83.冥府の施し
□イベントフィールド・ロザリー
ログインしました。今日でイベント後半戦が始まってから一週間なのですが、残念なことに、イベント終了のお知らせが届いていました。
《――冥府神に貢がれる命が一定数を超えました》
《――イベントに参加している全ての来訪者を強制転移します》
そしてその日の夜、多くの異人がログインしやすい夜の一〇時にアナウンスが流れました。またあの時のように強制転移で別のフィールドに移動させられます。
転移先は……最初のキャラクリをした空間にそっくりですね?
『――これよりは冥府』
「うわっ!?」
「わ、びっくりしたぁ」
「これは……」
しかし次の瞬間、宇宙のようなどこまでも広がる空間は、荘厳で迫力のある謁見の間に塗りつぶされました。灯りは少なく、普段より視界が悪いというのに、なぜか一箇所だけはハッキリと見えます。
数段上がった位置にある、黒曜石と黄金で彩られた巨大な玉座。
その玉座に腰掛けているのは年若い乙女と形容すべき少女ですが、私達を見下すような瞳に異人はどう映っているのでしょう。
『我が城へようこそ、来訪者諸君。冥府神は其方らを歓迎する』
彼女は玉座に座ったまま私達に歓迎の言葉を投げかけました。
その声は大人になりかけの少女のものでしたが、伝わってくる雰囲気は抗うことを許されない絶対的なもの。
……冷静に考えると、どうやって実現しているんでしょうねこれ。言語化が難しい感覚を、違和感を与えずに感じさせるとか、義父様が支援している会社でも不可能な技術ですよ?
『まずは報酬を』
《――ランキング一位報酬として【冥府からの招待状】【魂の黄金】【五〇〇万SG】が贈られました》
《――ランキング一〇〇位以内報酬として【エルドラドの残滓】が贈られました》
《――イベント参加者に称号“冥府の庭で駆け回りし者”が与えられました》
おおう、いきなりですね……
えーっと……招待状はポータルの転移先にこの城が登録されるようです。ただし城の外へ出ることは不可能と注意書きがありますね。
【魂の黄金】は素材アイテムです。ふもっふさんにぶん投げて加工して貰いましょう。
【エルドラドの残滓】も同じく素材アイテムですが、まさかのハウジング専用だったので倉庫行きです。
『冥府神は大変満足した。……これは我からの褒美だ』
《――【冥府神 ■■■■■■■】から【リクエストボックス】を受け取りました》
『冥府神はまた会うことを楽しみにしている』
そして、彼女の傍らに浮かんでいた杖が床を叩き、硬質な音を響かせると、私達は元いた場所……王都のポータル付近に送り返されていました。
周囲には呆気にとられた異人達と、遠巻きに眺める住人がいますね。
《――第二回公式イベント『ハイド&シーク:ラビリンス』はただいまを持って終了しました》
とりあえず場所を変えましょうか。隣で呆けているユキを引きずってクランハウスに戻ります。
クランハウスにはイベントに参加しなかった生産職の方々や、管理を担当している住人の方がいました。
まずふもっふさんに素材を渡して、それから自室に向かいます。
「……いつまでそうしているの?」
「ちぇー……――ぐぇー」
パッと起き上がったユキはベッドにダイブしました。私はその背中に体重を預けて横になります。
「ユキは何位だったの? ランキングの上位に名前無かったけど」
「八二位だよ。あんまり稼げなかったかな」
「レベルは?」
「63。スキルの進化に消費するから、多分57ぐらいまで減るんじゃない?」
「私は84。たぶん私も75ぐらいまで下がるかな?」
今回のイベント、経験値が大量に稼げましたからね。
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【地平線の騎士団】
『ロザリー』レベル84
右手:『呪装:骸の祈り』+3
左手:――
防具:『業物:脱兎フード』+5
├紳士でかなり丈夫な衣服(上)─呪魂鋼の胸当て
├紳士でかなり丈夫な衣服(下)
├アーミーボアのベルト─頑丈なベルトポーチ
├【彷徨の竜鱗腕鎧】
└【呪骸纏帯 ヴルヘイム】
装身具:妖精の耳飾り
└ベレスの絆
スキル:【奇襲戦士LV27】【ハルバードⅡLV40】【鑑定眼LV22】【看破眼LV5】【悪路LV30】【襲撃ⅡLV31】【斬撃ⅡLV30】【跳躍ⅡLV24】【呪怨支配LV21】【瞬発力強化LV20】【持久力増加LV20】【状態異常耐性:麻痺LV3】【状態異常耐性:毒LV17】【状態異常耐性:出血LV4】【採取術LV8】【採掘術LV2】【植物学LV5】【影の加護LV20】
アーツ:《スラッシュ》《カウンター》《大切断》《呪影》
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ステータスを開いて確認すると、やはりスキルの成長が止まっています。進化待機中なのが六つもありますが……どれから進化させましょう。
全部進化させると10消費なので、74まで下がります。
……よし、【影の加護】から進化させましょう。
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【影操の加護】
・あらゆる影への影響力が増し、【影】系統及び【呪詛】系統のスキル効果が上昇する。また、【呪怨支配】の効果対象に影が追加される。
・持ち主に合わせて適応を始めたようだ……
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名前がちょっと変わって、フレーバーテキストが追加されましたね。
少し不穏な書き方してますが、悪いようにはならないでしょう。
【ハルバードⅡ】は【ハルバードⅢ】へ、【悪路】は【悪路踏破】へ、【斬撃Ⅱ】は【斬撃Ⅲ】へ、【瞬発力強化】は【瞬発力強化Ⅱ】へ、【持久力増加】は【持久力増加Ⅱ】に、それぞれ順当に進化しました。
「myaaaaa〜」
それと、私の膝の上で寛ぐベレスはレベル70に達したことで、スキルの幾つかが進化しています。
【肉体変化】というスキルも生えましたし、戦略の幅が広がりましたね。グレイと戦ったときにお披露目した姿もこのスキルによるものです。
うちの子、可愛い最高というやつです。よしよし。
「――あ、【武士】ってスキル取れるようになった。字面的に刀版の戦士かな?」
「じゃないの? 一次スキルでしょ? というかやっと?」
「うん、やっと。武器スキルと補助スキルだけでやりくりしてたから」
職業系スキル未取得のまま戦ってたとか聞いてませんよ? ユキのことですからきっと【戦士】が気に入らなかったとか宣うんでしょうけど。
……ベレスも職業系スキルって取得出来るのでしょうかね?
「mya?」
「よしよ~し……ユキも早めに寝なよ?」
「スキル取得してからね~……」
ゴロゴロ喉と鳴らすベレスを可愛がって今日はおしまいです。明日は講義ありますしね。
ではログアウトします。
出来れば早めにレベル一〇〇に到達したいですね。




