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セカンドワールド!  作者: こ~りん
三章:褪せることなき神秘を見よ
47/115

47.名瀬遙香 その二

三章開始です。

 □東京・名瀬遙香


 肉、野菜、果物、調味料に香辛料。そして備蓄用のカップ麺。紅茶はお気に入りの銘柄を確保しているので問題無し。

 ああ、薄力粉も買っておかないと。


 今日はユキの誕生日ですから、去年のように私の家に突撃してくるはずです。お酒とケーキを持参して……

 彼女、二人きりだとスキンシップが激しいというか、一切遠慮しないんですよね。好物を用意して気を逸らさないと何をされるか分かりません。


 レジで支払いを済ませて、大きいエコバッグに詰めていきます。かなり重たいですが、どうせカートに載せますし移動にもタクシー使うので気にしません。

 マンションで下ろして貰ったあとは荷物を台車に載せて自分の部屋まで移動します。


 私が住んでいるこの部屋は、相場より少し値段が高いマンションの不人気な四階にあります。親の伝手というか家の伝手というか、東京で暮らすのなら使いなさいと言われたのです。

 ワンフロアぶち抜くような高級マンションではありませんが、それでも世間一般からすればお高いマンションなので、せめて人気のない部屋にして欲しいと私が遠慮したんですよ。


 四は死を連想するから……なんて迷信からくる不人気ですが、私は迷信を信じるような質ではありませんし、遊びに来るユキもそんなことを気にするような性格ではありません。


 さて、買ったものの片付けは終わったので早速タルトを作りますか。オレンジと紅茶のゼリータルトでいいでしょう。オレンジの砂糖漬け、タルト生地、チョコレート、ティーゼリーの順番で作ります。

 料理は一人暮らしをしてから始めた趣味ですが、たまにこうやってスイーツを作ることもあります。レシピ通りに作れば失敗しませんしね。


「――あとは冷やして固めるだけっと」


 完成したものは冷蔵庫に入れて冷やしましょう。

 少し残ったオレンジの砂糖漬けをつまみつつ、時計を確認するともう七時です……朝から準備していたので妥当ですか。

 そろそろユキが突撃してくるはずなので出前を頼んでおきます。


 誕生日なのでシンプルに寿司でいいでしょう。ちょっとお高いネタも入れますか。

 ふふ、私の誕生日には高級寿司を奢ってもらいますからね……もしくは焼き肉。


『ライキャクデス』

「おっと……ユキだね。通していいよ」


 噂をすればなんとやら。

 高性能のAIによる自動判別機能が採用されている部屋の鍵は、来客が近くまでやってくれば自動的に開くようになっています。

 とはいえ、ユキの両手はビニール袋で埋まっているようなので、自動で解錠されようが私が開くんですけどね。


「わーいハルっちだー!」

「私の部屋なんだから私以外いるわけないでしょ」


 片手にお酒らしき缶がいっぱいに詰められた袋、もう片方にはお洒落な箱を包む大きめの袋。そして膨らんだリュックサックを背負ったユキは、童心に返ったかのようなワクワクした顔で私の部屋に上がり込みました。


「冷蔵庫にしまっとくねー……およ?」

「まだ冷やしたばかりだから揺らさないようにね」

「はいはーい」


 慣れた手つきで冷蔵庫にお酒とケーキをしまうと、ユキはリュックサックを開けて遊び道具を取り出しました。

 まあボードゲームもカードゲームも今は電子機器一つで済むんですが。

 さて、一体何のゲームを起動する気ですか?


