馬鹿な冒険者に福音の到来【9】
しかしながら、シリアは言うのだ。
「ミナトが身体を張って止めてくれたお陰で、パインさんも女神・ココナッツも無事に済んで、全てが丸く収まったんだ……ってさ? 全く、相変わらずやる事が凄いと言うか……綺麗な女子を相手にしている時だけ、無駄に格好付けちゃうって言うか……本当に困るよ……」
快活な口調で答えて行くシリア。
だけど、後半に掛けて、地味に切ない顔へと変化して行き、声のトーンも弱くなっていた。
シリアとしても、ミナトの頑張りと……その成果だけは誇らしいのだろう。
だから、明朗な表情を最初は作っていたのだが……その結果、パインの他にココナッツと言う、とんでもない存在が恋敵になってしまいそうで、切なさが言葉にも反映されていた様に見えた。
少なからず、リオにはそう見えたし、実際に間違いではないだろう。
その証拠に、
「……はぁ。これからどうしようね? リオちゃん? ミナトは馬鹿だからココナッツさんの気持ちなんて分からないかも知れないけど……それでも、限度ってのがあるだろうし、パインさんの場合は変な人だから、ミナトの事が好きであったとしても、ミナトの方が嫌がるだろうから……まぁ、ここはあんまり心配してないんだけどさ?」
心から憂いに満ちた顔になって言うシリアの姿があった。
心配はしてない……と、口では言っていたが、密かにパインに関しても侮れないとは思っているだろうし、それ相応の警戒はしているんじゃないのかと思われる。
他方、リオの場合はパインこそが一番の強敵だと感じているぐらいだ。
リオは知っている。
今のミナトは……パインに一定の異性的な感情を持っている事を。
本当は考えたくはない。
だけど、やっぱり考えてしまう。
ミナトは、なんだかんだでパインに甘い。
最終的には、パインを擁護する。
広い屋敷になったと言うのに……パイン専用の個室がちゃんとあると言うのに、それでもパインが自室の寝室で、一緒のベットに寝ていたとしても全く驚かないし、許容してすらいる。
まぁ、一緒のベットで寝ている事に関して言うのであれば、これまで一緒にそうしていたので、良い加減慣れが生じているだけなのかも知れないが……どちらにせよ、ミナトはパインに対して『最終的には甘くなる』と言うのが、リオなりの見解だ。
口では『あの野良女神は、本当に残念過ぎて困る』とか、平気で口にする癖に……だ?
言葉と行動がそぐわない。
……いや、或いは……言葉と言う概念を飛び越えた所に、二人の間には強い絆が生まれているのかも知れない。
……と、ここまで考えた所で、リオは考える事をやめた。
なんとなく、これ以上考えると……より苦悩してしまいそうな気がした。
自分が惨めになってしまいそうな気がして、ちょっと怖くなった。
思い、思考のベクトルを強引に変更してみせる。
その辺りで……思った。
「それより、シリアちゃん? 学校でチア部の助っ人をしたのは分かるんだけどさ? どうして、まだそんな格好しているの? 大会はもう終わったんだし? 普通は制服に着替える物じゃないの?」
「……え? ああ、えぇと……こ、これはね? ちょっと……その、制服が汚れちゃって……」
ああ、これは嘘だな……と、リオは思った。
どうして、そこで直ぐバレそうな嘘を吐くんだろうなぁ? とかって思うリオ。
そして、間もなくその答えを『チーン♪』っと導き出した。
「もしかして、その格好でお兄ちゃんをそれとなく誘惑するつもりだった……なんて事はないよね?」
「な、なななっ! 何を言ってるんだよリオちゃん! そ、そんなはしたない事を……するなんて、ないと思うよ! そりゃね? チア部の友達がさ?『シリアさん、その格好とっても似合ってますよ? 意中の殿方が今のシリアさんの格好を見たら、イチコロかも知れませんわね?』なんて言葉に踊らされて、ちょっと一日だけ借りている……なんて事はないんだから!」
……ああ、やっぱりそのつもりだったのか。
まるで驚いた猫の様に『ビクゥッッ!』っと露骨に反応していたシリアの態度を見て、リオは呆れ眼になりながら内心でぼやいた。
しかも、チア部の部員が余計な事を冗談半分に言ったら、それを間に受けて、本気でチアガールの格好をミナトに見せようとしていたりするのだから……まぁ、なんと言うか草しか生えない。
きっと、その事実を知ったら、ミナトもシリアの天然っぷりに呆れすら抱くのではなかろうか?
あるいは『意中の殿方』とやらが、自分である事を知って、シリアにときめいたりもするのだろうか?
いや、それはないだろう。
何故なら、ミナトは馬鹿なのだから。
「……まぁ、お兄ちゃんに色仕掛けをした所で、何がどうなるとも思えないけど……きっと、普通に呆れた顔されておしまいだと思うよ?」
リオは、嘆息混じりに答えた。
きっと、リオの答えた結果が、一番現実的であろう。
少なからず、ミナトとはそう言う男なのだ。




