74 海で遊んでます
こうして俺・踊り子の服の女子四人という集団で海で遊ぶことになった。
なんか、金持ちの男のヤバい趣味みたいだけど、そういうのでは一切ない。金持ちだったら無人島を買い取ってプライベートビーチ的に使ったりするだろうし。
やること自体はかなり健全だ。まず、磯の生き物探し。
浜からちょっと移動すると、いろんな生き物がいるエリアがある。地元なのでこのあたりは詳しいのだ。
「ほら、これがヒトデです」
「おお、本当に星の形をしている……」
海の初心者であるファーフィスターニャ先輩は俺の紹介する生き物を一つ一つ興味深く見ていた。
「あっちにいるのはヤドカリですね。貝の死骸を自分の家みたいにしているんです」
「どれも実物を見るのは初めて。とても面白い」
なんだか海の生物についての授業みたいになっているな。
一方、ケルケル社長はざぶんと水に飛び込んで、魚を手で取ったりしていた。
「上手いですね……」
「こういうのを見ると、野性が目覚めるんですよね。たまには犬の姿で息抜きで野山を走り回りたくなるんですけど、こんな休暇もいいですね♪」
社長は落ち着いているようで、さっと海に入っては魚をゲットするというようなことをやっていた。遊び方は人それぞれだ。
「わらわはこういう場所は苦手なんだよね……」
メアリはなぜか浮かない顔で、俺に密着しながらこわごわと移動している。なんか学校の文化祭のお化け屋敷でも歩いているみたいだ。メアリより怖いお化けなどいないけど。
「何がそんなに苦手なんだ? 磯の香りがダメって人ならいるけど」
「こういうところって出そうなんだよね。岩場とかはとくに……」
――と、カサカサと何かが岩間から動くのが見えた。
「ああ、フナムシか」
「ひゃあっ! 出た! 怖いよ、お兄ちゃん!」
メアリが思いっきり抱きついてくる。この服で抱きつかれると変な気分になりそうでよくないな……。しかし、メアリの本気度は伝わってくる。
「そっか、苦手っていうのはフナムシか」
「お兄ちゃん……しばらくぎゅっとしてて……。怖くてふるえちゃうから……」
これは冗談じゃなくてマジだ。メアリは海みたいに青い顔をしている。
フナムシがダメという人はかなり多いが、『名状しがたき悪夢の祖』でも怖いんだな。フナムシ恐るべし。
「あららら、本当の妹さんみたいですわね。家族の意外な一面を見れましたわ」
セルリアはこういうの平気みたいだな。個人差があるものらしい。
「これ、この世界に来て、最初に見た時から生理的にダメなんだ……。動きがとにかくキモいよ……。フナムシとゴキブリはダメだ……」
「カサカサ移動するものは嫌悪感を示すのかな……」
「お兄ちゃん、あったかい。髪撫でて……」
俺はお兄ちゃんじゃないぞと思いつつ、今のメアリをそのままにしておけないので、言われたとおりにする。
「どうだ、落ち着いたか……?」
「うん、フランツ、ありがとう」
妹みたいな存在が怖くなっていたら、こうやって慰めてあげないとな。
そこで、メアリがちょっと顔を上げて、俺の顔を上目づかいでのぞきこんできた。
「なんだかフランツに撫でられてたら、わらわ、え、えっちな気持ちになってきちゃったかも……」
俺もドキッとしたけど、ここは毅然とした対応がいると思った。
「それは許可しない! ここは公共の場所だし!」
「ですねえ。お二人とも、我が社の社員ではあるので、そこは節度ある態度をお願いいたしたいです」
社長からもフォローが来た。この姿に節度があるのかは微妙なラインだけど、犯罪ではないのでいいんだろう。
●
そのあとは波の来る砂浜を歩いて、日がそれほど照っていないヤシの木の陰で日光浴もすることにした。
照っていないところってどういうことかというと――
この踊り子の服の金属部分、熱がこもりやすくて熱いのだ……。
よくよく考えてみれば、踊り子って真夏の太陽の下では踊らないからな。だいたい夜の劇場とかで踊ると思うので、太陽対策は考えられてない。セルリアは慣れているのか問題を感じてないらしいけど、初体験の人にとったらそうじゃなかった。
ファーフィスターニャ先輩が「このままだと火傷するかも……」と言い出したので問題に気づいた。
そりゃ、そうだよな……。水着が金属じゃない理由ってそれもあると思う。
でも、波の音を聞きながらぼうっとするのも、これはこれで贅沢で悪くない。
「なかなかいい気分ですわ。魔界のバカンスを思い出しますわ」
すぐそばにいるセルリアがそんなことを言った。
「うん、俺も幸せすぎて怖いぐらいだ。デカい鮫の襲撃でも来なきゃいいんだけど」
ごく稀にだけど、海岸に海洋生物がやってくることもあるからな。鮫の種類によっては海水浴客を狙う奴もいるらしい。
「いや~、私もついてきてよかったです」
ケルケル社長も気持ちいいのか、尻尾をぶるんぶるん動かしていた。
ちなみにこの集団、無茶苦茶目立つらしく、視線をかなり感じていた。「あの男、何者だよ」「どっかの領主のバカ息子じゃねえのか」なんて声もする。きっちりうらやまれてるな。ただの新入社員です。
ほかにも、「犬耳の子と一緒に過ごしたいな」「あのサキュバスの子も胸すごいぞ」「あの小さい魔族の子にお兄ちゃんって呼ばれるのこそ至高だろ」「黒髪の無愛想に見える子にぼそぼそ睦言囁かれることよりいいシチュはない」みたいな声も。
これ、親父に見つかったら殺されるな……。
ただ、恵まれすぎてるからこそ、ちょっと気がかりなこともあった。
「けど、こんなに一斉に夏休みをとっていいんですか?」
俺は社長に尋ねる。
「はい、ほかの方が働いてる時期とは少しずつずらしましたから」
「とはいえ、この会社でほかの社員はトトト先輩しか知らないんですけどね」
まだ数人は社員がいるはずなのだが、どこで何をしているのかまったくわからない。
「ちょっとずつ会えると思います。基本的にうちの社員は個人主義なんで、みんなで何かをするというような話もないですしね。どっちかというと、会社に拘束されるのが苦手な人を雇ってた節もありますし」
「それはわからなくもないです」
社長の方針として、社会に合わないけど能力が高い人を引っ張り上げるという部分はあるだろうからだ。
「なので、実はこのあたりの海でも働いている社員の方がいるんですよ」
それはちょっとだけ意外だった。
「へえ。海辺というと青魔法の使い手が多いイメージでしたけど黒魔法の人もいるんですね」
青といえば海ということで、海に関する魔法は青魔法使いが働いていることが多い。
たとえば、魚を操ったり、波を鎮めたりする魔法だ。海水浴場の管理なども青魔法使いがやっている。
「まっ、そこは人生それぞれですから」
なぜか意味深に社長は笑った。
活動報告に今さっき書きましたが
書籍化が決定したことをご報告します!
詳しくは、といってもまだ詳しいことはあまり書けませんが……活動報告をご覧ください!!!
集英社のダッシュエックス文庫で出ます!