「――ふっふっふ、ついこの間リリースされたばかりの新作(デジタル)(トレーディング)(カード)(ゲーム)、アンリアルネクロバトル! 略してアンネバ!」

「……もう少しどうにかならなかったのその略称」


 何ですかそのネバネバしてそうな略称は。

 とはいえ、略称が変わっていても内容が面白いかどうかは別です。


「私が言ってるだけ。ちなみにTRPGに似てるとこもあるね」

「TRPGはあまり詳しくないんだけど私」


 動画で見たことはありますが自分で遊んだこと無いんですよね。


「これ簡単なヘルプね。フィールドも他のDTCGと比べて広いから戦術性も求められるよ」


 とりあえず画面に表示されたヘルプを読み込みましょうか。

 ……ふむ、プレイヤーはネクロマンサーとブレイバーの二種類のデッキを使えるようですね。しかし両立は不可能と。


 ネクロマンサーは読んで字の如く、死体を改造し使役するようです。下級の駒を複数用意し、それらを素材として強力な駒を作り出して制圧する戦いが得意みたいですね。

 対してブレイバーは、使える駒こそ少ないものの術式で強化することで一騎当千の猛者に仕立て上げるようです。


 使えるカードは大まかに分けて二つ。駒と術式です。

 駒も術式もコストを分配することで場に出す、もしくは使用するようで、自分の総コストと相手の状況に合わせてどう使うか考えさせられますね。

 しかも、駒に使用したコストは次ターン以降なら手札に戻すことで半分回収できると……


「とりあえず試しにやってみようよ。ほら、百聞は一見にしかず?」


 勝手に始めやがりましたねこいつ。

 まあ実際にプレイしないと分からないことがあるのは事実ですし、試しにネクロマンサーでやってみますか。ユキはブレイバーですね。


「デッキは四〇枚から五〇枚までで手札上限は一〇、先行はネクロ固定だけど相手もネクロだったらランダム。最初の手札は五枚だけど、ライフに使う分はデッキから自由に選べるよ」

「初期コストは?」

「一〇だね。ターン経過で一つ増えるよ」


 ふむふむ……っと、始まりましたね。

 まずはライフを選ぶようです。ライフに使用したカードは相手の攻撃で割られるとコストを踏み倒せるようなので、強力な術式と駒をほどほどに入れておきますか。

 五つの内二つが駒、三つが術式です。


「まずは私のターン……レッサーゾンビとシビルスケルトンを召喚。煮えたぎる汚泥を起動」

「ほほう、王道だね」

「死者を冒涜するネクロマンサーに王道も何も無いでしょ。はい、次ユキだよ」

「よしよし、土塊の戦士とそよ風の狩人を召喚してターンエンド」

「レッサーゾンビを召喚、繰り返される墓荒らしを起動して二枚ドロー。連鎖召喚を起動して手札のコープスゾンビとフィールドのレッサーゾンビ二体をコープスゴーレムに改造。ターンエンド」

「壁役だね。硬いから序盤だと優秀なんだよねそれ。私は獅子の鼓動を起動して土塊の戦士を岩石の戦士に、森の囁きを起動してそよ風の狩人を突風の狩人に強化するよ」


 序盤はお互いに自陣の強化ばかりで攻めようとしません。

 マスを移動できる数は限られていますし、無策で突っ込めばリンチされますからね。

 攻撃力も体力も低い雑魚は素材にして混ぜ混ぜしましょうねー。


「――ふふふ、進軍しなさい、骸の兵達よ!」

「なんの! 雷轟の勇者で迎え撃つよ!」


 五ターンほどで準備を終え、更に五ターンを費やして着々と盤面の制圧を進めた私は、グールソルジャーを筆頭にゾンビファイター、スケルトンアーチャーを配置してユキのフィールドへ攻め込みました。

 ユキは私の攻撃に対し、範囲攻撃が可能な雷轟の勇者の駒で迎撃しようとしています。

 ですが、私の手札には相手のフィールドでも起動できる術式が――


『ライキャクデス』

「……およ?」

「ちょっと行ってくるね」


 時間的に出前が届いたのでしょう。

 代金はネットで支払い済みなのでささっと受け取って戻ります。


「おお、お寿司! しかも高級なやつ!」

「次はユキに奢って貰うからね」

「……た、食べ放題でいい?」


 ちら……と財布を確認したユキは震える声で確認してきます。ええ、食べ放題でもいいですよ?


