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◇126 事件解決?





 結論から言うと、電気は持ち出せなかった。

 いや、正確に言うと、店の範囲二メートルくらいならば使える。延長コード一本分くらい?

 でも延長コードに延長コードを繋げて長くしても、それ以上遠くになると、プツリと電気が来なくなる。

 延長コードが足されて長くても、二メートル圏内なら使えるので、これはもう店の仕様だろう。酒屋の自販機だって電気で動いているわけだしね。

 なので、電源の必要な楽器を鳴らすなら、店を背負って演奏しなければならない。

 なんともシュールな……。ドサ回りのバンド感が出そうだな……。

 エステルは私がギター(正確にはミニエレキギター)に転向したと聞くと、自分もあっさりと楽器を変えると言い出した。

 初めは私と同じミニエレキギターを希望したが、パメラ先生の『違う楽器の方がセッションした時に一体感があって楽しいと思います』との言葉で、ミニベースギターを選んだ。

 実際に先生の言っていたように、二人で違う楽器を演奏していると、音が合った時になんともいえない楽しさを感じる。

 ……というか、エステルってばベース初めてなのに、なんでそんなあっさり弾けんの……? これが主人公補正なのか……?

 レッスンが終わると約束とばかりにパメラ先生に楽器店『オールディーズ』を出して欲しいとせがまれたが、一応上限金額は念押ししておいた。大人なんだし、自分の稼いだお金なんだから何を買おうと勝手だろうけど、さすがに食費などの生活費を削ってまで買われてもこっちも困る。

 同じ楽師仲間からエレキギターやエレキベース、ドラムセットなどの購入を頼まれて、お金を預かってきたってのは、まあ対象外にしたけども。

 楽師仲間とパメラ先生はバンドを組む気満々のようだ。『オールディーズ』には、バッテリー充電式のアンプもあったから、店を出さなくても使えることは使えると思う。まあ、充電はウチの店じゃないとできないから、私がいないと話にならないわけだけども。

 公爵家うちでは楽器店で買った楽器は、全部音楽室に置いてあって、申し出れば使用人の人たちも自由に使っていいことになっている。うちの使用人には貴族の三男四男、三女四女といった人も多いから、楽器を弾ける人が多いんだよね。気晴らしになればと思ったお父様の配慮だったらしいけど、意外と楽しんでる人たちも多いみたい。音楽に触れたことのない律なんかも、先輩メイドたちから教わったりしているようだ。

 レッスンやお勉強を終えて、エステルとビアンカはユリア先生の運転するキッチンカーで帰って行った。

 いつもならお父様とお母様、そして私の三人で夕食を取るところだけど、今日はまた社交パーティーがあり、私一人がお留守番だ。

 ついて行ってもよかったんだけど、暇を持て余すのはわかっていたからね。丁重にお断りした。

 ちょっと寂しいけど、一人で夕食を終え、自室に戻る。

 さて、と。


「それで? 律、なにかわかった?」

「はい、サクラリエル様。パメラ先生が嫌がらせを受けているのは確かなようです。悪意のある手紙から始まり、楽譜のすり替えに、よからぬ噂の吹聴、楽屋での所有物紛失など、嫌がらせは多岐に渡るようで」


 そんなことまでされているのか。なのに、先生はそんなそぶりをまったく見せなかったな……。

 私たちに心配をさせまいとしているのか、それとも本当に神経が図太いのか……。

 なんにしろ放ってはおけない。余計なお世話かもしれないが、これがエスカレートしてパメラ先生が生命を落とすようなことにでもなったら、私は自分を許せなくなる。


「犯人は誰かわかった?」

「同じ宮廷楽師のバイオラ・バウロン女史ですね」


 私の質問に律がズバッと答える。おお、もう犯人まで突き止めているんだ。さすが七音の一族、仕事が早い。


「証拠は?」

「物的な証拠はあいにくとまだ。ですが、パメラ先生の楽屋を張り込んでいたところ、バウロン女史が忍び込み、楽譜を破いていたのを一族の手の者が見ております」


 物的証拠はないか……。カメラとかあれば渡しておいたんだけどなあ。


「バウロン女史はパメラ先生と同期で、以前コンミスの座を争ったこともあるそうです。最近ではパメラ先生のエレキギターに『やかましくて品がない』『雑音を奏でる楽器』『宮廷楽師に相応しい音楽ではない』と否定的な言葉を楽師仲間に漏らしていたそうで」


 ロック反対派か。それ自体は別に構わないんだけどね、隠れて嫌がらせをするってのが気に入らない。

 パメラ先生が言っていた、『思い当たる人物』ってのは、このバウロン女史じゃないかな? そういうことを『やりかねない』と、パメラ先生も思っているんだろう。

 とりあえず証拠を集めて断罪したいが、どうしたものか。


「現場を押さえることは可能ですが。パメラ先生の楽屋を張っていれば、なにかしら尻尾を出すかと」

「まあ、それでもいいんだけどね……」


 バウロン女史が楽屋でパメラ先生の私物を壊したり盗んだりするところを押さえれば言い逃れはできまい。

 ただ、それを私たちが勝手にやってもいいものかってことがね。

 宮廷楽師は城に仕える楽師たちだ。基本、仕事場は皇城になる。そして城の警備は騎士団の管轄であるからして。

 騎士団の方に相談すると話が大きくなってしまう。とりあえずは被害者であるパメラ先生に話すか? 

