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龍の居る世界     作者: 子萩丸
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潜入 龍の城


 身仕度を整え、今できる万全な状態を確認しあい 訓練所に入る。アヤメは背中にチヌの入ったカバンも背負っている。ロアルが地下通路に向かう床の扉を上げながら言う。

『ここの代表者は、変更した。急な話だと言う従業員は、シュラから貰った茶で眠っている。起きる前に向かいたい』

予定より少し早い出発になった理由を言う。

『急に代表者を変更して大丈夫なのか?』

光苔ヒカリゴケの灯りを人数分用意していたシュラが聞いた。

『必ず生きて戻れる保証は無いだろ?心配するな。アヤメちゃんは、私の命に変えても守りきる』

笑顔でそれだけ言って先に地下通路へ行った。

「アヤメ、さっきの作戦で良いじゃろう。ロアルはおのれの命の価値を低く見ておるようじゃ」

「わかった。アタシ、ロアルさん好きだもん」

続いてアヤメ、ヒムロ、最後にシュラが扉を閉めながら地下通路へ入る。


 薄暗い通路に四つの灯りが動く。途中の分かれ道でもロアルは迷わず進む。

『灯りがあるだけでも、随分 歩きやすいな。それに、思ったより小さな動物が住んでいる』

ロアルが小さな声で話すが、壁に囲まれていて声が響く。

『こんな暗い中でも、逞しく生きている鳥も居るのですね』

「コウモリだ、鳥とは違う」

静かな声でも響くが、天井にぶら下がる無数のコウモリが驚いて飛び立つ様子は無い。たまに移動するコウモリが飛ぶ位だ。

 足下には、たまにネズミが走り抜ける。

「ここの生き物は、人の造り出す秩序に翻弄される事も無いのじゃろう。昔から変わらぬと話しておる」

『ヒムロちゃんは、動物の言葉がわかるのかい?』 

「言葉ではないのじゃ。心の在りかたのようなモノかのう。命ある者 全てに心はあるのじゃよ」

『ああ、だから食べる時にも話していたんだね』

話しているうちに、分岐点まで着いた。

『シュラとヒムロちゃんは、今朝 入った所まで行けるか?』

龍の城から戻る時に入った植込みの中に草に隠れた出入口があった。

『覚えている。この先にある階段だったな』

ほんの一瞬。

 ラージャ分身体からシュラに直接 思考が届く。

『そうだ。更に道は続いているが、階段が見えたら上れ』

ロアルが話す間に分身体の思考は途切れた。

 しかし、内容は伝えなければ。確実に分身体の思考からは見方と納得できる情報があった。

『落ち合う場所は変更だ。ロアルはアヤメと地下倉庫までの行き方を確認して、昨日の龍の城で待つ』

言葉だけで伝える内容が、相手に通じるのかシュラは不安に思いながら反応を待つ。

『わかった。アヤメちゃんに正しい場所を教えたら、昨日の部屋まで行けば良いのだな』

ロアルはシュラの態度に不信感も見せずに応じた。


 ここで二組は別れる。


 間もなくシュラとヒムロは、龍の城から近い植込みの中に出た。周りに警備する姿も無く、使用人が使う扉から音を立てぬよう入る。

「ここの階段から地下に行くと、何処どこに出るのじゃろう」

予定より早い。

 少し様子を見るぐらいなら、問題無いだろう。シュラが先に階段を下りる。誰も使う事が無かった階段には 埃が積もっていて、シュラの大きな足跡にヒムロが重ねるように下りていく。

 少し下りた所から、カビと血の臭いが強くなる。

 



 ユタはリリが綺麗だと話した火薬の分量を分けて見た。薬を作る時に似て、分量を考えながら計る作業は面白い。

 火を着けて、華やかに燃え尽きる量を見付け出している。

 ルフトも感心して眺めているが、手に取っているのはペンと紙。作業の工程を書いている訳では無く、タタジクへの返信文を並べている。

「子供たちが居なくても、夢中になれる事があるのは良いことね」

リリが変えのお茶を二人に置いて、また広場の様子を見て来ると言う。


 夜がけても人はまばらに残っている。収穫の効率向上を話し合う中にパウゾも居て、以前のように鶏産を活発にしたいらしい。

 酪農を始めるにあたって、職人たちは家畜小屋を設計から建築まで、次々に手掛けて行く。

 知識を伝え合う事で、更に得意分野が細分化されて行き、今までは 建築だけでも三人から四人程度で 行っていたため 木材の切り出しから加工、組み立てから完成までには時間がかかるのが当然だった。現在は建築予定の模型を作り、理想的な形になるよう話し合いながら完成予想図の模型を作る。そこから改めて設計図を書き、材料の寸法も指定されて行く。

