破滅の女神とは【29】
「……いや『およ?』じゃないわよ! ついでに、ビミョーに可愛く小首を傾げるんじゃないわよ! 地味に気持ち悪いわね!」
「気持ち悪くないだろ! それはみかんさんに失礼だ! 全みかんに謝れ!」
「そんなの、謝る訳ないでしょ! それより、チェックインしないと! もう夕暮れなんだから」
「……およ?」
「……コ、コイツわぁ……?」
またも、無駄に可愛く……今度は人差し指を口元に置いた状態でやってみせたみかんに、りんごのフラストレーションが急上昇して行くのが、自分でも良く分かった。
しばらくして。
「……実は、だ? りんご。この街には結構有名な国営カジノがある。街の規模に反して、かなり賑わっている国営のカジノだ」
みかんは、いつになく神妙な顔になってりんごへと答えた。
「……それがどうしたと言うの?」
みかんの言葉に、りんごは声を返した。
けれど、地味に口元が引き攣っていた。
何となくだが、いやーな予感がしたのだ。
そもそも、話の切り出し方が『カジノ』だった時点で、嫌な予感しかしない。
「このカジノに、実はういういさんと二人で一緒に出掛けていたんだ。いよかんにはまだ早過ぎると思っていたから、いよかんが寝静まったのを見計らってな?」
「……へぇ? それで、私も居なかったんだけど? どうして私には声を掛けなかったの?」
「本当はお前も声を掛けようとは思っていた……だが、悲劇が発生したのだ……何と、いよかんが寝た頃には、既に……りんごは爆睡! もはや、核弾頭が落っこちて来ても起きない! 嗚呼、無情!」
「そこまで酷くないわ!」
「仕方ないので、ういういさんと二人で夜の国営カジノに向かった……そして、ここでも新たな悲劇が!」
みかんは、声高に叫んだあと、大仰なまでに両手を広げ『ババーンッッ!』って言う、効果音でも鳴りそうな雰囲気を醸し出していた。
「………」
それら一連の流れを見て、りんごは無言。
程なくして答えた。
「……もう良いわ、オチはもう見えたから……」
馬鹿馬鹿しさが何歩も先を行っているかの様な顔になって言うりんご。
他方のみかんは、地味に必死になって訴え掛けるかの様な態度で慌てて口を動かして行った。
「待て、りんご! 実は、色々なドラマが展開されたんだ! 本当だぞ! 特に最初は調子が良かった! ハイライトシーンで、もう一度!」
「しなくても良いわ!」
「ともかく、本当に最初は好調だった!……しかし! 悲劇の運命は、最後に待っていたのだ! 最後の最後!『今日は沢山儲けたし、ポーカーやって終わりにしないか?』とか言う、ういういさんの言葉に乗らなければ! ああ! あれが、みかんのギャンブル人生における、大きな大きなターニング・ポイントだった!」
みかんは、これまた大仰なばかりに悲嘆する。
果たして。
「だから、もう良いと言ってるでしょ! つまり、宿屋のお金すらカジノで全部スッて、一文無しだからチェックイン出来ない……って言うんでしょ?」
りんごは、ひたすら呆れる口調で言う。
「つまり、そうだ!」
みかんは胸を張り、背景に『えっへん!』って感じの描写がされそうな勢いで頷いた。
「威張って言うんじゃないわよっっっ!」
もちろん、りんごにソッコーで怒られた。
怒られても仕方ない行為である事だけは確かだった。
「……はぁ……もう、本当にバカね?……それで? どうするつもりだったの?」
「もちろん! しばらくは野宿で過ごそうとしたのさっ! 最初は、小銭でも良いから冒険者協会に行って、クエストを受注しようかな?……と、思ったんだけど、思えばいよかんの所持金はちゃんと残ってるから、しばらくは本当にお金が必要な時に、いよかんへと土下座して借りようと思ってたのだ!」
呆れて物が言えない心境に陥りつつ……それでも、辛うじて声を吐き出す事が出来たりんごが居た中、みかんは大きく胸を張り、やっぱり『ドドーンッ!』と大仰な文字がデッカク背景に生まれて来そうな勢いで叫んで居た。
「だから! いちいち威張るんじゃないわよ! 本当! アンタには羞恥心って言う物がないの!」
「そんなもの! あるわけないわ!」
「ちゃんと持ちなさいよ! 胸張って言うなっ! ってか、本当に羞恥心がなさ過ぎなのよ! アンタわぁぁぁっ!」
りんごの喚き声がキータの夕暮れへと、無駄にデッカク響き渡ったのだが……余談程度にして置こう。
こうして、キータの街に生まれた一つの脅威が、人知れず過ぎ去ろうとしていた。
一つ間違えれば大惨事となったであろう、破滅の女神と言う脅威が。
キータ国を揺るがす、最大にして最悪の女神は、偶然やって来ていたりんごによって、無事に事なきを得た。
……そして。
かつてのアダムとイヴは、また新たな日常を取り戻し……思い出の一ページを紡いで行くのである。




