英雄化#2
「話がずれたな、戻そう。
ハチが我々と普通に交流できるのは、今届けたメッセージと同じだよ。
お互いに異世界の情報機器を使い、しかも異世界のネットワークを通している。でも、ちゃんと意味のあるメッセージが届いたわけだろう?」
「うん……ああそういうことか」
つまり。
ニンゲン同士、こうして交流する程度のレベルなら、世界が変わったくらいではディスコミュニケーションが起きないってことか。
「わたしたちの初対面は夢の中だったよな、ハチ。
つまり異世界人と我々でも、夢を見る程度の表層思考では変わりがないということだ」
「うん」
「でもなハチ、あの夢でどうしてわたしが、おまえの夢に捕らえられるような大失態を犯してしまったと思う?」
「え?」
それは。
「ごめん、それはわからない」
「深層のまだ深い底、動物としての根底部に小細工しようと思ったんだが、あまりの構造の違いにビビッてしまってねえ。
つい、白血球に見つかってしまってねえ。いやぁまいったまいった」
ってオイ。
「……俺の根底部に勝手に潜って、何をしようとしたんだ?」
「あ」
「オルガさん?」
「いや、その……もう問題ないからいいんじゃないかねえ?」
「何が問題ないのか、その内容によるな」
「……」
オルガは観念したようにうなずいた。
「わたしを見ても警戒心を抱かないようにしたかったんだよ」
「え?」
「いや、だってそうだろう?
異世界人なんて、普通はすぐ捕らえられる。おそらく会えるのは奴隷化された後だから、穏便に会うのは難しいだろうと思ったわけなんだよ」
「……」
「いや、すまないとは思ってる。わたしがハチの立場なら激怒してもおかしくない案件だからねえ。
けど、わかってほしい。
わたしはハチとなんとか交流をもち、奴隷にされていたら支配を解除してやるつもりでいたんだ。
これは本当だぞ?」
「……」
なんというか。
オルガが本気でそういっているのはよくわかった。
だから俺はためいきをついた。
「まぁいい、悪意がないのはわかった」
「もちろんないとも!」
「だけど、何もないというのはちょっと気分的によくないな。
とりあえず、あとで埋め合わせしてもらう事で手を打とうじゃないか。それでいいか?」
「あ……ああ、わかったとも」
オルガは俺の言いたいことを理解したのか、ちょっと赤面しつつ目をそらした。
「またまた話がそれたな、戻そう。
メッセージにしろ夢の中の邂逅にしろ、これらは『あぷりけいしょん』の上に流れているものにすぎない。だから普通に交流できるわけだな」
「……あー、そういうことか、なるほど」
スマホで見ようがパソコンでみようが映画は映画。システムとコンテンツは関係ないからだ。
だからこそ。
俺たちがこうして意思を交え、普通に交流できるのはそういうことなのか。
「話を続けるぞ。
おまえがこの世界の魔法を使えない、その理由はつまりそういう事だ。この世界の魔法は当然、その世界の者の基本OS上で動くようにできてるんだからな。
だがここでひとつ問題がある。
我々は人間だ。その意識構造は機械である『パソコン』よりも複雑で厄介なものなんだ。
ゆえに、計算違いが起きる」
「計算違い?」
「事実ハチ、おまえは魔法が使えているだろう?君自身で生み出したオリジナルではあるが、魔法のない異世界で、魔法がない前提でココロを構築してきたはずのおまえがだ。
そしておまえ以外の来訪者も同様だ。
もちろん時間と手間はかかる。
発動するけど、思うように制御できない事もあるだろう。
しかし、きちんと魔法発動の原理を自分なりに飲み込み噛み砕き、自分のものにしてしまえば、最終的には望みどおりの内容で、望みどおりの威力で魔法を発動できるだろう」
「おお!」
そうか。
手間はかかるが、ゼロからやれば使えるって事なのか!
「だがなハチ。この事自体が、非常に危険なことでもあるんだ」
「?」
「わからないか?
つまり、発動初期の状態……とりあえず起動には成功したけど、うまく制御できないって状態が非常に危険だと言っているのさ」
「……」
「赤い炎を出すつもりが青い炎が出ました、というのなら単に調整すればいいだろう。
だがな。
腕力を二倍に引き上げるつもりが何十倍に強化してしまったらどうなると思う?
耐えきれなかった筋肉や筋がグチャグチャに断裂する、あるいは立ったまま全身の骨という骨が砕けて死ぬ可能性だってあるんだぞ?」
「!?」
俺は一瞬遅れてその風景を想像し、ゾッとした。
さすがに冷や汗が出た。
「……何とかする方法はあるのか?」
「うむ、それについて考えていたんだ。
現状でいえば、ハチがそんなもの使う必要もなければ可能性もないだろう。
何しろ、おまえは身一つの存在ではないからな」
「……あー、それは」
そりゃそうだ。
「おまえには愛車がいて、そして仲間が、連れがいる。
おまえひとりを強化して戦っても、その大切な仲間を守りきるのはむしろ困難だ。
で、おまえならどうする?」
「……必要なのはむしろ正面突破能力だろう」
俺だけが強くなっても仕方ない。
必要なのはむしろ、このキャリバン号に乗った状態で包囲網を突破したり、一時的に安定状態でスピードアップし、追手を振り切ったりといった方向性のはずだ。
「なるほど、俺ひとり強くなっても意味がないな」
「うむ、そういうことだ」
単体で強くなっても、キャリバン号を置き去りにしてしまったらなんの意味もないからな。
俺は、ダッシュボードに入れてあるマテバのことを考えた。
武器を作ろうと思った時、俺は飛び道具しか考えなかった。理由は、俺自体が近接戦闘なんてまったくの素人だったし、なにより、俺には「ニンゲンの戦い」といえば、高性能ハンドガンなどで怪獣にも立ち向かう、昔の子供向け特撮番組の防衛隊の姿があったからだ。
まぁ。
俺は剣士でもヒーローでもない、ただの素人旅行者だからな。
そこまで考えた時、俺はふと気づいた事があった。
「なぁオルガ」
「ん?」
「だったら、魔法陣はどうなんだ?」
「え?」
そう、そうだよ。
「魔法陣って安定してるんだろ?俺でも普通に火の魔法陣で調理できたよな?」
しかも、こんな古代トンネルの中で。
「それはそうだ、あれは固定された術式に魔力を注ぐわけで、たとえハチでも……!」
そこまで言ったところで、オルガも気づいたらしい。
「……そういうことか、ハハ、わかったぞハチ!おまえの言いたいことが!」
そしてなぜか大笑いをはじめた。
「お、おい、言っとくけど、当てずっぽうだぞ?おまえの本でようやく、一番簡単な点火ができただけの俺の言葉だぞ?」
「だが的を射ている!
まさか、まさか魔法陣の術式を人体に使うとは!
これは盲点だった!そうか、その手があったか!!」
「……」
なんか知らないけど、オルガはなんかスイッチ入ったっぽい。
「……」
とりあえず、落ち着いてから事情を聞くことにした。