 設計士、木材を切る木工業、組み立てに携わる建築士、得意分野に集中した作業になるので、以前の半分以下の時間で完成する上に 使いやすさも好評なのだ。

 これは物を作る皆の意識にも波打つように広まった。均一な太さで安定した長い糸をつむげるようになった。半年もさかのぼれば、トレザに無かった技術でもある。

 シュラとアヤメが来て、神々が身近にあると知ってから、勢い良く変化が進んでいる。

 機織はたおりの機器は、以前から故障した箇所だけを修理して使用していた物を 新しく作り、各々の職人が意見を出す事で改良が進む。

 模型とは違う、子供でも使える大きさの機織はたおり機器を見習いの職人が作った時は、子供たちが群がった。大人と同じ仕事が出来るようになったと様々な形で触ったり、使い方を覚えながら幅の狭い布を織る。

 子供たちが使える大きさの道具は好評で、簡易的ではあるが仕事を知る為には役立つ事が多く見付け出された。

 子供特有の柔軟な発想も活かされていく。

 文字を覚えた者も多く、書類として報告される内容も増えているが、やはり直接会って実物を見ながら確認するのは違う。

 明日の朝からユタが確認して行く順番を、リリが記入しながら 聞いて歩く。舞台に残してあるムウの絵が、神々に認められた事を誇らしく感じた。


 バムは アギルとラージャと共に昇降機を使って崖を上がり、他の兵士が居ない所で話しを切り出した。

「タタジクに帰ってから、みんなの様子が変わったんじゃないか?」

任務は失敗したのだ。

 薬師シュラを捕え、トレザを制圧下に治める。当初の計画は、何一つ実現していない。それなのに、待遇が大きく好転したと誰もが話していた。

「ラージャのおかげなんだ。あと、シュラ君とアヤメちゃんが、ストラーク様と交渉したって」

ラージャが直接シュラとアヤメを連れて、タタジクに行った事はバムも覚えている。湖の水門を開いた日だ。

「アギル、班長になったとはいえ ラージャ様やアヤメ様の呼び方に気を使え」

バムはアギルを たしなめる。

「バム、わたしは構わぬ。アヤメも敬称がむず痒いと言っておったぞ」

笑いながら言うラージャは、呼称など どうでも良いとバムにも兵士の頃と同じように話せと肩に手を乗せる。

「お立場を知った今では、とても出来ません」

そんなバムにも笑いながら、ラージャが

「タタジクに水と潤いを届けた兵士が優遇されるのも、当然であろう。だが、再びトレザの制圧に働きかける者を見抜けぬのも トーナやアギルの目は飾りなのか」

アギルはラージャに言われ、肩を落として一人で昇降機に乗る。

「誰が、どう関わっているのか、確認している。でも、もう みんなが怪しく見えてきた」

「不信感を与えぬよう配慮し、改めて兵士の作り出した道具を利用して わたしもタタジクを訪ねると、伝えよ」

「わかった。ルフトとユタ様も一緒で良いか?」

「俺も、トレザに戻るけど、今のタタジクは 見ておきたい」

バムも同行する意志をアギルに伝えると、嬉しそうな返事と共に昇降機の滑車が軽快に鳴る。




 暗がりで目を開いたムウが、完成した絵に向かって呟いた

「まだ、足りない。違う。もう少し」

フラフラと壁に近付いて、画材を探す。

 ムウが眠っている間に、ほとんどの画材が片付けられていた。

 残っているのは、ムウ達が用意していた画材と足場だけだ。

 それでも充分 仕上げに使える絵具は残っている。

「ムウは、まだ続けるのかい?では、部屋を明るくしようね」

クウの部屋が明るくなった。

 急に明るくなった室内で、ムウは目を細めて壁の絵をじっと見る。

「あのさ、クウ様。暗くしてもらえる?」

「構わぬよ」

フッと室内の照明が消えた。

