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龍の居る世界     作者: 子萩丸
39/61

武器を磨ぐ


 訓練を終えて、ちょうど昼時になり 食堂には昼食も準備されている。ロアルの采配には無駄が無い。

『シュラに聞きたいのだが、どんな薬を取り扱っている?』

すぐに答えられるほど、種類は少なくない。シュラはパンをちぎりなが

『大抵の物ならあると思う。主に傷薬だが』

アヤメは気付けば小さな傷口が多い。草薮くさやぶを通り抜ければ、大抵傷だらけになる。

『さっきの蜜とか、そうだな 私はルフトから仕入れている茶のように、疲れない物があれば欲しい』

疲れない薬は無い。しかし、疲労回復に効果が高い薬や、解熱剤、疲労が完全に回復するまで数日間 眠り続ける薬もある。どれも 成長を止める薬を作ろうとして出来た失敗作だが、高い値段で取引できる物だ。

『疲労回復のような感じで良いだろうか?』

食事を進めながらロアルが答える。

『そうだな、さっきの蜜みたいなやつだ。目覚めた時は、若返ったのかと思ったぞ』

実際にロアルは、年齢による体力の衰えにも気付いている。それが、蜜を入れた茶を飲んだ後から 快調なのだと笑う。

『なら、取って置きのヤツがある。部屋に戻れば 揃えられる』

聞きながら食事を続けていたアヤメが、ロアルの袖を引いて止める仕草を見せる。

『どうした?アヤメちゃん』

グッと口の中にあった食べ物を飲み込んで

『プハァ。ロアルさん、すごくマズイお茶ですわ。涙が出るぐらい、苦いのですよ』

『あれを飲んで泣くのはアヤメだけだ』

相変わらずヒムロは食材への感謝の言葉を並べながら 食事に没頭している。

『潜入するのは今夜だろ?私も仕事を片付けて、少し仮眠を取りたい。その前にアヤメちゃんが泣くぐらい苦い茶と、蜜を貰えるかな』

アヤメはロアルの言葉に「本当に苦いから」と言い、心配そうに見上げながら食事を続ける。

『承知した。食事が済んだらロアルの所へ届ける』

『いや、私が取りに行く』


 食後は一旦部屋に戻り、夜に備えて城の模型を見ながら ロアルが一階の隣に大きな紙を二枚広げた。他にも 城の付近の地図や、書類を置いた。まだ何も書かれてない紙にロアルが線を引き始めた。

