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◇125 店舗召喚15





「まあ、そうなるよねー」


 予想できていたので、私は特に驚くこともなく、起き抜けに右手のレベルアップした紋章を見た。

 攻略対象であるジェレミー先生と出会ったからな。そりゃレベルアップするわ。

 もう慣れっこになった両親らを引き連れて、いつもの召喚場へと向かう。


「今回は珍しく、大きな問題もないのに祝福を受けたね。問題が起こると祝福を受けるってのはやっぱり間違いだったのかな?」

「いえ、昨日のパーティーのはちょっと問題でしたけど……」


 う。前を歩くお父様とお母様がそんなことを話しているが、許してくれ。若さゆえの過ちってやつなんだ……。

 公爵令嬢が招待された家の次男の襟首掴んで怒鳴り散らすって、ありえないからね……。子供のしたこと、子供のしたことだよ……。それで勘弁してつかぁさい……。


「なあ、昨日のパーティーで何かあったのか?」

「私は何も……。やっぱりついて行くべきでしたね」


 後ろを歩くビアンカと律からもそんな声が飛んでくる。いや、いなくてよかったよ。(あるじ)の醜態を見せるところだった。琥珀さんとエステルには見られたけど。

 あ、そう言えば後で律に、七音(ななね)の人たちにパメラ先生の周囲を探るように頼まないとな。嫌がらせの手紙を誰が送っているのか、まずはそこを調べなければ。

 前を歩く琥珀さんはすでにパメラ先生の周りに配下の動物を向かわせたらしい。これで何かわかるといいけど……。

 気持ちを切り替えて、とりあえずやることをやるとしよう。

 召喚場に着いて、いつものように意識を集中する。


「【店舗召喚】!」


 まばゆい光の渦の中、私の中から魔力が抜けていき、新しい店舗が召喚される。そこそこ大きいかな? 服飾店よりちょっと小さいくらい?

 やがて召喚された店舗が私たちの前に現れる。


「……あー……これは……。ちょっとあの人を呼ばなきゃだなぁ……」


 私は目の前に現れた店を見上げながら、そんなことを呟いた。なんともタイムリーな……。



          ◇ ◇ ◇

 


「ふあぁぁぁァァァァ!? 素晴らしいっ! 素晴らしいですよ、サクラリエル様っ! 夢みたいです!」


 店内で身悶えするほどに絶叫しているパメラ先生。

 そう。今回呼び出した店は、私がバンドに転んでいた時に通っていた楽器店、『オールディーズ』だった。

 ちょっと渋いおじさまが店長で、懐かしめな曲がよくかかっていた記憶がある。

 うーん、パメラ先生のことを考えていたから引き寄せてしまったのだろうか……? それとも女神様たちがなにかしたのかしら? サクラクレリア様は音楽と歌の守護女神だからな。有り得なくはないかも。

 私は思わず天井を見上げてしまったが、もちろん答えはない。

 まあいいや。パメラ先生が少しでも気分転換できれば御の字でしょ。

 店内はエレキギターやエレキベース、アコースティックギターにキーボード、ドラムセットも売っている。

 サックスやトロンボーンなんてのもあるな。クラリネットやバイオリン、シンバルなんかも。

 あ、エレキギターの弦も売ってるな。これは助かる。パメラ先生、弦を新しく取り替えるのに新しいギターそのものを買わないといけなかったからな……。鍛冶屋に頼んで特注で作れなくもないかもしれないけど。

 マイクやマイクスタンドもあるのか。これは皇王陛下に売れるかも。集めた貴族に挨拶するのに声を張らなくてもよくなるし。

 店内に置いてあるモニターでは、ミュージシャンのPVが流れていた。みんな驚いてかぶりついて観ている。まあ、そうなるよね……。

 突然パメラ先生が、店内に置いてあったキーボードを弾き始めた。あ、電源入ってるんだ。


「ああっ、ピアノとはまた違う音……! これはいい物です……!」


 電子オルガンのような音が店内に響く。確かこの手のキーボードって音をいろいろ変えられるんじゃなかったっけ?

 先生の弾いていたキーボードにある音色変更ボタンを私が押すと、オルガンのような音が今度はチェンバロのような音に変わった。


「な、なんという……! やっぱり異界の楽器は素晴らしい……!」


 いろいろな音色に夢中になっているパメラ先生を置いて、私たちは店内を物色する。

 バンドスコアとかもあるんだね。って、私もここで買ったな、確か。弾きこなせなかったけど……。

 チューナーやエフェクター、ちゃんとしたアンプもある。

 チューナーはまだバッテリーや乾電池でどうにかなるのもあるけど、普通のアンプは電源がなあ……。バッテリー内蔵のアンプもあるけど。

 いや……いくつかの店舗には外にコンセントがあった。あれと質屋にあった延長コードを使えば、電気を引っ張って来れるんじゃないかな?

 私の店は、店内の商品じゃないものは持ち出せない。電気はどうなんだろう?

 ちなみにキッチンカーを召喚すると付いてくるテーブルと椅子。あれらは元々店外(キッチンカーの外)で召喚される。テーブルの上に載っているケチャップとかもね。

 持ち出せるかとやってみたんだけど、結果はダメだった。

 いや、持って運ぶことはできるんだよ。だけどキッチンカーが見えなくなると(キッチンカーから見えなくなると?)フッと消えて、元の位置に戻ってしまった。

 ちなみにキッチンカーの方が走ってその場から去ると、テーブルや椅子は消えてなくなる。車内にちゃんと収納すると消えないんだけども。

 電気はどうなるんだろう? 店が見えている範囲なら使える? それとも店外に出た段階で電気はストップされるのだろうか。

 まあ、最悪店内で楽器を鳴らすっていう、本来なら迷惑千万な使い方になるけどさ。

 やるなら模型店か服飾店、銭湯あたり……か? カラオケボックスや音楽スタジオとかが召喚できるようになれば、問題解決なのかしら? ……カラオケボックスはまだしも、音楽スタジオって店なんだろうか?

