プロローグ
プロローグ
2月の夜は雪が降っていた。
たぶん雪は初めて見る。さっき殴られた顔にこもった熱に心地良い。でも、弟が寒さで辛そう。うちにはストーブも無いし毛布だけじゃきつい。さっき見たらもう積ってたし。見てたのは雪だけじゃないけど。
さっきから起き上がれない弟の呼吸がいつもより荒い。
昨日の夜から弟も何も食べてないはずだから今の状況はたぶんマズイ。大人の人に早く助けて貰わないと。
でももう少し我慢してて。きっとあともう少しだから。
「早く死ねば良いのに」
思わず独り言が出てくる。そろそろもう良いかな。確認してこよう。
「ちょっと見てくるから待ってて、終わってたらすぐ大人の人呼んでくるからね」
階段の下で男が倒れている。
男の頭部のあたりにある雪が赤く染まり、さっき見たよりもその赤が広がらなくなった。
最初のうちは細かく気持ち悪くぴくぴくと動いていたが、それも止まったみたいだ。
普段、僕ら兄弟を殴るためにあった男の腕を触ってみた。
腕は、すでに外気温に熱を奪われ冷たくなっていた。
さて、そろそろ誰か大人の人を呼ばなきゃ。この男は、もう何をしても二度と動くことは無いだろう。
弟の事も心配。この男に殴られて気を失ってからもう一時間は経っている。
でも、どういった感じで大人に助けを呼びに行こう…
泣き叫びながら近くの家に行こうか、それとも感情を完全に殺した感じでいくか…
とりあえず、この男、「父」は死んだ。
どこかにいれば、親戚、居なければ施設にでも引き取られる事になるだろう。
もう二度とこの男に殴られる事は無いんだ。
もう夜も遅い時間だ。この時間に駆け込んでなんとかなりそうな家はどこかあったか。
このアパートの2階は僕ら以外住んでる人はいないはず。1階に住んでる人たちはみんな夜になるとどこかに行っている。
困った。誰のところへ行こう
そうだ。大家さんのところに行こう。それで駄目なら電気のついてる家のピンポンを鳴らせば大人の人が出てきて対応してくれるはずだ。
急がないと弟が死んじゃうかもしれない。雪の中裸足は辛いけど走って行けば僕の足でもすぐつくはず。
僕らはもう殺されることを考える必要は無いんだから。




