馬鹿な冒険者に福音の到来【1】
世の中ってのは、何が起こるか分からない。
一寸先は闇かも知れないし……逆に、思わぬ幸運がやって来る事だってあるかも知れない。
実際には、何も起こらない事の方が一般的で、変哲知らずの毎日が、呑気に自分の眼前へと当然の様にやって来る事の方が一般的ではあるのだが。
「……こんな事って、ある物なんだなぁ……」
ビミョーにポカンとなってしまい、未だ現実味がないと言うか……実感の湧かない顔になって呟いていたのはミナトだ。
つい、先日……成り行き半分そのままに、流される様に引っ越しを敢行していたミナトは、新居となるやおら広い部屋にあるソファに座っていた。
一応、自分の部屋である為、自宅と表現するのが一番しっくり来る言い回しになるのだろうが……正直、全然自宅にいると言う感覚がない。
……と言うか、豪華なホテルか何かにやって来ているかの様な感覚で、どうにもこうにも……落ち着かなかった。
「なんだろうな……これ?」
ビミョーに居心地の悪さを感じていたミナトは、どうにも複雑な心境のまま、浮かない顔になって口を動かして行く。
ハッキリ言って、今ある環境はいつもの部屋と比較すると……言うまでもなく、圧倒的に素晴らしい。
比較するのもおこがましいレベルだ。
何もかもが別世界過ぎて、何処から述べて良いのか? それすらも悩んでしまうレベルである。
だからだろう。
「ヤベェな……こんなにソワソワするとは思わなかったぞ……」
地味に自己嫌悪するミナトがいた。
なんて事はない。
常日頃から、貧乏臭い環境にどっぷりと浸かり過ぎてしまい……絢爛豪華な環境に、全く慣れないのだ。
簡素に言うのなら、貧乏性が骨の髄までミナトの精神に染み渡っている訳で。
「……はぁ」
ゴージャスな環境にいると、むしろリラックスが出来ないと言う……もはや、貧乏人の教科書みたいな心情になっていたミナトは、地味に貧乏臭い自分の性質に落ち込んでしまった。
しかしながら、身体と言うか……心は正直な物で、
「俺だけでも、元の家に戻ろうかなぁ……」
どうにももうにも、居心地の悪さを痛感していたミナトは、ボソッ……と誰に言う訳でもなく呟いた時、
「帰るのですか! それはアメージングな台詞ですよミナトさん!」
ミナトが座っていたソファの後ろから、パインの顔がニュインッッ! っと出て来た!
「うおわっっっ⁉︎」
突発的にやって来たパインの言葉に、ミナトは思わずソファから飛び上がる。
ハッキリ言って、心臓に悪いったらない。
「い、いきなり後ろから声を掛けるなよ! ビックリするじゃないか!」
……と言うか、人の部屋に入って来たのなら、せめてノックぐらいしろよ! と、言ってやりたい気分になっていたミナトは、未だ驚きの余韻が残っている状態のまま、パインへと非難がましい台詞を叫んでいた。
「いきなりではないですよ? パインさんは密かに三十分前には、この部屋に潜伏しておりました! だって暇だから!」
「暇だと言う理由で、勝手に人の部屋に三十分も潜伏してんじゃねーよ! マジで何がしたいんだよ!」
「ミナトさんの部屋に居たかったに決まってるじゃないですか!」
どんな理屈だよ!……と言ってやりたくなる様な台詞を臆面もなく断言するパインがいた。
今日も野良女神は、安定で奇人をしている模様だ。
「そんな事よりミナトさん! さっきの言葉は、実にナイスな判断です! おおよそ、ミナトさんの心理を読むと……ボロボロの荒屋でしかなかった、元々の自宅の方が、なんだかんだで自分の家にいる感じがして、すんごく落ち着くんですよね? 安らぐんですよね! つまり、貧乏万歳!」
「最初から最後まで否定する事が出来ない自分が悲しいんだが?」
貧乏と言う部分も加味して当たっていたが故に、ミナトは地味に悔しそうな顔になってパインに声を返す。
正直、自分が日常的に貧乏な生活を送っていた事実を知り……かつ、そんな暮らしがなんだかんだで自分には性に合っていたりもするんだから……まぁ、悲しい事実である事には違いない。
「パインさんも分かりますよ〜? ええ、そうですとも! この部屋は大きいんです! 広過ぎるんです! 自分の部屋からトイレに行く……だたそれだけの距離なのに、コンビニ行けるんじゃないのか? って勢いで歩かないと行けません! もはや、ここで引き篭もりをしたら、日々の生活で自然とウォーキング出来ちゃうんじゃないの? って勢い! ぐーたらなミナトさんには耐えられない家だと言う事は、このパインさんには良く分かります!」
「俺は、そこまで横着者じゃないぞ……?」
まぁ、確かに広過ぎて不便だとは思っていたけど……と、胸中で付け足しながら、ミナトはパインの言葉を軽く否定していた。




