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◇135 四公爵家と侯爵家





 マルゲリータ様が出て行ってしまって、またエリオットと私たち家族だけになってしまった。

 しかしすぐに皇王陛下に挨拶を終えた次の貴族がやってくる。家格で言えば三番目。我が国における四公爵家の一つ、コーラス公爵家の皆様だ。

 コーラス公爵家は五代ほど前の皇家から分かれた公爵家である。つまりフィルハーモニー公爵家とは遠い親戚であった。

 まあ、貴族なんてもんは辿っていけば、どっかで親戚だったりするもんだが。

 コーラス公爵家は皇王派ではなく、中立派である。なので敵対はしていないが、そこまで親しくもないといったところか。

 時には協力、時には我関せずと、付かず離れずの関係っぽい。

 先ほどと同じく、お互いに軽く新年のご挨拶。

 コーラス公爵家は、当主のラジアータ・ヌ・コーラス公爵を始め、その御夫人、長男、次男、長女の五人家族だった。

 コーラス御夫妻は四十半ばくらい? 子供は全員成人している。四公爵家で、未成年の子供は私だけだからなあ。

 とか考えているうちに、次の公爵家がやってきた。

 四公爵の最後の一つ、ファンタジア公爵家。

 コーラス公爵家と同じく、五代前ほどに分かれた公爵家だ。初代コーラス公爵と初代ファンタジア公爵は三兄弟の次男三男だったらしい。当然、長男は私とエリオットのご先祖だね。つまりここにいる全員が親戚なわけだ。かなり遡るけどね。

 昔はあといくつか公爵家があったらしいが、お取り潰しになったり、後継者がなく断絶してしまったりと、まあいろいろあったらしい。

 ファンタジア公爵家の皆さんは三十路みそじ過ぎほどのアレックス・ミ・ファンタジア公爵とその御夫人、長女、次女の四人家族。

 ちなみにこの世界では一夫多妻も認められているから、第二夫人、第三夫人もいる可能性はある。

 基本的に国主催のパーティーなんかには、第一夫人とその子供たちを連れてくるのが一般的だから、この場にはいないだろうけれども。皇王陛下だって側妃を謁見の間に連れてはきてないからね。パーティーには出るだろうけども。

 連れてきてはいけないという決まりがあるわけではないので、連れてくる人は連れてくるし、そこらへんは各々の家庭の事情だ。知ったこっちゃない。

 ファンタジア公爵家は皇王派でも中立派でもなく、『学芸派』と呼ばれる、学問や芸術に重きを置く派閥の家だ。

 ジェレミー先生のカノン子爵家も同じ学芸派。あまり政治には関わらない派閥である。

 挨拶もそこそこに、ファンタジア公爵家の方々は宮廷楽団の方に行ってしまった。聞いたことのない、地球のクラシック音楽に興味津々のようである。ま、いいんだけどね。

 公爵家の挨拶が全員終わり、その後は侯爵家と続く。

 最初にやってきたのは当然ながら宰相さんのところであるテノール侯爵家だ。

 宰相ジェイス・バン・テノール様に、その奥様、そして息子さんと娘さん。息子さんの方は二十歳過ぎくらい。娘さんの方は高校生くらいだろうか。

 ひょっとしてこの娘さんが、秋涼会で未成年組の取りまとめを去年までしていたという、カミーユ・バン・テノール侯爵令嬢かな?

 お父様お母様と挨拶を交わした宰相さんが、私の方にも目を向ける。


「新年おめでとうございます、サクラリエル嬢。去年はいろいろとお力添え下さり、ありがとうございました」

「いえいえ。皇家に連なる者として当たり前のことをしただけですわ」


 このパーティーでのお酒や飲み物、食べ物のことを言ってるんだろうけど、ぶっちゃけお店を呼び出しただけだしね……。

 宰相さんと少し話をした。例のトマトの栽培はきちんと進んでいるらしい。来年にはトマトケチャップができるかもしれないなあ。

 私がそんなことを考えていると、会場の扉が開かれ、次の侯爵一家が現れた。


「うへえ」


 思わず変な声が出てしまう。なぜならそこにいた御令嬢に見覚えがあったから。

 ドナテラ・ナウ・アラベスク。

 秋涼会で私と嫌味合戦を繰り広げた、伝統派を率いるアラベスク侯爵家の御令嬢だ。

 今日も今日とて気合いの入った縦ロールで、相変わらず化粧が濃い。なんでそんな厚塗りメイクにするかね……。十七歳という若さを台無しにしていると思うんだが。

 この子がいるってことは、その隣のちょいぽちゃおじさんがアラベスク侯爵か。四十前くらいのおじさんだが、前髪がちょっと寂しい感じになってるな……。

 それよりも気を引くのが、ピンと立ったカイゼル髭。なに? 伝統派のリーダーってこの髭にする決まりでもあんの?