 シュラは大きな荷物の中から幾つも瓶を出す。

『睡眠中に疲労回復が出来れば良いだろうか?茶が良いんだったな』

数多くある瓶は、それぞれの効果が違う。

 慣れた手付きで薬湯に使う粉を空のうつわに計りながら入れて行く。

 ロアルは紙の上でペンを止め、シュラを見ながら

『出来れば、短時間の睡眠で楽になれるヤツで頼む。私が眠っている間に、置いて行くなよ』

シュラはロアルの目を見て、数回 まばたきしてから 頷いて配合していく。入れようとしていた容器の蓋を閉め、幾つか容器を見比べて計る。




 トレザの崖付近では。

 誰も乗ってない昇降機が着いた。

「バム、下には他のやつも居る。こいつらと下りて会って来ないか?俺はユタ様と話してるって伝えてくれ」

アギルは 相変わらず人が良さそうな笑顔で 残っている兵士と一緒にバムも下りるよう勧める。

 バムはルフトとユタを見て、動かない。

「おいバム、懐かしいって さっき話してただろ?会って来たらどうだ」

ルフトが肩を叩き、他の兵士に聞こえない程度に耳元で小さく

「怪しいヤツの様子も探れるか?」

状況は飲み込めた。

 兵士たちに違和感はあったのだ。不自然にトレザの地形を把握しようとする態度や、おさ以外の重要人物を聞き出そうとしていた同僚たちに、不信感を持ち初めていた。

「じゃあ、有り難く俺もみんなに会って来る」

バムも快諾の意思を兵士たちに見せ、昇降機に乗り込んで行く。

 下りる兵士たちに「今日はそこで夜営するって伝えてくれ」とアギルが言うと、下から「はっ」と短い返事があり、滑車が軽快な音をたてる。

「アギル、妙な動きはあったか?」

いきなりルフトから不穏な発言があり、ユタは様子を見る。

「いやルフト、普段と同じだったよ。俺に隠れて何かしてるなら、俺の前でボロを出す奴は いないだろ?」

「バムを行かせたのは、その為か」

お互いに昇降機の下りて行った方を見る。

 ユタも状況を確認したそうだが、どう切り出せば良いか困惑気味だ。

「ユタ、アギルから受け取った物があるんだ。売り物になるぞ」

ルフトは茂みの中に隠してあった大きな袋を取り出して来る。

 袋を開けると、更に小袋が十六個。

「ルフト、この袋は どうして隠してあったんだい?」

ユタが袋の中を見ながら聞く。

「ユタ様、同行している兵士たちが 俺に内緒で運んで来た物の中なんだ。こっちには箱が隠されている」

アギルが雑草を掻き分けた。

 明らかに木箱が隠されている。しかもルフトが中は火薬と導火線だと話す。

「カヤクとドウカセンか。それを隠して、何をするつもりなんだろう?」

「爆破しかないだろ?」

「バクハ?」

「もしかして、ユタは火薬が何か知らないのか」

照れくさそうにユタが頷く。

「うん、ここで使った事が無い物の事は、わからないんだ。教えて貰えるかな」

力が抜けたルフトは、その場でドカッと腰を下ろした。

「ユタ様は、火薬を見た事はありますか?」

アギルが話しながらルフトの出した袋の中を見せる。

 ユタも中を覗き込んで

「これはシュラに貰ったマッチと似た臭いがするね」

「マッチは知ってるんだな、なら この量に火を付ければ どうなるか、わかるだろ?」

 少量の火薬が付いたマッチでさえ、ちょっとした刺激で着火する。この量の火薬では、地形が変わるぐらいの爆発はするだろう。

 ゴクリとユタの喉が鳴る。




 クウの部屋では、壁一面にムウの絵画が仕上りを感じさせる色合いになっていた。

「ねえ、クウ様。ムウは、ずっと眠ってないの。ワタシは普通に眠っているけど、トトは いつもよりずっと眠っているの」

イイスは細かい宝石の廃材はざいを使って、蝶の模様を付けながら接着剤で貼り付けていたが、材料も減ってムウとトトの体調を気にかける。

 蝶の飾りは、かなりの数になっていた。

「イイス、ムウの代わりにトトが休んでいるのだよ。あまり やってはいけないのだけどね、トトも少し休んだ方が良いからね」

左手の怪我をしてから、トトも無理していたのはイイスや家族が知っていた。

 ムウの分も代わりに休息を取る事で、トトが熱を出す事も減るだろうと クウが笑う。

 ムウが下りて来て、部屋の反対側から絵を眺める。

「あと、あれだな。それから下の色はもっと……」

呟き、また絵の具を持って気になった所へ描き込んでいく。

 もう、食べる事も忘れて描き続けている。さすがにイイスはムウが気になり、夢中で描く所へ声をかけに行く。

 トトも目を覚まして、食事の準備が始められた。

「ちょっとムウ、何か食べよう?」

「うん?いいよ、後でね」

何も聞き入れてない返事しかない。

「クウ様、眠らなくても、食べた方が良いよね?」

言いながらイイスはトトの体調を確認する。

