記憶の奥底に眠る優しくて可愛いあの子は誰なのだろう
「遠夜……っ!」
肩に冷たい雫が降るのが分かる。碧泣いてる。泣かないで。そう思いを込めて彼の背中を撫でる。
碧はぎゅうっと苦しいぐらい俺を抱き締める。ポロっと俺の目からも涙がこぼれた。
ああ、ずっとこの体温を恋焦がれてた。再び手に入るなんて思わなくて二人して泣いていた。
身体を少し離し、どちらからともなく口付け合った。
【九重巳月の独白】
ずっと、不思議に思っていたことがあるんや。海月ちゃんは、誰をずっと思っとるのか。
七星はんのことが何故徐々に憎くなるのか。
分からんくって一人首傾げとった。七星はんと酷い喧嘩をした覚えもない。海月ちゃんが、長く片想いしとる相手とも会ったことはない。
たまに夢に出てくる子。
名前しか分からない子。
「小波遠夜」って誰なんやろ。オレは、その子を傷付けてしまった気がする。
やのに、全然思い出せへん。
遠夜はんは、凄く小食だったとか。そんな些細な情報しか思い出せんくって。モヤモヤする。
未だに戻ってこない海月ちゃんを待ちながら俺は考える。可愛くて優しいあの子のことを思い出そうとしながら。
※
俺は碧に手を引かれながら、ある場所に向かっていた。碧は頑なに内緒と言う。
どこに行くのかなぁとわくわくしながら着いていく。
「二人ともお待たせしました」
碧のその言葉で俺は碧の背中に隠れる。今世では、かなり人見知りになってしまった。
「おっそいで、海月ちゃん」
あれ。この声は……。
「すいません。『巳月さん』。懐かしい子に会ってて」
「ほーん? 懐かしい子?」
ああ、知っている。この声。前の俺の二人目の友達。一方的に仲良しだと思いーー傷付けた人。
「ほら、遠夜。ご挨拶」
「あ、あの……蒼葉遠夜、です。『初めまして』」
「わっ。なんや、この子。ちっこくてかわええ!」
九重君は碧の背中から顔を少し出した俺にそう言った。覚えてないんだ。そのことに安堵したけど、胸がちょっぴり痛んだ。
かわええ、かわええとしきりに言う九重君に昔が懐かしくなって鼻の奥が痛んだ。
碧はなにを思って九重君を俺に自己紹介させたんだろう。九重君が覚えてなくても、碧が教えたことにすればいいのに。
そうしたら、こんなに胸が痛まなくてすむのに。
「あ、俺は九重巳月。よろしくなぁ、『遠夜はん』」
懐かしい呼び方にとうとう涙が溢れてしまった。俺は慌てて碧の背中に顔を埋めた。
泣くな。俺が泣くのは、お門違いだ。
「どうしたん?」
「ちょっと、色々あって疲れてるみたいなので今日はこの辺で遠夜を帰しますね」
「おー。ほな、またな。遠夜はん」
ポンポンと優しく頭を撫でてくれる。やめてよ、涙止まんないじゃん。
なんとか涙を止めては拭う。二人に頭を下げて俺はその場を後にした。




