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護衛娘と気ままな王子  作者: 四季


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26話 いただきます

 私はなぜか鞄を持ったルカ王子とクレープ店へと向かう。


 その途中、のんびりと歩きながら見上げた空は、青く澄んでいた。太陽の光は優しく降り注ぎ、時折柔らかな風が頬を撫でる。思わず不気味だと感じてしまうほどに穏やかな日だ。


 歩くことしばらく、私たち二人は、クレープ店へとたどり着いた。

 前に一度、共に戦っていた仲間たちと来たことのある店なのだが、その時とは、店構えが少し変わっている。もちろん店自体は同じなのだが、店の前に出ている看板のデザインが変わっているのが印象的だ。


 改めて、時の経過を感じた。


「ここ?」

「はい。入りましょう」


 確か、店内で食べるだけではなく、持ち帰ることもできたはずだ。


「どんな味があるのかなー」


 ルカ王子は軽く鼻歌を歌いながら、そんな独り言を漏らしている。

 のんびりしすぎな気もするが、まぁ、ご機嫌なのは良いことだろう。少なくとも、不機嫌でいられるよりかはありがたい。


 店内へ入っていくと、木製のカウンターの向こう側に、店員の女性が立っていた。いらっしゃいませ、と、明るい声で迎えてくれる。


「メニューはこちらです」


 入店した私たちに、彼女は、厚みのある一枚ものの紙を差し出してくれた。


 そこには、クレープの完成図や名称が、ずらりと並んでいた。それを見て、ルカ王子は目を大きく見開く。口から「凄い……」なんて漏れていたことから察するに、こういった形態には馴染みがないのだろう。


「こんなにいっぱいあるんだ……」

「どれにします?」


 つい「王子」と言ってしまいそうになるが、女性店員の目があるため、ここでは言わないようにした。


「これ! 美味しそうだね!」

「どれですか?」

「これこれ! ストロベリーホワイトってやつ!」

「あ、いいですね」


 一枚のメニューを二人で見て吟味した後、ルカ王子はストロベリーホワイトクレープを、私はバジルチキンクレープを、持ち帰りで一つずつ注文した。その後、付近に置かれた椅子に座ってしばらく待ち、完成したクレープを受け取ってから、店を出る。


「ではこれで、塔へ行きましょうか」

「うん!」


 張りきった子どものような声で返事をするルカ王子。

 何やらいきいきしている。


 こうして、郊外の街全体が見える塔まで行くことにした。


 途中までは馬車を利用し、降りてから数分は徒歩。

 長時間歩き続けることに慣れていないルカ王子は若干疲れた様子だったが、休むことはなく、無事塔にたどり着くことができた。比較的早く到着できたのは、ルカ王子が頑張ってくれたおかげだと思う。


 塔の一番上に着くと、ルカ王子は大きな声を出す。


「うわぁ! 凄い!」


 彼は目を輝かせていた。

 私からしてみれば何でもないが、外の世界をあまり知らない彼にしてみれば、感嘆の声を漏らすほどの光景なのかもしれない。


「本当に、街が全部見える!」


 ルカ王子が興奮している姿を見つめていると、私まで、何だか特別な景色を見ているような気分になってくる。もしかしたら私は影響を受けやすい人種なのかもしれない——そんな風に思えてくるほどに。


「凄い! こんな場所があるって、どこで知ったの!?」

「知ったも何も、この辺りでは有名ですから」

「ええっ! でも、僕は知らなかったよ!?」

「……それはこの辺りで暮らしていないからでは」


 この国、ではない。この辺り、だ。


「あ、そっか」


 良かった。

 自身の発言のおかしさに気づいてくれたみたい。


「楽しんでいただけましたか?」


 これまでの言動を見る感じでは、楽しくない、ということはないだろう。が、念のため尋ねておいた。すると彼は、勢いよく首を縦に動かして、「もちろん!」と答えてくれる。迷いのない口調に、私はほっとした。こんな平凡なところで大丈夫なのだろうか、という不安も、多少はあったからである。


「本当に素敵なところだね」

「気に入っていただけて何よりです」

「でも僕、お腹空いちゃったな。クレープ食べたいんだけど」


 ここまで来るのにだいぶ歩いたのだ、お腹が空くのも仕方ない。


「分かりました。では」


 紙袋から二つのクレープを取り出し、ストロベリーホワイトの方をルカ王子へと渡す。


 私の方はバジルチキンなので、ほぼ無臭。微かに香ばしいような匂いがあるだけである。それに対し、ルカ王子のストロベリーホワイトからは、苺特有の香りと、いかにも甘そうな香りが漂っている。美味しそうな雰囲気ではあるが、私には、少し甘すぎるかもしれない。


「美味しそう!」

「そうですね。良い香りが漂っていますね」

「じゃあ食べよう!」


 私とルカ王子は目を合わせる。そして、一度だけそっと頷き、それを合図に同時に発する。


「「いただきます」」

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