25話 街へと出発
一週間後、私とルカ王子が街へ出掛ける日が来た。
朝食をとり、身支度を済ませてから、私たち二人は城の外へと歩み出す。数名の侍女に見送られながら。
「無事お出掛けできて良かったですね、王子」
「うん! 久しぶりでワクワクするよ!」
そんな何げない言葉を交わしながら、私とルカ王子は歩く。
今日のルカ王子は、街を歩くから、と動きやすい格好をしている。日頃のような豪華な服装ではないが、それでも、ルカ王子が放つ空気は「明らかに平民ではない」と感じるようなものだった。
しかも今日は、謎の小さな鞄を持っている。開いた手のひらより小さいくらいの、本当に小さい鞄だ。
「王子、その鞄は何ですか?」
「えっ? あ、えーと……これはただの荷物だよ」
「荷物?」
「う、うん! そうだよ!」
怪しい。
嘘をついていそうな感じがする。
ルカ王子の返答に対して、私はそう思ったが、これ以上突っ込むことはしないでおいた。彼のことだ、べつに、危険なものなんかは持っていないだろう。
一方、私はというと、ドレスは免れたもののワンピースを着ることとなってしまった。大層なドレスに比べればまだましだが、ワンピースでも、やはり違和感を抱かずにはいられない。
「それにしてもフェリスさん、そのワンピース似合ってるねー」
ルカ王子は褒めてくれた。
だが、こういった女性的な格好をして道を歩くというのは、どうも慣れない。
サーモンピンクのワンピースなんて……こんな可愛らしい服を着る日が来るとは、夢にも思わなかった。確かに可愛いとは思う。が、私に相応しいとはとても考えられない。
「そうですか。私としては、少し不思議な感じがするんですが」
「慣れない感じ?」
「はい。このような服を着て出掛けたことがあまりないので」
「そっか。でも大丈夫、すぐに慣れるよ」
慣れない服装なだけで戸惑っている私とは対照的に、ルカ王子は呑気だ。城を出て、慣れないはずの街を歩いているにもかかわらず、いつもと何一つ変わらない様子である。このぶれなさは、ある意味才能かもしれない。
「それで、王子。どこへ行かれます?」
石畳の道を歩きながら、私はルカ王子に尋ねる。
「うーん……フェリスさんのお勧めの場所とか?」
「どのような場所が理想ですか」
「えっとねー……ゆっくり過ごせそうなところとかかなー?」
ゆっくり過ごせそうなところ、か。
周囲を気にせず寛ぎたいのなら、やはり、混雑していない場所が理想だろう。だが、街はどこもかしこも人で溢れている。
……いや、溢れている、は言い過ぎかもしれないが。
しかし、街に人が集まっていることは確か。それを避けたいのなら、街の中心部からはやや離れた辺りが望ましいと思われる。
「郊外でも行きます?」
「いいよー。そこには何があるの?」
「城下町を見下ろせる塔とか、ありますよ」
「へーっ! 凄いね!」
楽しそうな顔をしているルカ王子を見ていると、こちらまで楽しい気分になってくる。
これまでは、こんな風に誰かとのんびりと歩くことなんてなかった。歩いてみたいと考えてみたこともなかったと思う。けれど、いざこうして体験してみると、案外楽しいものだ。悪くはない。
「行きます?」
「うん!」
郊外の塔へ行くことに決まりそうだ。
「食べ物でも買っていきましょうか」
「え。食べ物を買うの?」
まさか、食べ物を買うという意識がないなんて。ルカ王子の感覚は、やはり、平民の感覚とは異なっているようだ。
「はい。街では食べ物は買うものです」
「そっか。じゃあもっとお金持ってきた方が良かったかな。そしたら、フェリスさんにお腹いっぱい食べてもらえたのになー」
「そんなに食べませんよ……」
彼は私がそんなに大食いだと思っているのだろうか。心外だ。
だが、ルカ王子に悪気はないのだろう。それは分かっているから、私は、これ以上何も言わないでおくことにした。悪気がないものを一方的に責めるのも可哀想だと思ったから。
「何が良いですか」
「どんなものがあるの?」
「おかず系ならパンや肉、スイーツ系なら果物やクレープなんかが、よく見かけるものですかね」
「じゃあクレープで」
ルカ王子は即答。
「クレープ……なんとなく可愛いですね」
「そう?」
「はい。可愛いイメージです」
そんなこんなで、私たち二人は、クレープの店へ立ち寄ることに決めた。




