50 第二次ミニデーモン作戦
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俺、これ以上、セルリアを大好きになるなんて不可能と思ってたのに。
もっと、好きになっちゃったな。
ここまでセルリアが言ったんだったら、もうこんなお見合い、茶番も茶番だ。セルリアに目の前のインキュバスと一緒になる気持ちがどこにもないんだから。
「なるほど……。ここまで強い想いをお持ちの方だとは。ますます僕はあなたを手に入れたくなってきましたよ」
すると、ハルバルドは指でテーブルに何かをなぞり出した。同時にぶつぶつとなにやら唱えだした。
「あのインキュバス、黒魔法を使う気!? マジ? 超ヤバい奴じゃん!」」
リディアさんが叫んだ。
「まったくだよ。魔法を使うって、インキュバスとしてのプライドもないじゃないか。そりゃ、恋にだって落ちるよ!」
メアリも怒っているから、あってはならないことをやろうとしているらしい。
「あれって、もしかして洗脳系の魔法なのか?」
「そうじゃないの? そこまでいかなくても魅惑系のヤバいやつだと思う。しかも証拠残らないように、指でさささっとなぞってる。詠唱も小声だし……」
セルリアが危ない!
それがよくないものだってことはセルリアも気づいたのだろう。席を立とうとする。
けれど、その前に魔法が発動した。輝く光みたいなものがセルリアにかかった。
「あれ……どうしてこんなに胸が苦しいんですの……?」
「さあ、セルリアさん、僕と一緒になりましょう。今日はいいホテルを予約しているんです」
なんでお見合いの日にホテル予約してるんだよ! どんなにイケメンでも引くぞ!
「もはや、これ以上待っていられないね。あの作戦を実行に移してくる!」
少し、メアリはそこから席を外した。
頼む、あの作戦が効いてくれないとまずいことになる。
セルリアはぼうっと寝ぼけたような瞳で、ハルバルドの顔を見つめている。
どう考えても、あれは洗脳に近い状態だ。
「さあ、セルリアさん、今から僕が言う言葉を繰り返すんだ」
「……わかりましたわ」
とても、今のセルリアの瞳には意思が感じられない。
「いいかい。『わたくし、セルリアはハルバルドの妻になって、生涯尽くします。自分が相続するオルベイン家の財産もあなたに差し上げます』」
あいつ、財産目当てだったのか!
たしかにセルリアの実家を見ていたら、あの資産がほしい奴がいてもおかしくないよな。
「わ、わたくし、セルリアは……」
本当に時間がなさそうだ。早くどうにかしてくれ!
その時、庭にぞろぞろと不思議な一団が登場した。
「わーい、広いお庭」「みんなで鬼ごっこしよ~」「わたし、鬼やる~♪」
それはメアリの使役しているミニデーモンのうちでも、見た目がロリキャラっぽい選抜部隊。
そう、メアリ配下の多数のミニデーモンの中にはファンシーなマスコットキャラっぽいのもいれば、少し怖そうな顔のも、少女っぽいのもいるのだ。
見た目の年齢はだいたい、十歳から十二歳。
ポジション的にはメアリの妹分に見える。
「あっ、インキュバスさんとサキュバスさんだ」「何してるのかな~」「早く、鬼ごっこするよ~」
そんなミニデーモン部隊に、ハルバルドの視線が注がれていた。
しかも、ものすごく真剣な顔だった。
もっと言うと、恋している顔だった。
「あぁ、子供はいいなぁ、ほら、僕らも将来あんな子供が生まれたらいいよね。はは……」
取り繕っても、おかしいとすぐにわかるぞ。
あいつのストライクゾーンは極端に低いのだ。
それを新聞でも報じられて、本人は否定していたけど、これはガチだったな。
ついには真剣な顔がにやけて、崩れ出している。
これぞ、第二次ミニデーモン作戦! ちなみに第一次はブラック企業壊滅作戦です。
「あの……ハルバルドさん、いったいどうしたんですの?」
ハルバルドの意識がミニデーモンに向けられているせいで、チャームの威力も落ちているらしい。
「聞こえてらっしゃいます? さっきからずっと背中を向けておられるようですけど」
「うるさい! 年増は黙っていてくれ!」
お見合いの相手に年増と言った!
これにはセルリアもムカついたらしく、チャームも完全に解けたと言っていい。
「そうですか、では、この話、なかったことにいたしますわ。年増ではなく、もっと幼い方とご結婚したらよいのではありませんこと? わたくしとの縁談も資産目当てなのがはっきりいたしましたし」
「あっ……違う、違うんです……。たしかに、あのような少女たちにはセルリアさんもかなわないのは事実ですが、僕が仕事をしていたマダムたちと比べれば全然お若いです!」
「それ、何のフォローにもなってませんわ!」
ハルバルド、正直者すぎる!
「あぁ、くそ! しかし、少女の純真さを前にすれば、ほかの女は全部色欲を知ってしまった穢れたものに見えてしまう! とくに有閑マダムの相手は疲れた……」
どうやら、マダムキラーのハルバルドは、その職務のせいで性癖にゆがみが生じてしまったらしい……。けっこうかわいそうな奴なのかもしれない……。
セルリアはすたすたと会場を後にしてしまった。
俺たちの完全勝利だ!
けど、まだ俺の問題は終わったわけじゃなかった。
「しかし、いったいどうしてこんなところにミニデーモンがいるんだい?」
疑惑の視線をハルバルドが庭に向けてきた。
「みすぼらしい人間の男の臭いがするぞ! 出てこい!」
しょうがない。ばれた以上は出るしかないな。
俺は茂みから姿を現した。それとメアリとリディアさんも。
「せっかくのおいしい話をぶち壊しにしてくれたね。いい少女たちを見せてくれてありがとう。やっぱり子供は鬼ごっこぐらいで遊ぶのがちょうどいい」
「怒ってるのか、感謝してるのかどっちかにしろ!」
「君がセルリアさんの主人であることぐらいわかるよ。腹いせに死んでもらう」




