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◇134 新年の宴





 あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願い致します。

 なんて長い挨拶はないが、『新年おめでとう』というくらいの挨拶はこの世界にもある。

 『年越日ジルヴェスタ』から明けて、今日は新しい年の初め。つまりは元旦なわけだが、公爵家は朝早くに起きて朝食を取り、すぐに各々(おのおの)の正装に着替えることになった。

 今日はお城で『新年の宴』がある。まあ、かいつまんでいうと、国内の貴族たちが皇王陛下と皇后陛下に新年のご挨拶をし、その後新年パーティーを楽しもうという定例行事だ。

 そしてこの両陛下にご挨拶するという行事なのだが、基本的に身分の高い者からしなくちゃいけない。

 そう、つまり皇弟であるお父様のフィルハーモニー公爵家が一番なのだ。

 なのでこんな早朝から私たちはお出掛けの準備をしなきゃならないってわけなのよ。

 なにこの面倒なシステム……。貴族全員集めて『新年おめでとう』って一言言えばいいじゃんか……。

 でも確か、江戸の将軍様に各地の大名が新年のご挨拶をするのもこんな感じなんだっけか。なんかドラマで見たことがある。大名の地位によって日が決められて、何日かかかったとか。

 皇王陛下おいたんが嫌がる気持ちもわかるわ……。

 かねてから用意してあった、白と黒のゴスロリドレス2に着替え、私の方は準備万端整った。

 髪型も今日はツインテールに可愛くまとめてもらっている。

 お父様とお母様の用意もできたようだ。

 いざゆかん、新年のご挨拶に!



          ◇ ◇ ◇



「新しい年の幕開けを迎え、フィルハーモニー公爵家一同、皇王陛下並びに皇后陛下に謹んで新年のお喜びを申し上げます」

「うむ、めでたい。フィルハーモニー公爵家に九女神の祝福があらんことを」


 謁見の間にて両陛下に挨拶を交わすお父様の後ろで、私とお母様は深く膝を折ったカーテシーで待機状態。何気にこれキツいのよね……。

 挨拶をしたらしばし近況報告を交わし、その後一礼して謁見の間を引き返す。この後も貴族たちの挨拶が順番に山ほど詰まっているのだ。皇王陛下も大変だね……。

 私たちが謁見の間から引き返す時、反対に謁見の間に入ってくる一人の貴婦人と遭遇する。五十手前くらいの、シックなドレスを着た年配の御婦人だ。向こうと両親がすれ違いざま、お互い軽く頭を下げての、無言のご挨拶。

 私もそれに倣い、軽く頭を下げた。一瞬、ちらりとこちらに視線が向けられたけれど、御婦人はそのまま皇王陛下の方へと歩いていく。

 この国でフィルハーモニー公爵家の次に家格の高いコンチェルト公爵家。おそらくあの人はその当主である、マルゲリータ・ル・コンチェルト様だ。

 血筋的にはお父様の叔母、私のお祖父様である亡くなられた先代皇王陛下の妹に当たる。私とエリオットにとっては大叔母になる。

 コンチェルト公爵家はフィルハーモニー公爵家の次に新しい公爵家で、マルゲリータ様が初代だ。

 マルゲリータ様には若くして亡くなった旦那さんとの間に一男一女がいたのだが、長女は夭折、長男は病気で十年ほど前に亡くなっている。なので、コンチェルト公爵家は次代の継承者がいない。

 お父様の話だと、皇王陛下に次の子が生まれ、その子が女ならコンチェルト公爵家に養子に入る可能性があるんだそうだ。

 皇王陛下には皇后様の他に二人の側妃がいるが、そちらに娘ができても養子に出すらしい。

 皇女ともなれば政略結婚の道具として使われるが、この場合、次代のコンチェルト公爵家とも血縁関係を結んでおきたいといったところか。

 もしも皇室と関係のないところから養子を取られたら、その実家次第では皇王派から距離を置かれる可能性もあるからね。

 最近皇王陛下の側妃の一人が妊娠したそうなので、そちらが男か女かで、いろいろと派閥の方向性が変わりそうなのだ。

 生まれてきたその子が男なら、お父様に代わり、エリオットの弟として皇位継承第二位となる。

 女ならコンチェルト公爵家へ養子に行くため、皇位継承順位は四位のマルゲリータ様に次ぐ五位となってしまうのだ。

 まあ、もしもエリオットが死んだりしたら、さすがに皇室に戻して、その子を女王にするんじゃないかとは思うけども。

 ……実をいうと私はどっちが生まれるか知っている。なぜなら『スターライト・シンフォニー4:組曲』で、コンチェルト公爵家の御令嬢として『彼女』は登場するから……!