 窓の外から月明かりが射し込む。

 暗がりで、絵を眺めて

「完成じゃないから。明るい所だけで見る訳じゃないから。ここで、暗い部屋でもクウ様は眠らないでしょ。なら、暗くても見える絵にしないと」

実際の洞窟は、暗い中でも感動したのだ。

「そうかい。では、ムウが作業を進めやすいように、手元だけを明るくしよう。色の判別は出来るかい?」

ムウが眠ってしまったので、側仕え達も今は休んでいる。

 ムウが手探りで画材を探す様子は不便だろうと、画材が見える程度の小さな灯りを出した。

「あ、見える。これなら欲しい色も すぐに見つけられるよ」

描く所とムウの手元だけが明るくなった。

 ただ、筆に絵具を付けたムウは壁に色を付けない。

 離れた場所に行き、全体が暗くなった絵を確認してから

「クウ様、明るいと絵具は見つけやすいけど、壁は暗いまんまにしてもらえる?」

「良いよ」

まだムウの手元は明るい。絵に近付いて、

「うーん。ボクの手元は暗いまんまがいいな」

「そうかい。これならどうだろう」

画材が置いてある所だけが、ほんのり明るい状態になった。

 また、離れて壁を眺める。画材の辺りから灯りがこぼれ、一部分だけが照らされる。

「これ。クウ様、これがいい」

「うん、ではムウも暗いから気を付けて描くといいよ」

微笑んだクウは、ムウを見守る。

 照らされる部分の色を確認して筆を走らせた。少し色を付けると、離れて確認する。

 イイスもトトも、寝台でぐっすり眠ったまま。その寝息も心地好く、ムウは仕上げに取りかかる。

 ほんの光る壁の色。それに似た色を暗い壁に乗せて行く。景色に合わせて立体に見える所を選び、離れたり絵具を手に取ったり、足場の高い位置に登ったりと動き回る。

 少しの睡眠でも、ボンヤリしていた疲れの無くなったムウは、近付く完成の形に早く届きたく はやる気持ちで大きく息をする。





 龍の城で地下室に向かって見たのは、人の姿に青い鱗の異形。まだ息のある者もいるが、複数の遺体。

「ラージャの鱗と同じ色じゃのう。人の体には苦しかろう」

シュラは、まだ息のある異形の体に触る。

「ヒムロ、救えるだろうか」

無理なのは解っているが、すがるように見上げた瞳に気付いて言葉を選ぶ。

 ヒムロも救える命なら、この場で何とかするだろう。

「龍の命は人の体には過ぎた薬のようじゃ。生きる意志に任せる。シュラはラージャのぎょくすら受入れ、命を繋いだのじゃ」

異形の体を丁寧に横たえたシュラに、縋る瞳はゆっくり閉じた。

 浅く短かった呼吸が、少しだけゆっくりと、希望を見付けたのか、諦めたのかは わからない。

 なぜ、こんな遺体が幾つも転がされた部屋があるのか、全くわからないまま、下りて来た階段から静かに上がり、酒樽の上を通って広間に繋がる階段に着く。


「ラージャの気配が、迎えると待ち望んでおる。しかしシュラ、しばし待つが良い」

「うむ。複数の気配も感じる」

厨房から上がる階段で、息を潜めて様子を伺う。

 大きな扉を開く音、手入れがされてない扉はギイギイときしむ。そして静かに話す声。扉を出た気配と、再び軋む音を立てて扉が閉まる。

 複数の足音が離れて行く。残るのはラージャの気配だけになった。

 慎重に階段を上がり、広間に出る。

 誰もいない。

 先にある扉は開いたままで、静かに近付いた。




 ルフトはトーナに宛てた手紙の下書きをしながら、ユタが火薬の調合を続けるのを眺める。

 バムとラージャがユタの家に戻り、黙々と火薬の分量を計るユタの邪魔にならない位置に座った。

 ルフトは朝方にバムと確認した原石の大きさを興奮気味に話しだす。

 少しだけ分けた火薬にユタが火を付けた。

