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セカンドワールド!  作者: こ~りん
四章:変幻自在のベトゥリューガー
82/115

82.変幻自在の―― その八

えー、遅れました。19時に更新したかったんですけどね……

 ロザリーとグレイの間には一〇メートルほどの距離があるが、両者ともに遠距離攻撃手段を持っているため、いつ仕掛けてくるか警戒しなければならない。


「こちらでは初めましてですね。噂は聞いていますよ」

「貴方が色々と暗躍していることは知っています。何を企んでいるかは知りませんが」

「なに、好きなように遊んでいるだけですよ。今回は経験値稼ぎが目的です」


 そう言って袖口から伸びたままのペンデュラムを振り回し始める。彼が持っているのは、遠心力を使って返しの付いた突起物を食い込ませたり、或いは首に巻き付けて窒息を狙うのが主な使い方だろう。

 普通のペンデュラムはダウジングの道具だ。


 それに対し、ロザリーは【呪骸纏帯】を伸ばしつつ、ハルバードを構える。

 【呪骸纏帯】は特典装備なだけあって通常の武器では傷つけることが出来ない。主な用途が妨害と移動、そして【怨念解放】による呪いの放出のため、呪怨を扱う奇襲戦士であるロザリーと相性が良い。


「ここであったのも何かの縁……白星をいただきますよ!」

「大人しくくたばりやがってください」


 グレイはペンデュラムではなく短剣で攻撃を仕掛けた。それをハルバードでいなし、そのまま滑らせるように振るうが、身軽なグレイは上体を反らして回避する。

 彼はその体勢から蹴りを放った。しかし【呪骸纏帯】で防がれる。


 そしてロザリーは、その防いだ感触から違和感を感じた。


「(重いですね……? さっきは魔法を使っていたからそっち系だと思ってましたが……。一体どんなスタイルを構築していやがるのでしょう)」


 彼の攻撃は見た目以上に重かったのだ。戦槌並の威力を繰り出し、更に魔法まで扱える。

 片方だけならともかく、両方ともトップレベルとなると、どう考えても異人(プレイヤー)では到達できない領域だ。


 ロザリーのように特殊なスキルと装備があるわけじゃない。

 ディルックのようにクエストに恵まれたわけでもない。

 彼は、不可解なほどに強かった。


「【怨念解放】!」

「分かっていますよ。どうせ【死呪】を混ぜているのでしょう?」


 ロザリーは莫大な量の呪いを生み出し、【呪怨支配】でもってそれらを強力な呪詛へと変換する。

 中には当然【死呪】も含まれており、普通ならば聖水が無いと対処出来ないのだが……グレイはその中を突っ切ってきた。


「――《リプロダクション》【血炎・(あらため)】!」

「それはディルックさんの!?」

「ええ、少しだけ()()()()()()