「イイス、オレ熱は無いよ。すごくいっぱい寝たからかな、もう痛くない」

トトは左の手首を軽く叩いて見せる。

「本当に痛くない?また強がってるんじゃないの?」

イイスは左腕を叩かないように、そっと離す。

「イイスはみんなの体調に気配りが出来るんだね。優しい子だよ。わたくしの近くに居る間は、心配いらないよ」

それでもムウは、少し食べた方が良いと話す。人の体を作るのは、食べる事も必要なのだと。

 ムウがまた、絵から離れた隙にイイスが捕まえに行く。

「何するんだよ!」

珍しくムウが声を荒げる。

「食べよう!」

ムウ以上に大きな声でイイスが怒鳴った。

「遠くから見て、次に書く所を考えてて良いから、食べるの」

「イイス、怒ってる?」

「怒ってません。どんどん絵が完成して行くの、見てて楽しいよ。でもね、ムウは、昨日から食べて無いよ」

「……そうだっけ?」


 クウはコロコロ笑いながら

「ここで、食事をしながら絵画を眺める人の気持ちを考えて絵を見るのは、どうだろう?何か、思い付くかもしれないよ」

ムウの席は、絵を見渡せる位置に準備されている。

「あ……、それは良いかも。また、シュラが見事だなって、言ってくれるかな」

絵から離れて、夢から覚めたようにムウが言う。

 しかし食べる為に動かす手は 泳ぐ。テーブルに並べられた食事は、絵の隅々まで見るムウの視界に入ってない。




 ロアルは紙に地下室の図を書き、もう一枚に地下通路を書く。

「これみたいに立体なら もっと解りやすいだろうけど、すぐに用意できる物では無いからな。案外、地下は上の建物に比べると狭い」

地下はロアルの知る限り、食材の保管場所になっていたと言う。季節を問わず気温が安定した地下は、肉や野菜、酒の保存にも適しているのだそうだ。

 実際には、壁を隔てた先に地下牢がある。扉は無く、一階から食糧庫と地下牢へは、別の階段があるのだ。ただ、ロアルは地下牢の存在は知らない。

 地下の食糧庫に繋がるのが地下通路だ。

『貴族の城に続く通路は、どこも塞いでなくてね。だけど、どの城に繋がっているのかは知らないんだ。ただ、同じように地下の倉庫だとは聞いた』

ロアルが行き止まりの多い迷路を書き始めた。

 それは地下通路なのだと話す。コア (アヤメの母親)は、地下通路の道を全て覚えているらしい。塞いでしまった壁のカラクリを伝えた時は、かなり面白がって非力なりにコア自身が解き方を覚えるまで、組立てたり外したり したそうだ。

『まあ、今回は他の貴族は関係ないからな。王の城に続く通路を迷わず進めるなら、良いと思う』

アヤメは話を聞きながら、ヒムロと組み木の玩具を触る。組立て方や 外し方を、うろ覚えのヒムロと相談しながら覚えようと集中しているらしい。

 ロアルは地図を広げて

『それと 地下通路が続いてる先は、全部 私の店が買い占めてある。この店と、ここ、それと 離れた場所だが農地にある これだ』

合計三ヶ所に繋がっていると話す。

 農地は酒の材料を生産する畑を管理する小屋があり、小屋の中に地下通路への出入口が隠されている。もう一つの出入口は、城の付近にあるため いつ手離す事になっても良いように、完全に塞いだのだと話す。

 酒蔵の経営状況によっては、維持し続けるのが難しくなる事も予想しているらしい。

『繁盛しているように見えるが、なぜ?』

『法律が改正されてね。貴族様には無料ただ同然で酒を持って行かれる』

苦笑いするロアル。だが、その目には焦燥感が漂う。

 税金が増えた上で収入源の主力だった貴族は安く酒を買う。辛うじてロアルの経営する酒蔵にはセトラナダ以外の領地とも大口の契約はあるが、他の酒を扱う店は、次々と廃業に追いやられているそうだ。

 職を失った同業者が雇用を求めて訪ねて来ても、受け入れる余裕は無いと。

『どうして そんな横暴な法律が出来た?』

『ああ、横暴な法律だな。しかし当然の事として、受け入れていた。ここ数年で国民の常識も代わってたんだ』

そしてロアルは話す。

 鎮魂祭の朝夕に流れる歌の意味は、アヤメが泣くのを見るまで気にした事が無かった。しかし主旋律にある祝詞のりとの意味を知り、被せるように流れる副旋律を知り、ロアル自身の常識に変化があった事に気付いたのだと。そして周りの人も同様に、王こそが全て。その王を直接 支える貴族もとうとく、国民は貴族様の命令は 何もかも受け入れるのが当然だと、疑う事も無かったとも。

『歌による国民の洗脳か。今の王は予想外の事をするんだな』

『洗脳?』

聞き慣れないシュラの言葉をロアルが聞き返す。

『そう、相手の思考を都合良く変えるんだ。言葉や、時に暴力で相手を動かす。相手が自分の意思で考えていると錯覚するまで繰り返すんだ。あの拡声器なら、遠くまで音声が届く。心に残る旋律を使い、古語で王に対する意識を変えて行ったんだろうと思う』