 要検証だな。後で確認してみよう。


「あら、これって小さいギター? これならサクラちゃんでも弾けそうね」

「っ!?」


 お母様の言葉に振り向くと、確かにギターが置いてあるコーナーの隅っこに、一回り小さいアコースティックギターが置いてあった。

 ミニギターだ! これなら指の小さい私でも弾ける! わはは! バイオリンよ、さらば!

 私は置いてあったいくつかのミニギターから、女の子っぽい桜色のやつを選んでストラップを肩にかけた。

 おお……! しっくりくる……!

 Em、Am、E、D、A、Gとコードを押さえて弾く。そして難関のF……! よし、なんとか弾ける!

 そのまま某有名アニメ映画の主題歌を弾く。風になるやつ。

 久しぶりだけど、そこまで速くないテンポだし、難しいコード進行じゃないからなんとか弾くことができる。

 調子に乗って歌も歌っていたら、横からパメラ先生がキーボードで伴奏を始めた。即興で弾いてる!? すごいな……。

 弾き終わるとお父様たちから拍手をいただいた。なんか照れる。


「素晴らしい曲です! それも異界の歌ですか?」

「えっと、はい。まあ」

「ですが、ギターはまだたどたどしいですね。もっと練習しましょう」

「はぁい……」


 ぬう。やはり私の腕前ではパメラ先生のお眼鏡にはかなわないか。

 あ、ミニエレキギターもあるんだ。ウクレレもある。しまった、この曲ならこっちだったな。

 一本だけだけど、ミニベースギターもある。エステルに勧めてみようかな。バンドとか組めないかしら。


「サクラリエルにはバイオリンよりギターの方が向いてるのかもしれないね」


 お父様からもそんな言葉をいただきました。まあ、一応経験者だからねえ。そこまで上手くはないけど。

 お父様たちも見たことのない楽器に関心を持っていたが、これらの物はたぶん買ってもそれほど売れないと思う。

 バイオリンなんかだと、この店のものはいわゆる量産品だけど、貴族が使うバイオリンは職人が作り上げる一品ものだし。おそらく向こうのほうが音がいい。なのにこっちの方が値段は高いしさ。

 エレキギターやエレキベース、キーボードなんかは売れるかもしれないけど、電源というネックがあるからな。電気が外でも使えたところで、売れた人たちに毎回私が電源供給するわけにもいかないし。

 結局この店は特定の人にしか活用できない店ってことになる。模型店でもそうだったけど、専門店ってそういう面があるよね……。

 楽師の人たちには、チューナーとか楽譜とか細々(こまごま)としたものは売れるかもだけど。


「楽譜がいっぱい……! ああっ、どれもこれも魅力的……!」


 ……パメラ先生にはなんでも売れそうな気がするな。一応、宮廷楽師の稼ぎがあるだろうから、いろいろ買えないことはないのかもしれないけど、あまり散財させるのは気が引ける……。

 そこのキーボードだって、二十万近くするから買うなら二百万円だよ……?


「サクラリエル様、これは? 変わった形をしていますが……」

「ああ、ショルダーキーボードですね。ギターのようにストラップで肩にかけて弾けるピアノです」

「なんと……!?」


 さっそくパメラ先生はお試しコーナーにあるアンプを繋いで(私がやってあげたのだが)演奏し始めた。

 さすがプロなだけあって演奏は上手いんだよなあ……。思わず聞き入ってしまう。


「ううっ、欲しいものだらけでどうにかなっちゃいそう……」


 気分転換に良かれと思って連れてきたけど、気分転換どころかどっかにトリップしそうなパメラ先生にこっちはちょっと不安になるわ。


「サクラリエル様、これは?」


 律が手にしているのは俗にサムピアノと言われる楽器、カリンバだ。

 箱に並んだ細長い金属片を、指で弾いて音を鳴らす、確かアフリカの楽器。

 私がドレミファソラシド、と弾いてみせると、律は自分でもポロロン、ポロロンと弾き始めた。気に入ったのかな?

 律は同じようにキーボードの方も弾いていた。ドレミファソラシドは弾けるみたい。

 ビアンカの方は電子ドラムを面白そうに叩いている。なんか不思議と堂に入っているな……。まるで短剣でも振るっているかのように見えるんだけども。確かビアンカはフルートを習っていたと聞いたけど、大きく体を動かすこっちの方が向いているのかもしれないな。

 その後、店内のほとんどのものを買うと言い出したパメラ先生をなんとか宥めて、一応、常識内の金額に留めてもらった。いつでも買いに来ていいと約束させられたけども。

 私はお父様とお母様に許可をもらって、楽器の習い事はバイオリンからギターに変えてもらった。エステルはどうするかわからないけど、一応ベースとかを勧めてみようと思う。

 おっと、律に頼んで七音の一族にパメラ先生に嫌がらせの手紙を送っている人物を調べてもらわないとね。

 今回のことで、パメラ先生はさらに注目を集めるだろう。嫌がらせがさらにヒートアップする可能性も考えられる。

 悲しい運命が来る前に、先んじて動かねば。









お待たせしました、『桜色ストレンジガール』第一巻が4/17に発売されます。すでにAmazonさんなどで予約が始まっております。さらに二巻は五月に発売。二ヶ月連続発売です。新シリーズなのでこの売れ行きにより以降の続巻が決まったりしますので、なにとぞご予約などお願い致します。

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