 呪いを炎で打ち消し、グレイはロザリーの懐に潜り込む。そしてペンデュラム――と見せかけて、口腔に隠していた小さな吹き矢を使う。

 吹き矢自体が小さいため矢も相応なのだが、塗られている毒は暗殺者が好んで使う猛毒である。


 暗殺桃から抽出した毒を、【調合】系のスキルで別種の毒と混ぜ合わせたもの。その効果はとても凶悪になっており、毒耐性が無ければ一滴で死に至るほど。


 急速に減少したHPに驚きながらも、ロザリーは低レベルの毒耐性があったので回復することが出来た。

 回復と同時に鳩尾に拳を叩き込まれたが、そちらは【呪骸纏帯】を差し込んだうえで背後に跳んだため、ほぼノーダメージだ。


「一体どれだけの……手札を持っているんですか貴方は。あと、軽々しく触らないでください」

「触ってませんよ殴っただけです。手札は最低でもあと三つあるとだけ」

「どうせ倍以上持っていやがるのでしょう?」

「その通りですけどね。もう少し信用とか信頼とかないんですか?」

「あるわけないでしょう詐欺師!」


 とは言え、ロザリーは筋力と敏捷に特化した戦士であるため、不意さえ突かれなければ彼と打ち合える。

 『呪装:骸の祈り』から発生する呪いを回復に充てつつ、彼女はハルバードと【呪骸纏帯】と《呪影》で攻め立てた。


 二人はどちらも高い敏捷を持っているため、激しい金属音が絶え間なく響く。多種多様な暗器を使用するグレイの攻撃は予測が難しく、ロザリーは苦戦を強いられる。

 それでも総合的な実力は彼女の方が上回っており、じわじわとHPを削られ始めたグレイは、隠していた手札を切ることにした。


「――《イミテイトシフト:4WB(フォーダブリュービー)》!」

「……何ですかソレは」

「見ての通り翼ですよ。色々混ぜてますけどね」


 衣服を突き破って生えた四枚の翼はグレイを浮かび上がらせ、彼に空を飛ぶ能力を与える。

 猛禽類の翼をそのまま巨大化したようなモノだが、翼の先は人の手のような鉤爪が付いているため、動物ではなく魔物の翼なのだろうと推測できる。


「知っての通り、私は入念な準備をしてから戦いに臨みます。これは、貴方を斃すために用意した手札なんですよ?」


 その翼をはためかせて建物の上に着地したグレイは、両手と鉤爪の先に魔法陣を構築した。


「――〈フレイムジャベリン〉」


 詠唱をスキルの効果で破棄し、合計六つの魔法陣を用いて発動したのは、人を容易く呑み込むほどの炎の槍だ。

 しかも一つではなく六つ。


「(あれは三次スキルがないとまともに扱えない魔法のはずです。ステータス配分は魔法寄りなのでしょうか? ならあの身体能力は……)」

「さあ、どう対処します?」


 〈フレイムジャベリン〉が放たれる。丁寧なことに、回避先を予測した偏差撃ちである。

 ロザリーは【呪骸纏帯】に備わっているスキル、【自在帯】を使って自分の体を方向転換させた。回避のためとは言え、無理やりな移動は負担が掛かる。


「おや、避けきるとは。一つぐらい当たって欲しかったんですけどね!」

「ぐ……っ!」


 だが、回避した直後の不安定な体勢を狙った投擲によって、彼女の左の二の腕に異物が突き刺さる。

 それはグレイが最初に振り回していたペンデュラム。投擲物としての運用も想定するべきだったと後悔しつつ、ロザリーは建物の裏に回り込んだ。


「(恐らく身体能力は種族補正……あの翼と、混ぜたという発言から推測すると、キメラ辺りでしょう。なら、彼自身のスキルは魔法に偏重しているはずです……)どうせまだ隠しているんでしょう? 使わないんですか?」

「はははっ、現状有利である私が明かすわけないでしょう? 〈フレイムジャベリン〉……〈ダークネスアロー〉、〈アイスボム〉、〈ライトニングシャワー〉!」


 再び詠唱を破棄して魔法を発動した。炎の槍を減らし、闇、氷、雷の属性を混ぜている。

 まず〈フレイムジャベリン〉で回避先を制限し、〈アイスボム〉を予測位置に放つ。同時に〈ダークネスアロー〉で潰しきれない回避先を潰し、最後に範囲攻撃である〈ライトニングシャワー〉を()()()()()()で発動させた。


 〈ライトニングシャワー〉はその名の通り、雷の雨を落とす魔法だ。半径四メートル、直径八メートルに及ぶため、開けた場所での使用が推奨されている。

 この魔法はグレイの背後へ降り注ぎ、今まさに奇襲を仕掛けようとしていたロザリーにダメージを与えた。


「(バレた……!?)」

「大方、影の魔物のスキルで移動していたのでしょう? タイミングは……建物の裏に体を隠したとき」

「……その観察眼、気に食わないですね」

「磨かなければ不自由な家庭だったものでね!」


 一瞬で右脚を鋭い爪を持つ魔物に変化させ、グレイは回し蹴りを放った。ロザリーはそれを躱してハルバードを叩き込む――と見せかけて、こちらも隠していた手札を切る。


「ベレス!」

「myaaa!」

「なっ、サポートが取り柄の魔物だったのでは……!?」


 影から飛び出たベレスは、その容姿を変貌させていた。猫に近い形を保ったまま牙と爪はより凶悪に、蜥蜴の尻尾は竜に近い性質を帯び、全身の毛は生物でありながら金属の要素を含むようになった。


 これらはスキルによる一時的な変化だ。

 ロザリーのレベルが70を超え、ベレスに分配される経験値が一定量に達したために獲得したスキルは、彼女が持つ生物の因子を基に体を作り替える能力を与えた。

 獲得したのはつい先日だが、人目に付かないところでロザリーとベレスは試行錯誤していたのだ。


「くっ……(これは想定外ですね……!)」


 右脚を絡め取られ、しかも爪が食い込んでいることでかなりの血が流れている。

 ベレスが更に力を込めると鈍い音が鳴った。グレイの骨が折れたのだ。


「《イミテイト――」

「させません!」


 そこに追撃が入る。

 【死呪】を纏わせた《カースドスラッシュ》でグレイの左腕を斬り飛ばし、そのまま胴体の半分まで食い込んだ。

 ……けれど、グレイはまだ斃れない。


「――シフト:(ゼロ)》」


 グレイの胸が大きく膨らむ。膨張した臓腑が溢れ、無数の肋骨が飛び出した。

 右脚を切り離した彼はそのまま距離を取ると、その姿を異様なモノへと変貌させる。


 彼の種族はロザリーの予想したとおりキメラではあるが、神話や伝説、或いはゲーム等で親しまれるキメラの姿とはかけ離れている。

 グレイはより多くの手札を得るために人外種を選び、その中でも特に人気のないマイナーなものを選んでいた。寄生虫のような魔物、死体に取り憑きその性質を取り込むパラサイトワームである。