「きんぐのプレミアムね」

「せめて太郎にして!」

「ふふ、いいよそれで」


 きんぐはお高いですからね。ユキのお財布事情的に厳しいでしょう。

 さて、出前が届いたのでアンネバを終わらせましょうか。


 相手のフィールドでも起動できる術式、汚染する腐敗領域に残りのコストを全部注ぎ込み、雷轟の勇者周辺をネクロマンサー有利の地形に変更します。

 被せるようにユキも術式を起動して雷轟の勇者を強化しましたが、そちらが単体バフならこちらは範囲バフかつ範囲デバフです。

 ゾンビファイターとスケルトンアーチャーでちまちま削り、グールソルジャーの一撃で叩き潰しましょう。


 そしてネクロマンサーの本領をここで発揮します。

 スケルトンアーチャー及びゾンビファイターをコストに戻し、回収したコストで起動する禁忌蘇生の術式で雷轟の勇者をエインヘリアルレイスとして使役。

 エインヘリアルレイスでユキのライフを一つ削ります。

 そして、グールソルジャーとエインヘリアルレイスを素材として四腕の屍人を作成。多少攻撃力は落ちますが、二回行動できる利点がありますからね。


 ふふふ、これでユキのライフはあと一つ……!


「ぐぅ……勇者前提の術式を仕込んだのが仇になったかあ……」

「降参?」

「……ハルっち初めてだしちょっと舐めプしようかなーって思ったらコテンパンにされたよぉ。降参するね」


 舐めプして私に勝てるとお思いで?

 ……まあ本気でやりこむようなゲームではありませんし、暇つぶし感覚で遊んだだけなのでいいんですけどね。


「――いやー、美味しかった。滅多に食べられない高級ネタが一杯入ってて幸せだよ……」


 ユキは幸せそうな顔で寝っ転がっています。

 さて、晩ご飯をいただいた後はスイーツの時間です。ユキが持ってきたケーキを開封し、ついでにお酒も開けます。

 チーズケーキとフルーツケーキですか。ここに私製である紅茶のゼリータルトも加わると。


「はい、誕生日おめでとうユキ」


 包丁で丁寧にカットしたタルトを皿に取り分けて、そこに二つのちょっと小さめなケーキも載せれば、中々にボリュームのある一皿の完成です。

 自分の分も取り分けて味見すると……うん、美味しい。何気にゼリータルトは初挑戦だったのですが、美味く出来ましたね。


 寝っ転がっていたユキも起き上がり、フォークを刺して三種のケーキを頬張っています。ほら、ゴクゴクと流し込むようにお酒も呑んでいるので、酔いと幸せで顔が蕩けきっていますよ。


「……ハルっちぃー、結婚しようねぇー……」

「そういう言葉は素面でね」


 酔っ払うとスキンシップが過剰になるユキを引き剥がしベッドに寝かせます。

 法律上は同性婚は可能ですが……私の場合はデザイナーベビーであることや家の事情もあって軽率に結婚できないですからね。

 臥龍岡(ながおか)家から派生した分家の一つである名瀬家は、一応は格式高いお家ですから、許婚を家が決めないとも限りませんし。


 ユキと結婚ですか……悪くない気はしますが、胸の内に仕舞っておきましょう。少なくとも、ユキがお酒に頼らず言えるようになるまでは。


 ――片付けもあらかた終わったので私もお酒を飲みますかね。度数が低いものを開けてっと……

作中世界ではデザイナーベビーという、両者の遺伝子情報があれば人工的に子どもを作れる技術があるため、同性婚は世界的に認められています。

ただし、デザイナーベビーが他者と結婚するためには、遺伝子に問題が無いか様々なテストを受ける必要があります(遺伝子に問題があるケースは殆ど無いが念のため)。

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