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セカンドワールド!  作者: こ~りん
四章:変幻自在のベトゥリューガー
66/115

66.悪夢と鬼

 第二陣が参入した週の三日後、土曜日。一二時ちょうどに公式イベント開催のお知らせが来ました。お知らせに記載されている概要はこんな感じですね。


====================

第二回公式イベント『ハイド&シーク:ラビリンス』開催予定!


 次元神と冥府神は、新たな異人が来訪する際に生じる歪みを利用して、全てのポータルから転移出来る特殊なフィールドを形成した。

 時空の歪みはいずれ自然消滅するが、せっかくだからと有効活用することにしたのだ。

 そこは無限に続く迷宮であり、死の苦痛が取り払われた一種の楽園。有り得たかもしれない“もしも”が重なり合うIfの世界にして夢想の空間。


※本イベントは特殊な『かくれんぼ』となります。

※隠れる側を選んだプレイヤーは最後まで逃げ切ると大量の経験値が入手できます。また、スキルや魔法で鬼を攻撃することが可能です。

※鬼側を選んだプレイヤーは一人倒す毎に少量の経験値が入手できます。また、イベントフィールド限定で攻撃力増加(極大・特殊)のバフが掛かります。

※イベントフィールドはレベル帯でサーバー分けされています。

※イベントフィールドではデスペナルティが発生しません。

====================


 開始日時は明日の一二時、イベント内容から考えるにPVPの準備が必要でしょう。

 大多数の人は隠れる側を選ぶと思いますが、私は面白そうなので鬼側で参加しようと思っています。


 それに、塵も積もれば山となる……捕まえれば捕まえるほど得られる経験値が増えるというのは、やりがいがありますからね。


「ユキはどっちで参加するつもり?」

「うーん……鬼、かな。魔物とか盗賊とかじゃない、同じプレイヤーに数的有利を取られた状況の戦いって久々じゃん」


 言われてみると、魔物ならともかく、プレイヤー同士の戦いはあまり経験していませんね。

 ……オフライン版で腕鳴らしでもしておくべきでしょうか?


「ロスト・ヘブンのオフ版で動き方確認しておこうかな……」

「お、じゃあフレンドマッチしよ! 同じフィールドに配置されるかもだし」


 と言うわけで狩りを一旦中止し、セカンドワールドからログアウトした私とユキは、ロスト・ヘブンのオフライン版を起動しました。

 

 オフライン版の敵はAI制御のプログラムであり、私にとっては弱すぎるので、サービス終了してからはあまり触っていなかったのですが……懐かしい匂いに心が躍ります。


 レンガ調の壁にはハルバードが幾つも並べられています。これは最高のハルバードを探す過程で入手したお気に入りシリーズであり、どれも入手に苦労する最高レアリティのランクです。


 防具は私の戦闘スタイルに合わせたものなのでシリーズ化していませんが、環境に合わせて幾つか種類があります。


 他にもオンライン版で集めた小物、ランキングトロフィー、これまでの戦歴を書き連ねた巨大なポスター。

 この待機所にいるだけで様々な思い出が蘇ってきます。


『――準備できたよ!』

『分かった。部屋はこっちで作るよ、943516』


 ゲームではなくハード側のフレンド機能であるチャットにパスワードを打ち込んで、私はユキが参加してくるのを待ちます。

 オフライン版は相互フレンドかつ最大三名までの条件でなら、こうやってマルチで遊ぶことが可能です。


 一〇秒もしないうちにユキの参加が確定しました。

 久しぶりのバトロワ……腕が鈍っていなければいいのですが。


 ♢


 ――奔る。

 ――鮮血が奔る。

 暁の戦場を縦横無尽に駆け巡る『悪夢』と『鬼』が、災害を撒き散らしながら二人だけの世界に入る。

 そこにいたモブは既に二人の凶刃に巻き込まれて死に絶えた。


 この戦場を地獄に変えているプレイヤー――神々しくも禍々しいハルバードを構えるロザリーの眼前には、斬れば斬るほど斬れ味が増す妖刀を携えた白雪御前がいる。

 二人の実力は拮抗しており、単純な力量差だけでは結果を導くことは出来ない。

 勝敗の行方は選択した装備と環境の相性、キルスコアの量に応じたバフ、運、そして何よりもプレイヤースキルに左右される。


「あはっ……!」

「ふっ!」


 二人の武器が交差し火花を散らす。


 ロザリーの武器はハルバードであり、最も威力が高いのは重量と遠心力を利用した攻撃である。そこに彼女自身の技量が加わると、生まれるはずの隙すらも利用した演舞となる。


 白雪御前の武器は刀であり、重量のある武器と打ち合うことを想定して作られていない。けれど、彼女は器用にも、刀に負担が掛からないギリギリの角度と威力でハルバードの軌道を逸らしている。