 この件に関しては私たちは部外者だからなあ……。余計なお世話と言われてしまえばそれまでだし。

 けれどもパメラ先生の生命に関わってくる可能性がある以上、放置はできない。

 やっぱりパメラ先生に話して、どうするかを決めてもらおう。先生だってこのままでいいとは思ってないはず。

 これでジェレミー先生ルートが潰れればいいんだけど。

 ……気持ち的にはまだ惜しいと考えてしまうけどもね……。



          ◇ ◇ ◇



「確かにバウロン女史が怪しいとは私も思っていました……」


 次の日、律から得た話をすると、パメラ先生もため息とともにそう漏らした。

 七音の一族の話はできないので、とある城勤めのメイドが、パメラ先生の楽屋にバウロン女史が入っていくのを見たと説明した。


「また忍び込むところを騎士団に押さえてもらえば、もう言い逃れはできないと思うんですけど……」

「私のためにそこまで……。ありがとうございます。ですが、そうすると大事おおごとになり、バウロン女史は宮廷楽師を辞めなければならなくなるでしょうね……」


 まあ、そうだろうなあ。犯罪の重さを考えると、そこまで重いものではないが、それでも宮廷に勤める者としては相応しくない。


「あの方のバイオリンは激しく、情熱的で、まるで自分の感情をぶつけるような……とてもいい音色を奏でますのに……。あの音が聞けなくなるのは残念です」


 え、そこ? そこが気になるの?

 自分に嫌がらせをした相手なのに、その演奏が聞けなくなるのが残念とか……。音楽家って変わった感性してるんだな……。

 

「彼女がエレキギターを弾いたら、とても激しい演奏を見せてくれたと思うんですけどね」


 ううん……。私の頭の中にハードロックとかヘヴィメタルが流れてきたんだけども。私そっち系は苦手だからよくわかんないや……。

 とにかく私の進言もあって、パメラ先生は騎士団に相談することになった。

 この場合、城の中での問題なので王宮騎士団である第二騎士団の管轄になる。

 かつてビアンカと戦った、グロリアの父親が団長だったところだ。例の魔剣事件で、グロリアの父親は男爵に爵位を落とし、辺境を警備する第四騎士団に配属となったとか聞いたけど。

 新しい団長さんが誰かは知らないが、パメラ先生からの相談を受けてすぐに動いてくれたらしく、その日のうちにバウロン女史はお縄になった。懲りもせず、また忍び込もうとしたところを捕えられたらしい。

 罪状としては楽屋荒らしだが、これから余罪も出てくると思う。

 罪としてはそれほど重くはないが、やはり宮廷楽師としてはもはや活動はできないだろう。

 音楽家としての腕はあるのだから、下級貴族や裕福な商人などの家で、音楽の家庭教師としてなら食べていけるとは思う。

 気になったのは、宮廷楽師をクビにされた逆恨みで、パメラ先生に復讐をしたりはしないかということだったが、とりあえずその心配はないみたい。

 なんでも皇都から追い出され、二度と入ることを禁じられたとか。城での盗みだからね。そんな奴を皇都に置いとけるかっていう。

 アレだ、江戸払いってやつだ。

 実際の江戸払いは、住むのは禁止だけど入るのはOK、みたいな緩いやつだったとか聞いたから、それとは違うか。

 罰としてはこれも軽い方なんだそうだ。まあ禁錮何年とか、懲役何年とかじゃないもんね。皇都に入れないってだけで、すぐ近くの町とかには住めるわけだし。

 おでこに『犬』とか刺青で書かれるよりまだよっぽどマシだろう。

 一応これでパメラ先生への嫌がらせは解決した……のだけれど、果たしてこれでジェレミー先生のルートを潰せたのかしら……?

 あっさり解決してしまったからか、なんともしっくりこない。

 あのまま嫌がらせが続いていたとして、この冬の間にパメラ先生を殺すまでエスカレートしただろうか? どうも違うような気がする……。

 この事件はパメラ先生の死の、直接的な原因じゃないんじゃ……? だとしたら、まだパメラ先生から危険は去ってはいない。

 琥珀さんに頼んで、皇都にいる野良猫たちにパメラ先生をそれとなく監視してもらい、なにかあったらすぐに知らせるようにしておく。

 何事もなけりゃいいけど……。いや、なにかは起こるのだ。必ず。それがわからないからモヤモヤする。

 ジェレミー先生の過去話とか、そういったのが書かれた設定資料集とかあったりしないかなあ。

 本屋が召喚できるようになればワンチャンあるかな?

 タイミングよく『1』の設定資料集が出た時期の本屋を召喚……そんなうまくはいかないか。

 コンビニに置いてあったゲーム雑誌も『1』が出る数年前のやつだったし。

 何が起こるかわからない状態ってのは、なかなかに心労がキツいなあ……。








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