『なぜ、今の言葉の歌にしないのかと思ったら、確かにな。始めから わかる言葉で歌が流れていたら、私も貴族に意見する事は あっただろう』

気付かないうちに、王をたたえ、貴族を敬う意識に変化していた。

 それ事態は悪くない。いや、むしろ良い事でもある。しかし、国民の生活を考慮しない政治になりつつある。この状況でも、政治に異論を唱える国民は 出ないのだ。

『ロアルが気付いたきっかけは、歌詞の意味を知ったからだろう。ここで働く従業員に伝える事はできるか?』

『事務所の連中には現代語にした歌詞を見せてみた。副旋律に対しても、初めて知った時の私と同じ反応でな』

時間をかけて意識に変化があったという事実に、簡単にたどり着けないと ため息を吐く。

『国民はヘルラ王の見方という事か』

『いや、王だ。アヤメちゃんを王として考えるなら、逆転もある』

そうは言っても、アヤメはまだ十歳の子供だ。政治に携わるほどの知識が無い。

『とりあえず、ロアルが力強い見方だ。作戦は今夜で良いだろうか』

『ああ、その事だが、私はアヤメちゃんと王の城に続く通路を進む。シュラとヒムロちゃんは部外者になるからね、神と言ってもコア様との約束は守りたい』

玩具を触りながらヒムロが返事した

「私はロアルの意志を好ましく思う。それに隠密行動なら少人数の方が気付かれまい」

『そうだな。向かうのは龍の城と王の城。落ち合うのは謁見の間に続くバルコニーだ』

ロアルは城の模型にある使用人が使う階段の位置を確認し、シュラから薬湯の粉と蜜を受け取って部屋を出た。




 重たいほど量のある火薬。これは班長アギルに知らされず、別の目的で持ってきた兵士がいた事で 他の司令塔が何処どこにあるのか探り始めたのだとルフトが話す。

「この火薬はアギルが全部くれるってよ。ユタ、マッチなら随分 作れるんじゃないか?」

「う……、うん。そうだね、凄い量になるだろうね」

ユタは爆破の予想に震える声で応えた。

「おいおい、コイツが無いと爆発しないんだ、おさが こんなんで 震えるなよ」

ルフトは笑うが、ユタは爆破させようとする者の存在に驚いたのだ。

 バムの右腕とトトの左手を無くした戦争は、まだ記憶に新しい。火薬の量を考えれば、確実に大勢が犠牲になるだろう。

「ユタ様、バムに兵士の様子を探らせてます。俺が気付いてれば、ここまで運ぶ前に止められたんだけど、誰が裏切り者なのか わからない」

アギルの様子にユタの震えも落ち着く。

 震えていたのは、恐怖よりも怒り。命に対して、軽率な武器だと感じる。

「こんな物を使うつもりなら、ルフトは水を止めるのも考えるのかな」

「当然だ。ユタもようやく理解したか。水源を怒らせたらダメだぞアギル」

「俺ですか?」

「そうだろう。班長なんて名前だけで、兵士は好き勝手やってるんだ。俺の従業員がそんなだったら、降格決定だぜ」

「ああぁ。確かにルフトが言ってくれなきゃ、気付かなかった」

アギルが両手と膝を地面に着いた。

 ルフトは兵士の動きに敏感だった。バムも、若い兵士の割に作戦会議では重要な意見を出していた。今もルフトの指示もあり、バムが兵士の情報を集めているはずだ。

「久しいなアギル。いや、ここには良く訪れているか」

笑いながら現れたのはラージャ。

「龍神は、アギルともお知り合いなのか?」

ルフトがユタに聞く。

「ラージャ様は、兵士の皆をご存知でね。兵士の皆もこころよく水路を作ってくれたと、思っていた」

帰る時には、また来たいと話していた。

 爆発すれば、そんな場所さえ無くなる事を考えなかったのだろうか。火薬を見てユタは思いを巡らせる。

「ユタの『気』が珍しく、面白いほど怒りに満ちていてな。闘気に変えてシュラに届くぞ。して、アギルは班長のにんに足りぬ」

「ラージャまでそんな事を」

ヘタりこんだアギルが事実を受け止めきれずに泣き笑いになる。

「じゃあユタ、火薬は貰って 俺たちは帰るぞ。返事の手紙を書くんだろ」

「うん。アギル、君には怒ってないけどね。兵士のみんなには、ちゃんと言い聞かせてくれるかな。火薬は有り難くいただくよ」

かなり重い火薬の袋だが、ルフトは普通に抱えてユタと去って行く。

「アギル、兵士の様子を見に行くぞ」

「いや、昇降機は上がってない」

「必要ないだろう?」

「まあ、無くても下りられる」

以前アヤメが見せたように、滑車の先を見下ろして杭や途中の滑車が仕掛けてある所まで飛び下りる。

 実際に昇降機を使うよりは早い。ただ、昇降機が動いている間は 滑車の回転に巻き込まれると危険だろう。そんなに時間をかけずにアギルは下の兵士が集まっている所まで着いた。ラージャもアギルの速度に合わせて下り立つ。

