゃん。あそこからファンタジーが始まるんだ」

「ふふ、ありがとう」


 その妙なパントマイム(栞には真剣なおまじない)に同じ控室の受験者や付添人たちもクスクス笑っている。


「いい、卒業した服部八重はオーディションのときは、二十歳。それも一回落ちて、あとで審査員が、あの子惜しいねって呟いて決まったんだからね。咲月は、絶対いける!」

「ありがとう。栞に言われると、そんな気になってきた」

「ハハ……それに、今日の審査には、総監督の矢頭萌絵が入ってるよ」

「え、どうして分かるの?」

「超能力!」


 栞には、人形から人間になった時(颯太には、相変わらず動く人形だが)少しばかり人間には無い能力が身についていた。


「……うん、水分さん、歌はそこそこだね」

 と、ディレクターの大仏康。

「あと三十秒で自己アピールして」

 と、矢頭萌絵。

「二回目のチャレンジなんですけど、あたしって、二回目の方が力が出るんです。体力測定もそうだし、お料理も憶えて二回目からはバッチリです。それに、何より誕生日が四月八日。AKPのオープンと同じ日。あたしはAKPに幸運をもたらす人間です」

「きみ、二回目の二年生なんだね」

「はい。あたし、なんでも二度目に力が出ますから」

「でも、この業界、一発で決めなきゃならないことだってあるわよ」

「大丈夫。AKPも二回目のチャレンジですから、AKPに関しては失敗しません。それに、ここに来るまでに宝くじ買ったんです。前も買いました。前は外れでしたけど、今度は宝くじも当たります!」


 前回と違って、間を開けずウィットの効いた受け答えができた。咲月は手ごたえを感じた。


「精一杯やれた!」

 控室に戻ると、咲月は栞に抱き付いた。

「そうみたいね。今度はひい爺ちゃんにも喜んでもらえるよ!」


 二人で喜んで会場をあとにしようとして、栞は、かすかな異変を感じた。


「ちょっと先に帰ってて。今度は、あたしの番みたい……」


 そう言って栞は、審査会場に戻って行った。正確には審査会場の審査員控室の隣の部屋。スタッフやメンバーが休憩に使う部屋だった。



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