「マッチを作るのに最適な分量は、覚えたんだ。でも、種類の違う火薬もあって、マッチにすると火傷すると思うんだよね」

パアッと明るくなり、すぐに燃え尽きる。

 何度か燃やしているため、部屋には煙と硝煙の匂いが充満している。

「ユタさん、寒いけど窓を開ける。煙だって、これ以上 充満したら火がつく」

バムは窓を全開にした。

 少し冷たい空気が入り、煙は外に消えて行く。

「ああバム、ありがとう。煙にも火がつくのかな?」

夢中で繰り返していたユタは、バムの言葉を振り返り、残っている火薬の量に青ざめた。

 ほんの少量でも、火力は強いのだ。ユタの家ごと爆発する前に止めたバムは、兵士の頃に経験したと残念そうに笑う。

 大惨事だったのだろう。詳細は誰も聞かない。


「ところでバム、兵士の奴等はどうだった?」

ルフトが聞く。

 火薬を持ち込んだ兵士、それに地形やトレザの主要人物を聞き出そうとした兵士の事だ。

「残念ながら、アギル以外の全員が怪しく見えてな。俺はタタジクに帰るように勧められた」

黙って聞いていたラージャも

「バムの言う通り、兵士とアギルの意識には解離が見られた。人は多数の意見に流される」

タタジクで大勢に囲まれ、トレザの豊かな資源に目が眩んだ タタジクの領民の意見に流されているという。

 アギル以外の兵士が、全てトレザに対する意識を変えてしまったのだと。

「アギルは、班長の意識に少々足りぬようだ。だが、人の感情にさとくなる為に必要な時間で あろう」

アギル自身も 皆に裏切られた事には、薄々気付いている。

 この先は アギルの精神力に任せ、人望ある長になれるよう、経験を積むべきだと笑って話した。

「ラージャ様は、お優しいんだな。俺ならアギルを降格させる」

ルフトが言えば

「降格させる事で、害意から守る目的であろう。ルフトの恩情も人によっては温かみを覚えるぞ」

ルフトにしてみれば、賃金カットに繋がる効率を重視していたのだが、実際に立場が降格する事で害意も減るのだ。

 ラージャはアギルの精神的な鍛練が足りないと笑う。


「ところでな、俺がトレザに来た目的なんだが。砂漠の水路と道を見ておきたい。結構 面白い事が多くて後回しになってるが、いつになる?」

ルフトは皆を見回して話す。

「うむ。アギルに同行のむねを伝えた。早ければ明日の夜明けだ」

ラージャが応じる。

「さすが龍神様だな。話が進む。俺の意見は アギルには渋られたぜ」

他の兵士の意見もあるが、とルフトは笑う。

「それなら、ルフトに書いて貰った手紙を急いで書き写さないとね。トーナに届けて貰わないと」

「書き写すのは必要だが、ユタからトーナに直接 渡せ。タタジクに向かう衣装も揃えておくと良い」

「え?」

ユタは崖から見下ろしただけで足がすくんだのを思い出す。

 当然、同行するとは思ってなかったのだ。行ってみたいとは思う。だが怖いのだ。小刻みに膝も震える。

「ユタさん、いずれトーナ様も ご自分の足でトレザまで来たいと話していたそうだ。俺も、昇降機を使えば下りられたんだ」

バムも震えるユタに気付かない素振りで、安心させるように話す。


 途中から話しを聞いていたリリが、

「あら、急いで剣舞の衣装を出さないと。それに、明日の朝から行くなら、予定の変更は私が伝えて来るわね」

温かい お茶を皆の分 用意して、窓を閉めながら言った。





 開いた扉に隠れるように進んだヒムロが

「確かに、今はラージャがる」

シュラも黙って頷いて、部屋に入る。

 寝台には埃が積ったまま、天井や壁に埃で落ちかけた蜘蛛の巣。窓辺の椅子に深く腰をおろした、橙色に近い金の髪は、結い上げずに下ろされている。足下までの長い髪に、外を眺める姿勢のラージャの姿も覆い隠されている。