 うん、エリオットに妹が生まれるが、『学院』入学と同時にコンチェルト公爵家へと養子にもらわれるのだ。

 養子にいってはしまうが、エリオットとの仲は良好で、彼女は悪役令嬢でもない。

 いわゆる『4』の主人公と親しい親友ポジションのキャラなのだ。

 特に暗い影もなかったし、養子になったコンチェルト公爵家で大切にされているのだと思う。

 コンチェルト公爵家は当然ながら皇王派であるから、私も後でちゃんと挨拶しないとな……。体調が悪かったのか、秋涼会では御欠席になられて挨拶できなかったんだよね。

 謁見の間を出た私たちは、『新年の宴』のパーティー会場になる部屋へと移動する。相変わらず馬鹿みたいに広い場所の壁際に、立食形式で食べ物や飲み物が並んでいた。ほとんど私の店で取り寄せたものだ。

 なんだろう、こういう華美絢爛な場所に瓶ビールが置いてあると、ものすごく安っぽく見えてしまうんですけど……。

 会場の中央が空いているのはダンスをするためだろうなあ……。今回も回避できるだろうか……。

 すでに会場には宮廷楽団が入っていて、先ほどから演奏をしてくれている。観客が私たちしかいないのが申し訳ないな。

 バイオリンのところにパメラ先生がいた。こちらに気がついているようなので、小さく手を振っておく。


「叔父上、叔母上、サクラリエル、新年おめでとうございます」


 会場にいたエリオットがこちらへと挨拶にやってきた。

 エリオットはまだ成人前なので謁見の間での挨拶は免除されている。だけども、会場こっちでの新年の挨拶をしなくていいというわけではない。


「おめでとう、エリオット。ジーンはいないのね?」


 どうにもいつも一緒の二人の片方がいないとなんだか変な感じだ。


「さすがに今日はスタッカート伯爵家の一人として向こうに回ってるよ。サクラリエルだってビアンカがいないじゃないか」


 ま、そうなんだけども。ビアンカも今日は私の側仕えとしてではなく、セレナーデ子爵家の娘として皇王陛下に挨拶する。まだ実家を出たわけじゃないからね。

 そんな話をしていると、パーティー会場の扉が開き、先ほどすれ違ったマルゲリータ様がこちらへとやってきた。


「叔母上、新年おめでとうございます」

「大叔母様、新年おめでとうございます」


 お父様とエリオットの挨拶に合わせて、私とお母様もカーテシーで『おめでとうございます』とご挨拶。


「おめでとうございます。皇太子殿下、クラウド様、アシュレイ様。それに……貴女がサクラリエルね。コンチェルト公爵家当主、マルゲリータ・ル・コンチェルトよ。よろしくね」

「サクラリエル・ラ・フィルハーモニーです。大叔母おおおば様にお会いできましたこと、嬉しく存じます」


 私の挨拶にマルゲリータ様は優しく微笑んでくれた。よかった。いい人そうだ。と、思ったら。


「それよりも! 先ほどお義姉ねえ様にお会いしてきたのだけれども、なんであんな若返っているの!? 聞けばフィルハーモニー公爵家の化粧水のおかげって言うじゃない! それって私も買えるのかしら!?」


 突然豹変したマルゲリータ様が、お父様たちにぐいぐいと鬼気迫るように問いかけてきた。お義姉様? ああ、お祖母様のことか。

 そっかー、マルゲリータ様は秋涼会に出てなかったからお祖母様の変化を知らなかったのか。

 風の噂で聞いてはいても、まさかあんなに若返っているとは思わなかったんだろうな……。

 マルゲリータ様も五十路前。お肌の曲がり角はとうに越えたとはいえ、同年代のお祖母様の変化は気になるよね……。


「ええっと、正確にはフィルハーモニー公爵家とトロイメライ子爵家で共同開発した物なのですが、なにぶん数が少なく……。購入は予約制で少しお待ちいただくことになりますが……」

「そうなの……」


 お父様の言葉にマルゲリータ様がしょんもりしてしまった。うーむ、実は私の【在庫保管】の中にあの上級化粧水も何本か入ってる。

 ここはお近づきのしるしにお譲りするべきかな? 私は後ろ手で【在庫保管】を開き、上級化粧水を手のひらに取り出した。


「えっと、お父様。上級化粧水なら私のもらった分がありますけど、マルゲリータ様にお譲りしてもよろしいでしょうか?」


 私がそう話しかけると、マルゲリータ様はお父様を押し退けるように、前へずいっと踏み出してきた。おおう。


「まあ! これがその化粧水なの!? サクラリエル、本当にもらってもよろしいのかしら!?」

「え、ええ。大人になってから使おうとお守り代わりに持っていただけですし、それまでには新しいのがもらえますから」

「嬉しいわ!」


 私から上級化粧水を受け取ったマルゲリータ様が、そのスプレーボトルをプシュ、とちょっとだけ手の甲に吹き付けると、みるみる間にそこだけが若く張りのある肌に若返っていく。


「まあまあまあ! なんて素晴らしい化粧水なの……!」


 キラキラとした目で若返った自分の肌をうっとりと眺めるマルゲリータ様。

 あくまでも『見た目』だけであり、実際に肌の細胞が若返っているわけではない。一回使えば一週間ほど持つが、使うのをやめると徐々に元の肌に戻ってしまうものだ。それでもリオンの鑑定によると、アンチエイジングの効果はあるらしく、使っている間はある程度の肌の老化を防ぐことはできるらしい。

 つまり二十代から二十年間使い続けていれば、四十になっても若い時の肌でいられる、というわけだ。

 そこらへんの注意をマルゲリータ様にすると、『ちょっとお化粧直しをしてきますわね!』とパーティー会場を出て行ってしまった。こりゃ戻ってきた時、とんでもない美魔女になってるな……。

 お母様が派閥の人たちに回した分もあるから、今日のパーティーって若返った人ばかりになるんじゃないだろうか。

 皇王派じゃない家の御婦人方には地獄かもしれぬ。くわばらくわばら……。









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