 アラベスク侯爵家は、夫人と息子、そしてドナテラ嬢の四人家族。二十歳くらいの息子の方も前髪が怪しい。遺伝かな。娘の方は髪がこれでもかと自己主張してるのにね。

 お父様が一礼してきたアラベスク侯爵に話しかける。


「やあ。新年おめでとう、アラベスク侯爵」

「おめでとうございます、皇弟殿下」


 にこやかに挨拶を交わしちゃいるが、お互い目が笑っちゃいない。マンガとかだったら絶対二人の間にバチバチと火花が散っているところだ。


「去年は大変な一年であった。今年は平穏に過ごしたいものだね」


『去年はてめーんところの馬鹿のせいで大変だったわ。今年は大人しくしてろや(意訳)』


「そうですな。私たちのあずかり知らぬところであのような騒動は起こされたくないものです」


『しらねーよ。アイツが勝手に暴走しただけで、こっちに責任押し付けんなや(意訳)』


 ……なんて副音声が、私の脳裏に響き渡っている。はー……嫌だ嫌だ。貴族の腹の探り合いは。とはいえ、私もそれをしなきゃならない。


「サクラリエル様。実はわたくし、先日デビュタント致しまして、先ほど初めて皇王陛下にご挨拶させていただきましたの」

「まあ、それはそれは。おめでとうございます」


 ドナテラ嬢が私に話しかけてきた。へー、デビュタントしたんだ。

 ってことは、アラベスク家を継ぐこの若ハゲ様がいるわけだから、結婚相手を探さないと貴族の籍を失うってわけだよね?

 『学院』を卒業するまでは家に居させてもらえるだろうけど、家を継がない貴族の子女は卒業したら独り立ちしなきゃならない。

 いや、独り立ちしなきゃいけないって法律はないんだけど、貴族籍を抜けた子供が仕事もせず、親の脛を齧ってずっと実家にいるってのは、世間的には穀潰しと見られる。


「これから大変ですね。『学院』での経験を活かして頑張って下さいませ」


『結婚できんの? 「学院」で相手を捕まえなきゃアンタこの先厳しいよ?(意訳)』


「ありがとうございます。この国の貴族の一人として、力を尽くす所存ですわ」


『余計なお世話じゃ、ボケェ! 結婚相手なんざ、すぐに捕まえるわ! 見とけや、クソガキ!(意訳)』


 ……なんて副音声が、また。

 まあ、上級貴族のアラベスク侯爵家ともなれば、それなりに嫁入りさせる相手はいるのだろうけども。

 親子で腹の探り合い(?)をしたアラベスク侯爵家が一礼して離れていく。

 はー……ギスギスしたご挨拶は疲れるわ……。正月早々、気分が滅入る。前世の正月とはやっぱり違うね。

 んでも、正月に両親の実家に行って、親戚のおじさんとかに『なんだお前、まだ彼氏の一人もいねえのか!?』などと、無神経なことを言われるのとあまり変わらないかもしれぬ。

 いや、お年玉もらえるだけあっちの方がマシか?

 こっちの世界にはお年玉ってないのかな? と、ガメついことを考えていると、次の侯爵家がやってきた。


「あ」


 三十路過ぎくらいのダンディな御当主とおっとりとした感じのその奥様。そして私より少し年上な御令嬢には見覚えがあった。

 

「やあリフレイン侯爵。新年おめでとう」

「おめでとうございます、皇弟殿下。去年は大変お世話になりまして……」


 中立派のリフレイン侯爵家だ。連れているお嬢様はメルフリース・テラ・リフレイン。

 『スターライト・シンフォニー』の攻略対象、ベルフリート・テラ・リフレインの双子の姉である。


「サクラリエル様、先日いただいた『天神木の実』のおかげで、弟の病状はどんどんと良くなっているそうです。誠にありがとうございます」

「いえいえ、快方に向かっているならよかったですわ」


 攻略対象のベルフリートは病弱な幼少期を過ごしたというからね。少しでも元気になってくれればいいが。


「お土産にいただいた栗のお菓子(モンブラン)もとても気に入って、食欲も戻ってきたようですの。来年の『新年の宴』には出席できるかもしれませんわ」

「そ、それはなにより……」


 ……あれ? またなんか余計なことをやってしまったよーな……?

 本来なら領地で静養していたはずの攻略対象を呼び寄せてしまった?

 ま、まあ、なんとかなる……なんとかなるよ、たぶん……。ベルフリートのルート、しっかりと思い出さないといかんなあ……。『1』をプレイしたのは中学生の頃だから、記憶がかなり怪しいんだよね……。エリオットルートでさえもあやふやなところがあるし。


「サクラリエルにメルフリース嬢。我々未成年組はあちらの方に行きましょう。この後も次々と挨拶が終わった貴族がやってくるのでここでは邪魔になります」

「そうね、行きましょうか」

「はい」


 エリオットの誘導で、私たちは会場の一角に連れていかれた。お菓子や飲み物が置いてある子供受けのしやすそうな場所だ。

 私たちがそこで固まっているので、その後やってきた貴族の未成年子息令嬢はこちらへと挨拶にやってくる。まあ大抵の令嬢はエリオット目当てなのだが。

 側妃の座でも狙ってるのかね? 帝国の姫と婚約したとはいえ、まだまだチャンスはあるとでも思っているのかしら? 

 と、思っていたら、私の方にも上級貴族の令息などが寄ってきて、鬱陶しいことこの上なかった。

 秋涼会では令嬢だけだったから、こんなにアプローチされるとは思わなかったわ。メルフリース嬢も同じように令息たちに話しかけられていた。向こうもうんざりしてるっぽい。

 子供ながらの自慢話に適当に相槌を打ちつつ、宮廷楽師たちの方に琥珀さんとジリジリと移動して、静かに目を瞑って身体を揺らす。必殺『音楽を聴いてるんだから話しかけてくんな』作戦である。

 ビアンカ、エステル、早く来てえ……。

 







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