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新釈ピュグマリオン  作者: 大橋むつお
25/49

25・水分咲月のブルー

新釈ピュグマリオン・25

『水分咲月のブルー』          



 クラスは違ったが、噂は聞こえてきた。


 水分咲月が退学もせずに、のうのうと留年して二回目の二年生をやっていることに、みんなが冷淡であることを。


 今朝は、下足ロッカーの中に「さっさと辞めちまえ」という心無い匿名のメモが入っていたことも。


 幸い栞は、クラスに一日で溶け込めた。


 持って生まれた何かが違うんだろうぐらいに思っていた。

 女子高生の人間関係なんて、最初のボタンのかけ方一つで大きく変わる。最初ボタンを掛け違うと、あとは何をやっても悪くとられてしまう。でも、勇気を出して仕切りなおせば道は開けてくるもの。悪意はないが、栞は、そんな突き放した気持ちで咲月のことを思っていた。


 そして、選択授業の移動で、咲月のクラスの前を通った。


 クラスの大半から、特に女子から冷たい目で見られていることが分かった。咲月は懸命にこらえているが、颯太同様な強さで心を閉ざしているので、理由は分からなかった。


 咲月が、一瞬スマホでニュ-スを見て、わずかに心を慰められたのを感じた。


 それは、天皇陛下がパラオのペリリュー島に出向かれたニュースだった。


「お久しぶり、あたしのこと覚えてる?」


 一人食堂の隅でランチを食べている咲月の斜め前にカツ丼を持って、栞は座った。

「ああ……靖国神社で」

「うん、まさか同じ学校だとは思わなかった」


 意外そうな気持ちの咲月だったが、今までで一番開いた気持ちになっているのが分かった。


 駆潜艇咲月、ペリリュー島、AKPなどが、脈絡もなく栞の心に飛び込んできた。栞は思い切って正面から聞いてみた。


「駆潜艇咲月って、ペリリュー島に行ってたんだよね」

「……よく知ってるわね?」


 さらに咲月の心が開いた。バラバラだった言葉が栞の中で一つになった。でも、栞から分かったとは言えない。咲月自身の口から聞かなければ会話にならないと思った。


 咲月がランチを食べる手を休めて語り始めた……。



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