 また、彼女は一瞬たりとも足を止めることはなく、常に体勢と足運びを微調整しながら猛攻に反撃した。


「あははっ、楽しいね!」

「ええ!」

「そのお目々くり抜いてあげるっ!」


 目にも留まらぬ四連撃、そしてそれを囮にした脇差しによる刺突。


 ロザリーはまず一撃目にハルバードの斧頭を併せ防ぐ。二撃目は柄を回転させ、鎌の背で刀を滑らせることで防ぐ。三撃目はそのままハルバードを回転させ石突で弾く。四撃目は体を反らすことで躱し、刺突が繰り出されると同時にハルバードを支えに跳躍したためこれも躱す。


 そして刺突が躱されたとみるや、白雪御前は脇差しをそのまま投擲した。指先で僅かに力を加えることで脇差しは、まるで誘導ミサイルのようにロザリーへと刃先を向ける。


 飛んできた脇差しをロザリーはなんと、上下が逆さまな状態のまま腰と膝を曲げることで蹴り返した。


「そんな小手先の技が、私に通じるわけ無いでしょ」

「あはっ、ロザっちならそう言うよね……っ!」


 脇差しは白雪御前の方に飛んだものの、彼女に命中はしなかった。


 ――ぴゅいっと口笛を吹く。奥歯に仕込んだ道具の効果を発揮させるために噛み砕いたうえでの口笛だ。


 その微かな音を聞いて、ロザリーは思わず舌打ちをした。

 脇差しの投擲までが囮だったのだと理解したからだ。


「っ、交渉と音知らせの箱のコンボ……!」

「せーかいっ!」


 同時に、大量の矢が二人の元へ降り注ぐ。

 それは伏兵だった。しかし、白雪御前もロザリーも、それらとは敵対している。ではなぜ彼女の合図で矢が放たれたのか……?


 それは何らかの交渉を行ったあとで、音知らせの箱を破壊し、合図を届けることで第三者による奇襲を実現させるコンボだ。

 しかし、これが有効なのはマッチが始まってからの序盤――ほぼ終盤に近い今の状況ではあまり効果が無い。だが、だからこそ、意表を突くにはもってこいだった。


 AI制御のプログラムはその時に最適な行動を取る。交渉に乗るのが最適だと判断すれば乗り、最強の矢を使うべきと判断すればそうする。

 二人に元に降り注いだのは、ロスト・ヘブンの中で最速の矢。放った矢を一〇倍まで分裂させる技能を使いながら、一度に何本も纏めて放ったことで、局所的に矢の雨を降らせることが出来る。


「――なら!」

「ちょっ、ええ!?」


 この状況なら素直に退くのが賢明だろう。もしくは遮蔽物に隠れるのも一つの手だ。

 けれどロザリーは、そのどちらも選ばなかった。


「仕方ないなあ!」


 自分だけは安全圏に逃れようとバックステップした白雪御前に迫るハルバード。逃げの手を取ろうとしたため後手に回る形となってしまった。

 戦闘系技能を使えばハルバードを防ぐことは出来る。しかし、そうすれば矢の雨に自分も囚われることになる。

 ならばどうするかと考えた彼女は――やはり真っ正面から返り討ちにしようと刀を振るう。


「いったいなあ……!」

「やらせるわけないでしょ!」


 その姿勢に対しロザリーは、左腕を刀にぶつけた。

 レアリティの高いグローブを装備しているが、白雪御前の刀を防げる防御力は無い。これなら抜けると直感した白雪御前は……発動したアイテムの効果で右手を握り直さなければならなくなった。


 ――麻痺指令の水晶。発動中に触れた者か破壊した者に対して、一秒間限定で確実に麻痺を与えるアイテムだ。

 元々入手手段が限られていた上に、オフライン版の今ではどう足掻いても手に入れられない、貴重な消耗品だ。


 右手が麻痺した白雪御前は刀に力を込められず、迎撃を選んだことでハルバードも防げない。

 即座に左手も柄に添えて、ぐいっと思い切りハルバードを動かす。一秒あれば、ロザリーには可能だ。


【kill:白雪御前】


 首を刎ねた。

 蘇生手段は存在しないため、これで勝負は付いた。

 流暢な自動音声がログを流したことで、二人の戦いの結果は明確にされた。


 その後、白雪御前との戦いに比べれば楽勝過ぎるモブを薙ぎ払い、ロザリーは無事フレンドマッチの勝者となった。


 ♢


「ぶーぶー! なんで麻痺指令の水晶なんて持ってたのさー!」

「確保してたからに決まってるでしょ」


 近接を好むプレイヤーにとっては限りなく有用なアイテムでしたからねアレは。三つしか確保出来なかったのであと二つしか残っていませんが、ユキに勝つためなら全部使い捨てても構いませんよ。


 他にもオンライン時代に溜め込んだアイテムが残っているので、奇策搦め手はまだまだ使えます。ユキも同様に色々溜め込んでいるはずですが……


 まあ、今の試合で腕は鈍っていないことは確認できました。多数を相手に戦うのも、その中に強敵が混ざっていたとしても、私は問題無く動くことが出来るでしょう。

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