 つまり、彼の本体はとても小さく、取り込んだ生物の総量でHPが決まるものの、確実に斃すためにはその本体を斃さなければならない。

 弱点として本体のHP自体は一切増えない、取り込んだ生物は消耗する、などがあるが……どちらにせよ本体を叩かなければならないのは同じだ。


「(半分ほど捨てることになりますが仕方ありません)」


 飛び出した肋骨と臓腑を囮としてグレイは距離を取る。

 今の姿は様々な生物を掛け合わせた見るに堪えないものだが、すぐにベースとなる人型に戻した。

 失うわけにはいかない因子は複製して保存しているため、緊急時だろうと形だけは取り繕えるのだ。


「(戦力は六割減ですか……特に殺傷力の高い因子を失ってしまいましたが、惜しんで負けるよりはマシです)」

「――目眩ましですか」

「気付くのが遅いですよ!」


 ほんの数秒だけ抜け殻となった肉体を警戒していたロザリーだが、そこにグレイがいないと察すると追撃のためにその横を通り抜けた。

 しかし、グレイが保険として体内に仕込んでいた【血炎・改】を利用した爆発に巻き込まれる。


「(抜け殻だろうと使えるなら使う……詐欺師らしい戦法ですね)」


 至近距離だったのでダメージを負ったが、それよりも逃がさないよう追撃することが重要だと考えたロザリーは、その爆発を利用して一気に距離を稼いだ。


「ちぃっ……!」

「はあッ!」


 ロザリーとグレイが交差する。

 両者ともに大ダメージを受け、HPがレッドゾーンに突入した。


「まだ斃れないんですか……ゴキブリ並にしぶといですね」

「ゴキブリに喩えられるのは癪ですが、褒め言葉と受け取っておきましょう」


 次から次へと迫り来る様々な攻撃を防ぎ、躱しつつ、端から斬り飛ばしていくことでHPを削る。


「(まだ斃れない……? おかしいですね、いくら人外種でもここまでダメージを受ければ鈍るはずです)」

「(手札を出せば出すほど削られる……! もっと早くに削れていればよかったのですが……!)」

「(まさか、コイツ自身はまだ無傷だとでも言うのですか……!?)」

「(――っ、気付かれ始めていますね。早く決着を付けなければ)」


 微妙に変化した顔色から形勢不利を悟ったグレイは途端に逃げの姿勢に転じた。

 イベントフィールドから退場するにはUIを操作する必要があるが、戦闘中での操作はほぼ不可能――配置を完璧に覚えて見ずに操作できるならともかく――となっている。


「〈マジックアロー〉!」

「魔法が貧弱になってますよ!」

「それぐらい分かっているに決まってるでしょう!」


 魔法の矢を軽々蹴散らし、迫り来るロザリーにグレイは最後の一手を打った。即ち自爆。もしも敗色が濃厚になれば道連れにしてやろうと用意した、正真正銘最後の切り札。


「《リプロダクション:アーツ/イミテイトスキル:9Z(ナインゼット)》ッ!」


 大事な因子を最低限の量だけインベントリに残し、グレイは体内にありったけの爆弾を作り出した。もちろんこれも取り込んだ魔物の因子を組み合わせたものなのだが、調達に苦労したため使う機会がないことを密かに願っていたりする。

 無論、必要ならば親族だろうと容赦なく詐欺るド畜生なので、今回のように使う機会がくれば使う。


「自爆!?」

「悪役の最後に相応しいでしょう? 使いたくなかったんですけどね!」


 そう言って盛大に爆発し、辺り一帯を巻き込んでグレイは死亡した。

 ロザリーはギリギリ生き延びた。代わりにベレスが瀕死になり、胴体の防具が壊れたが……負けるよりはマシだろう。


「でも……今日はもう休もうか」

「myaa……」


 瀕死のベレスを労って、ロザリーはイベントフィールドから退場した。

 ランキング一位はロザリーとなったが、イベント後半戦はまだまだ続く。巻き返される可能性があるため、翌日以降のイベントフィールドは彼女による狩りで阿鼻叫喚の嵐になったという。

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― 新着の感想 ―
[一言] とても面白い作品でした、今後も期待して待ちます!
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