「よく来た。待ち望んでいたぞ」

聞き覚えのあるラージャの声より、少し高く感じた。

 長い髪を腕でけ、立ち上がって振り返った姿に

「誰じゃ?」

ラージャ分身体の『気』で在りながら、ヒムロが険しく目を細めた。

 詳細はシュラの意識にだけ届いていたため、シュラは特に何も言わない。

 橙色に近い金の髪を持つ、ラージャの分身体である それの姿は、女性だ。

「契約の直後にな、ヘルラが女体に成れるかと問うた。それ以来、これで過ごしている」

本体ラージャの苦虫を噛み潰したような苛立ちがシュラにだけ届いた。

「ヒムロ、余分な布はあるか?」

シュラが聞く。ヒムロも察して すぐに布を出した。女性ラージャは全裸なのだ。シュラは目のやり場に困っている。

 ヒムロから受け取った布をスルリと身に付け

わたしの事はラ-と呼べ。今の本体とは自我も解離しておる」

ラ-と名乗った分身体は、何処どこから伝えようかと再び椅子に腰をおろして、シュラとヒムロに向き合った。

「地下室を見た。あれは何じゃ?」

ラージャの鱗に身を包まれた、人の形をした異形の遺体の事だ。ラ-が目を伏せて、

「ヘルラとアシンの研究らしいぞ。わたしの皮膚を剥ぎ取り、人に移植し始めた。以前は腕や足、臓器の移植をしていたぞ」

 地下室で生きていたのは二人。一人は、辛うじて心拍が止まっていなかった、という程度だった。

「ラージャの皮膚?」

「ラ-だ、わたしとラージャは別に考えよ」

強く制する声でラ-が言う。

 セトラナダとの契約が終わり次第、自害する意志は固まっている。本体に影響を与える事が無いよう、呼び名も変えろと言う。

「呼び名は変えてやる。だがラ-、自害などさせぬ。それと、臓器を移植したのはいつの事だ?」

「ああ、契約して間もなくだ。人は臓器を出せば、呆気なく魂が離れて行く。しかし、異形に姿を変えて行く者も居た。数日で息も絶えるが」

主にアシンの研究だとラ-が話す。

 人の臓器に龍の臓器が馴染むのか、麻酔も無い状態で人はどれだけ苦しむのか、呆気なく死んでしまう為に、臓器の移植から手足に変更した。しかし腕を移植しても全身が鱗におおわれる頃には息も絶える。足でも同じだったそうだ。

「人には過ぎた薬じゃ。心が保ててらぬ。頑丈過ぎた体には魂が定着出来ぬようじゃ」

見て来たままをヒムロが話す。

わたしも、本体に思念を送る迄は地下室に居た。皮を剥がれてな、この部屋をわたしの血で汚したくなかった」

隣の広間は床が石造りだ。流血で汚れても、後で簡単に拭い取れる。

 ヘルラやアシンの配下ですら、床の血を拭わない。ラ-自身が床に這いつくばって清めているという。

 しかし、こちらの部屋の床には、埃で解りづらいが クウが気に入っている絨毯が引かれている。

「だから、会えなかったのか」

「血は止まっていたぞ。だが地下室で人の出入りを眺めていた。アヤメに知らせる内容でも 無かろう」

「見せたくは、無い」

アヤメの事を狙う敵でさえ「殺しちゃダメ」とシュラは止められる。

 食糧として捕えた獣の命にさえ、初めての時は涙したのだ。

 研究という目的の為に、人が命を落としていると知ったら、アヤメは また悲しむだろう。


「アヤメとロアルも、城に入ったようじゃのう。地下室の話はしまいじゃ」

ヒムロが促し、アヤメ達を謁見の間に向かわせなかった理由をラ-が言う。

「アヤメはロアルと共に謁見の間へ進んだであろう。そのままでは多分、ロアルは矢面に立ち 明日迄には命を落とす」

ヒムロとシュラが同時にラ-を凝視する。

「ラ-には、未来が見えるのか?」

「いや。凡その見当だ。しかし、以前コアに聞いたロアルの気性なら、予想は着くぞ」

警備の多い中では、常人離れしたロアルも無傷では済まない。

「それで、急に知らせて来たのだな」

厨房の階段から接近する気配はアヤメとロアル。

わたしの意識が届いた事に、安堵した」

「ラージャから、変な石を賜ったからな」

「変な石ではないぞ。あれはラージャのぎょくじゃ」

ヒムロが怒り顔で見上げる姿を見るラ-は、嬉しそうに目を細めた。

 アヤメとロアルの気配を扉の影に感じ

「明日、シュラと蛇……ヒムロだったな、アヤメと共に王の城へ行け。地下通路は龍神の名のもとに王を守る者としてシュラとヒムロに許可を出す」

ラ-が言う。

 扉の影から顔を出して 驚いた顔のアヤメ、龍神の説明を聞かされて道中を来たロアルは、ラ-の言葉に兵士の敬礼をしてひざまずいた。



閲覧ありがとうございます。

日曜日に更新の目標が何とか間に合いました。

でも、潜入予告からずいぶん過ぎてしまいましたね。


あのさ、クウの部屋に絵を描くとか、兵士がトレザに火薬を持ち込むとか、ユタは花火の研究始めるし、もうシュラとアヤメの話だけで良いかな。


あ、でも色々と伏線が……。


本当は、午前7時に更新するつもりでした。

何故なぜでしょう、天井にほんのり浮かぶクモの巣が目に入ってしまった昨日。突然の大掃除スイッチがON。

気持ちよくゴミ袋が膨らむ一方で、始めの文しか書けてない苛立ち。

布団に入ってから進めようと、早く布団に潜り込んで書き進めれば、猫に腕枕を奪われて寝落ち。

目が覚めてから、午前7時を過ぎても せめて今日中にと、今に至ります。


それでも、来週も日曜日に更新するつもりです。

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