第十二話後編 『人類の希望』
ついに魔王正規軍がルージアの第一防衛ラインに到達します。戦力差はおよそ1:10
絶望的状況に追い込まれながら
一つの光が彼らを奮い立たせていました。
援軍を信じて、信じて戦うのみ
天駆ける七つの流星群。
グレンの飛行魔法によって移動する英雄たちは翔ぶ。眼下の景色は瞬く間に流れ去り、風圧が全身を叩く。
「グレン、少し速度を落としてくれ!」
アークが声を張り上げた。
この速度では、会話をすることさえ容易ではない。ほかの者たちも、身体を保つだけで精一杯だった。
「分かりました」
グレンが速度を緩める。
「セレネ、皆に付与を頼めるか。これでは体がもたない」
「承知しました」
セレネが杖を掲げた。
彼女の魔力が広がり、六人の身体を包み込む。身体能力を強化し、加速による負荷に耐えられるようにする付与魔法だ。
やがて、全員の動きが安定した。
「これならば」
グレンは仲間たちの様子を確認すると、一気に加速した。
「さて。皆様、作戦についてお話しします」
アルクが口を開いた。
彼は周囲の景色に目を向けることなく、淡々と話し始める。
「正面から敵を受け止め続けるのは得策ではありません。こちらの兵力が揃う前に消耗してしまえば、後が続かなくなります」
「では、敵の後方を突くのか?」
シリュウが尋ねた。
「はい。六人で敵の後方へ回り込み、背後から攻撃を仕掛けます。目的は敵軍の殲滅ではありません。隊列を乱し、指揮系統に混乱を生じさせることです」
アルクは一つ一つ言葉を選ぶように続けた。
「正面の防衛線が持ち堪えている間に、敵の後方を攪乱する。各国の軍勢が揃うまで時間を稼ぐことが出来れば、こちらにも勝機が生まれます」
「ふむ、挟撃というわけか」
「その通りです。ただし、私たちが敵の後方へ向かっている間、連合軍の指揮を執る者が必要になります」
「それはアルク殿が?」
クリスチアーノが尋ねる。
「ええ。私が地上へ降り、アトランティス王に作戦を伝えます。王の許可を得て、連合軍の指揮を引き受けるつもりです」
アルクの声に迷いはなかった。
すでに必要な手順は、彼の頭の中で組み上がっている。
「それと、アーク様」
「何だい?」
「初手に出来るだけ大きな攻撃魔法を撃ってもらいたいのですが」
アルクの言葉に、アークはわずかに目を見開いた。
「大きな攻撃魔法? 魔力の殆どを使ってしまうよ?」
「期待しています」
アルクは静かに答えた。
「もちろんグレンさん、あなたにも撃ってもらいます」
「分かりました。大軍向けの攻撃ですね」
グレンは即答した。
その返事に、アルクは満足そうに頷く。
「ええ。敵の後方に大きな一撃を与え、混乱を広げます。正面の兵たちにも、反撃の機会が生まれるでしょう」
「反撃の狼煙、というわけか」
シリュウが口元に笑みを浮かべた。
「そうです。ここからが勝負になります」
アルクの言葉を最後に、七人の間に短い沈黙が流れた。
それぞれが、これから始まる戦いに意識を向ける。
*
その頃、第一防衛ラインでは激しい戦闘が続いていた。
ルージア帝国軍は、すでに総兵力の半数近くを投入している。そこへアトランティス王率いる第一陣も合流し、両軍は一体となって魔王軍第一波を迎え撃っていた。
しかし、敵の数はあまりにも多い。
兵士たちは隊列を維持しながら、押し寄せる魔物や魔族を必死に食い止めていた。盾を構え、剣を振るい、倒れた仲間の前に別の兵士が立つ。
誰もが、この防衛線を突破させまいと戦っていた。
次の援軍は
まだ到着していない。
各国の軍勢が集結するまで、どれほどの時間が必要なのか。それを考えれば、兵士たちの消耗は決して小さくなかった。
「押し返せ! ここを抜かせるな!」
指揮官の声が響く。
兵士たちは傷ついた身体を奮い立たせ、再び前へ出た。
「へへっ、こんなところで死ねるかよ!故郷へ帰ってイリアにプロポーズするんだ!」
『こいつも言っちゃってる!』
魔王軍の一角では、戦況を見つめる将がいた。
「……無駄な足掻きと分からんとはな」
将はそう呟き、前線の様子を見つめていた。
人類の抵抗は、決して容易なものではない。
それでも、魔王軍の進軍は続いていた。
*
七人は、第一防衛ラインへと近づいていた。
やがて、遠くに広がる戦場が視界に入る。
黒く染まった大地。立ち上る煙。入り乱れる兵士たち。そして、その向こうに広がる魔王軍の大軍勢。
すでに戦闘は始まっている。
ルージア軍とアトランティス軍が、必死に防衛線を支えていた。
「……厳しい戦況ですね」
アルクが静かに呟く。
「ええ。ですが、まだ防衛線は維持されています」
グレンが答えた。
「では、予定通りに」
アルクは六人に向き直った。
「皆様は敵の後方へ。私は地上へ降り、王のもとへ向かいます」
「ああ。任せたよ」
アークが頷く。
「では、参りましょう」
アルクは一礼すると、飛行の軌道を変えた。
六人から離れ、第一防衛ラインへ向けて降下していく。
