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新釈ピュグマリオン  作者: 大橋むつお
24/49

25・颯太の夢の秘密

新釈ピュグマリオン・24

『颯太の夢の秘密』           



 颯太は、呼び出し音を四回聞いた。


 五回目で出た彼女の声には温もりがなかった。

「なにか、用ですか?」

「久しぶりだね」

 颯太は、できるだけ平静に話を切り出した。なんせ半年ぶりに聞く佐江の声である。


 会話に間が空いた。


 ほんの数秒なのだが颯太には何時間にも感じられた。

「声が聞きたくて……」

 出てきた言葉は、正直だが、ひどく平凡だった。

 佐江は、講師を始めたころの教え子である。佐江の卒業後、いろんないきさつがあって付き合うようになり、将来のことも約束していた。

 颯太は、佐江のことをとても大切に思い。軽々とは電話しなかったし、メールという無機質な連絡の取り方もしなかった。


 週に一回手紙を書いた。


 手紙は考えて書ける。書いた後読み返しもできる。そうやって三度に一度は書いた手紙を破り捨ててもいた。佐江に対して押しつけがましかったり、こちらの思いが一方的すぎるものは惜しげもなく処分した。

 佐江は、そんな手紙を喜んでくれた。佐江の返事はデコメを差し引けば、そっけないものだが、颯太はそれでいいと思っていた。

 今の子は佐江にかかわらず、こんなものだと思った。

 実際月に二三度のデートでは、ちょっと歳の離れた恋人らしい甘え方をしてきた。少しまどろっかしいとは思ったが、採用試験に合格し経済的な裏付けができるまでは、これでいいと思っていた。


 それが半年前から、何通手紙を書いても返事は返ってこなかった。で、思い余って禁を破り電話したのである。


「……大事に思ってくれているなら、なんで半年も放っておいたのよ」


 この一言で颯太は、全てを感じ取った。


 この半年、颯太の手紙は佐江には届いていない。おそらく佐江の親がたびたびくる颯太の手紙を不審に思い開封し、それを読んだうえで佐江に渡さずに処分していたのだろう。ひょっとしたら、学校を通じて颯太のことを調べていたかもしれない。

 なによりも、佐江の心の中には颯太に替わる別の男が住んでいる気配があった。


――身を引くべきだ――


 佐江のことは、何よりも誰よりも大切だった。本当のことを言って佐江の心を煩わせたくはなかった。

 何を言って電話を切ったのかは覚えていなかった。でも切り終わったときには決心がついていた。


――佐江の前から姿を消そう――


 颯太は、佐江のことが大事だったから、好きだったから、それが一番だと思った。颯太は、その年度末に大阪を離れ、縁もゆかりもない東京に単身でやってきたんだ。

 そして偶然が重なり、同姓同名の立風颯太のオジサンが住んでいた、このアパートにきた。そして、オジサンの死後に届いた人形の栞を受け取るハメになり、こうやって人間のようにしてくれた。

 颯太は、平凡で取り柄もなく要領も悪い男だけど、人に対しては並外れた優しさを持っている。


 伸子夫人からもらった式神を使って、颯太の心の奥が、ここまで分かった。


 佐江に嫉妬心を持っていることに気づいてうろたえる栞であった。



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