 少し離れた所では、夜営の準備をしている。

 バムが兵士に囲まれて、タタジクに帰ろうと説得されている様子だが、今のトレザにバムは必要なのだ。バムも、応じる様子は無い。



 ロアルが部屋から出た後に、アヤメとヒムロが仮眠を取れるよう シュラが薬湯を用意する。

「アヤメはロアルと地下通路を使って王の城まで行くのだが、ロアルは現在の王に会わせても大丈夫だと思うか?」

「あの歌が どう ここの国民に作用しとるのか、わからん からのう。私はちと心配じゃ」

アヤメは薬湯を飲み終わってから

「あのさ、アタシ思い付いたんだけどね、ちょっと耳貸して」

他に誰が居る訳でも無いのに、ヒムロとシュラに耳打ちする。

「良いと思うが、なぜコソコソ話す」

「だってロアルさん、どこで聞いてるか わかんないじゃん」

扉を指してアヤメが言う。

 確かに、ロアルには聞かれたくない内容だ。

 アヤメとヒムロが玩具を持ち込んで寝台に寝転がる。しばらく手を動かしながら 他愛ない対話をしているうちに、規則正しい寝息になった。

 シュラは二人の顔にかかる光をさえぎおおいを作ってから、もう一つの寝台で横になった。


 シュラは ほんの少し睡眠を取り、衣類に仕込んである武器の確認を始めた。

 アヤメとヒムロが着る上着には、綿の種がかなり多い。砕いた瞬間に打ち出せる仕組みを作ったのはバムで、兵士だった頃の経験と子供に扱える大きさを考慮してある。作り出した職人たちは、威力が危険だと言ったようだが、狩に使うには充分だと話せば 更に威力を上げた。

 綿の種を打ち出すと同時に、強力な接着剤を付着させる仕組みもある。綿が広がりながら、ベタベタに張り付くのだ。連射されて避けきれず、シュラもベタベタになった綿を洗い流すのに苦労した。

 怪我はしない。ただ、かなり身動きに制限がかかる。アヤメがお気に入りの武器だ。

 正常に作動するのを確認して、改めて使いやすい位置に入れる。

 ヒムロもくさびを沢山作っていた。しかし全部 持っては行動に制限がかかる。ヒムロが普通に神の力を取り戻すまでの護身用に、紋様もんようじんを張り直す為の楔と、小さな弓矢を入れる。

 二人の上着に入りきらない残りの武器は、シュラが持てるだけ身に付けた。

 細い横笛の横穴を全て塞ぎ、吹き矢も打ち出せるように準備した。先端にタタジクで仕入れた小さな刃先を付けてある。


 充分だとは思っていない。急に手助けすると言ったロアルまで、危険な所に行くのは心苦しい。いっそロアルの求めた薬湯に、疲労が回復するまで何日も眠り続ける物を入れようとした所で、見透かされたタイミングで言い当てられた。

 そろそろロアルが目覚める時間になる。

 ヒムロが大きく寝返りをうち、寝たまま何度も伸びをする。釣られるようにアヤメも伸びを始めた。


「支度はできタぞ。いツでも出られる」

ロアルが音を立てて扉を開けた。

 まだ外は夕暮れで、予定していた時間より早い。

 しかしロアルが入って来た勢いでヒムロが目覚める。

「万全なようじゃのう、ロアル。さて私も準備するとしよう」

ヒムロは刺繍した服を身に付けた。そしてシュラが確認していた上着を羽織る。

 アヤメも伸びと欠伸あくびをして 起き上がった。


 トレザは夜。

 ユタがルフトと火薬の確認をしながら少量ずつ火を着ける。お茶を運んで来たリリが

「あら、綺麗な炎ね。まるでお花が咲いたみたい」

一瞬で消える火花に目を止めて話す。

 その言葉でユタは、祭りでも使える道具にならないか考えるが、ある程度は安全な分量を把握して置かなければならない。

 


 クウの部屋では、満足できる作品の完成に、ムウが眠りに落ちた。

 クウは完成した絵を眩しい笑顔で眺めている。 


閲覧ありがとうございます。


とりあえず 日曜日の朝を目標に、更新して行ければ良いかなと、考え始めた所です。

間に合わないかもしれない。

いや、続けられるかもしれない。


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