*
地上に降り立ったアルクを、アトランティス王が迎えた。
「ヴェル、よくぞ…」
「王よ。お伝えしたいことがございます」
アルクはすぐに作戦を説明した。
六人が敵の後方へ回り込み、背後から攻撃を仕掛けること。敵の隊列を乱し、連合軍が態勢を整える為の時間を稼ぐこと。そして、アルク自身が連合軍の指揮を執ること。
王は最後まで話を聞くと、力強く頷いた。
「分かった。連合軍の指揮を任せる」
「ありがとうございます」
アルクは深く頭を下げた。
これで、作戦を実行するための準備は整った。
*
一方、上空に残った六人は、魔王軍の後方へ向けて飛行を続けていた。
「セレネ、アリア。前線の援護を頼めるか」
アークが二人に声をかける。
「はい」
セレネは頷くと、杖を構えた。
「連合軍全体に、防御強化を付与します」
彼女の周囲に魔力が集まる。
木属性と四つの基本属性を組み合わせた、特殊な付与魔法。魔法の構造を完全に理解している者は少なく、扱える者も限られている。
セレネはその魔法を、広大な戦場全体へと展開した。
「全軍に、加護を!」
放たれた魔力が、第一防衛ラインの兵士たちを包み込む。
兵士たちの身体を淡い光が覆った。防御能力が大きく引き上げられ、敵の攻撃に対する耐久力が高まっていく。
これほど広範囲に及ぶ付与魔法は、膨大な魔力を必要とする。
セレネの表情にも、疲労の色が浮かび始めていた。
「セレネ、大丈夫?」
アリアが心配そうに声をかける。
「ええ。まだ大丈夫です」
セレネは微笑み、杖を下ろした。
「私も援護しますね」
アリアが前へ出る。
両手を広げ、戦場全体へ意識を向けた。
「エクストラエリアヒール!」
柔らかな光が、第一防衛ラインを包み込んだ。
傷つき、倒れていた兵士たちの身体が癒えていく。深い傷も、戦いの中で負った痛みも、瞬く間に消えていった。
回復した兵士たちは、自分の身体を確かめるように見つめ、それから再び武器を手に取った。
「これで、傷は癒えました」
アリアは明るく声を上げた。
しかし、その額には汗が滲んでいる。彼女もまた、膨大な魔力を消費していた。
グレンは、アリアの魔法を静かに見つめていた。
その魔法の本質に気づいているのは、今のところ彼だけだった。
アリアがこちらを振り返る。
「大丈夫よ、グレン。まだいけるから」
「……はい」
グレンは短く答えた。
それ以上は何も言わず、前方へと視線を戻す。
*
六人は、さらに高度を上げた。
地上の兵士たちからは、彼らの姿を捉えることは難しい。魔王軍の兵士たちも、遥か高空を進む六人の存在には気づいていなかった。
やがて、第一防衛ラインが遠ざかっていく。
六人は魔王軍の後方へと回り込み、攻撃を仕掛ける位置へ向かっていた。
「頃合いじゃな」
シリュウが周囲を確認する。
「ええ。敵はこちらに気づいていません」
セレネが答えた。
六人の間に、緊張が走る。
ここから先は、作戦の成否を左右する重要な局面だ。
アークは手にした聖剣を見つめた。
そして、ゆっくりと魔力を注ぎ始める。
聖剣が光を帯びた。
刀身を中心に、空気が震える。集まっていく魔力は、周囲の景色さえ歪ませるほどだった。
「聖騎士殿、反撃の狼煙
上げられい」
シリュウが静かに告げる。
「任せたまえ」
アークは微笑んだ。
その表情には、迷いも恐れもない。
ただ、これから始まる戦いへの覚悟があった。
「こ、これは……この力は……」
クリスチアーノが息を呑む。
アークの聖剣に集まる魔力は、彼がこれまで目にしてきたどんな魔法とも違っていた。
セレネは両手を胸の前で組み、祈るように見つめている。
アリアもまた、静かにその姿を見守っていた。
そして、グレンの周囲にも変化が起きていた。
火 水 土 風
四つの属性を帯びた巨大な魔力塊が、グレンの周囲に次々と現れる。
それぞれが圧倒的な魔力を内包し、空間そのものを揺らすかのように存在していた。
グレンは表情を変えない。
ただ静かに、これから放つ魔法へと意識を集中させていた。
「聖騎士だけが使える極大魔法だ、喰らえ」
アークが聖剣を高く掲げる。
その刀身から、まばゆい光が溢れ出した。
そして
アークが、聖剣を振り下ろす
◆
この物語は、辺境の農民グレンが騎士となり、仲間と出会い、やがて人類の希望を背負う英雄へと成長する物語。七人の伝説が、今ここから始まる。ご愛読ありがとうございました。
ありがとうございました。
私は農業の知識も乏しいのですが、農家の血筋が濃いというか、父母共に実家は農業と
関わりの深い、というか農家ですね。
並外れてはいませんが、お陰様で丈夫に産んでもらいました。
そんな私が妄想ばかりしていて、
こんな物語を書くだなんて、父も母も想像出来ないでしょうね。まあ、喜んでもらえる事はないんですけれど。書きながら、ふとそう
思っていました。
また私の妄想に付き合ってもらえますか?
それじゃあまた




