破滅の女神とは【5】
「……え? ちょっ、シリア?……ぶわっ!」
純情な感情が大爆発しまくって、物理的にも大きな衝撃を受けたミナトは、心情的に吹き飛ぶんじゃないのか? と言いたくなる勢いで突っ込んで来たシリアを必死で抱き止めた。
ハッキリ言って、洒落になってない勢いだった!
冒険者として三年間頑張って来たお陰で、身体を色々と鍛えたから耐えられたけど、普通の人間だったら間違いなく内臓破裂級の衝撃だった!
冒険者してて良かったと、この時ほど思った事はない。
「い、いきなり何をするんだよシリア! 俺を弾き飛ばす気かっ⁉︎ 俺はアメフト選手じゃないぞ!」
そう言うあなたは、どうしてアメフトを知っているんだよ? と言いたくなる様な台詞を非難がましく叫んでいたミナトであったが、
「良かった……良かったよぅ……ミナトォォ……うぇーんっっ!」
いきなり泣きつかれてしまった為、地味に上昇していた怒りも萎んでしまう。
ミナトの視点からすれば、りんごに胸を突かれた辺りから記憶がない。
良く比喩的に『あなたにハートを撃ち抜かれました!』みたいな台詞があったが……まさか、比喩でも何でもなく、リアルに胸を撃ち抜かれる日がやって来るとは思わなかった。
どちらにせよ、今のシリアが自分に泣きついているのは、自分が死んだ物だと思っていたからだろう……と、ミナトなりに予測する。
地味に客観的な観点になってしまうかも知れないが……かく言う、ミナト本人も『これは死んだ!』と、本気で思っていた。
故に、シリアも自分が死んだ物だと勘違いしたんだろうなぁ……と、理解出来る。
そう考えると、
「なんか、悪いな……なんてか、迷惑を掛けた」
ミナトは苦笑のままシリアに答えると、
「ううん……良いの。ミナトが元気なら……ちゃんと生きてるなら……それだけで良い!」
シリアもまた、ニッコリ笑顔でミナトに声を返していた。
……と、この様な流れで、ミナトとシリアの二人が密着したまま会話を続けている中、
「………」
パインは顔を真っ赤にしていた。
額にはデッカい怒りマーク。
頬は、まるでリスの亡霊でも憑依したんじゃないのか?……って勢いで『ぷくぅ〜っっ!』っと膨らんでいた。
そして、瞳からは今にも涙が溢れそうな勢いになっており、両手はギュッと握られた状態で、フルフルと震えていた。
もう、これぞまさに『私はヤキモチを妬いております!』の図だった。
ここまで典型的過ぎると、地味に草が生えてしまいそうである。
……果たして。
「ミナトさん! シリアさんはこれから登校するんですよ! いつまでシリアさんの妨げになっているのですか? シリアさんはミナトさんと違って、暇人ではないのですからね!」
「俺だって、そこまで暇じゃねーよっっ!」
眉を徐に釣り上げた状態で、自分の思考に存在しているだろうフラストレーションをあらん限り吐き出すパインの姿があった。
そんなパインは思った。
この感情は、とっても面倒だ!……と。
冷静になって考えて見れば、シリアは単純にミナトを心配していたからこそ見せている態度であって、そこに特別な感情が芽生えている様子はない。
まぁ……実は『あれ?……これって、告白するチャンスなんじゃ?』って感じの事を考え始めていたシリアがいたんだけど、取り敢えず細かい事は置いておく。
何にせよ、単純にミナトを心配していた『だけ』と見て取れる為、パインもパインで一緒になって『うん、良かった!』と、共感すれば良いだけの話……で、終わるレベルなのだ。
それなのに……その筈なのに。
パインの心には、溢れんばかりの猛烈な焦燥感が、あたかも滝の様に『ドドドドォォォォォォォォッッッ!』と、押し寄せて来る。
同時に、途方もない切なさと恐怖が、次から次へとやって来る事も実感していた。
ミナトがシリアに取られてしまったらどうしよう!……と、焦る気持ちと恐怖が、ダブルでやって来てしまい、居ても立ってもいられない衝動に駆られてしまったのだ。
何より、パイン的に言うのであれば、
「ミナトさんに主張します! まずは、シリアさんよりも先に『パインさんを見るべき』です! ここは最低限、やらないと行けない義務なのですよ? 覚えて下さいね!」
「そんな義務があるかぁぁぁっっ!」
猛然とがなり立てて来るパインの言葉に、ミナトも同じレベルの喚き声を張り上げていた。
会話は、地味にグダグダとなって来てしまった。
程なくして、ミナトはハッとなる。
「……まぁ、俺はこの通り、ピンピンしてるから心配はするなよシリア。それよりも学校があるんだろう? 遅刻するぞ?」
「今日は公欠にするから大丈夫!」
苦笑して答えたミナトの言葉に、シリアはニコニコ笑顔のまま声を返した。
普通に、笑顔でズル休み宣言をしていた。




