英雄化
英雄化ってなんだ?なんかこう、金色の戦士になってぴかーっと……って違うよな、やっぱり。
そんなハチの疑問をよそに、物語は続いていくのであった。
サイカさんたちはとりあえず調査を続けるということで、そのまま別れた。
『まぁ、ハチもオルニャんの身内ならまた会えるニャ、今度は飲もうニャ!!』
『はい、どうもありがとうございました!!』
聞けばサイカさんは酒好きだとか。
うむ。
実は俺、バラサの夜以来まともに飲んでないんだよなあ。
アイリスやオルガに止められたわけじゃないぞ。
そもそも運転手が俺ひとりだからってのが大きいわけで。
「ねえパパ」
「ん?」
「お酒飲みたいならいいよ?運転できるレベルなら問題ないし、けーさつもいないし」
「ありがとうよ、気持ちは嬉しいが、それはダメなんだ」
「なんで?」
アイリスの言葉に俺は苦笑した。
「いいかアイリス、そりゃ逮捕はされないだろう。おまわりさんもいないし、アルコール検査もできないしな」
「うん」
「でもな」
昔、とある偉い人は言った。
酒は百薬の長ではあるけれど、同時にあらゆる病は酒が原因であると。
しかも言った本人、それでも酒をやめられなかったそうだ……むごい。
って、話がずれたか。
「酒はな、時々飲むからいいんだ。いつも飲んでいたら中毒になるし、自主的にきちんと線引きするべきなんだよそこは」
「そうなの?」
「そうだぞ。
だいいち、南大陸に渡るまでは落ち着いて飲めないよ。人間族を振り切らないとな」
「そっか、そうだね」
アイリスはうなずいた。
ところで今、ちょっと問題がある。
「……」
サイカさんと別れてからこっち、オルガがじっと考え込んじゃってるんだよな。
俺は運転しつつ周囲を見続けてるけど、ここは一度サイカさんたちが調査している。ということはつまり、突然に溝があって落ちたりする心配はたぶんないだろう。
なので。
今のうちに質問してみる事にした。
「オルガ」
「ん?」
「もしかして、英雄化ってヤツのことを考えてる?」
「……」
オルガは無言で、俺の方を少しきつい目で見てきた。
「いや、気にさわったらごめんな。
だが俺にはさっぱり事情がわからないんだ。すまないけど教えてくれるか?」
「なるほど、たしかにそうだな……いや、わたしの方こそすまん」
そういってオルガは苦笑した。
「英雄化というのはな、名前こそアレだが実態は強化魔法の一種だ」
「強化魔法?」
「身体強化など、内側に向かう魔法の……まぁ、ひとつの到達点だな。
考えていたのはつまり、おまえに『英雄化』が可能かどうかだ。なにしろ条件が難しいからな」
「条件?」
「ハチ。
おまえは今までアイリス嬢に、一度だって身体強化や加速化、鋭敏化の指導を受けていないだろう?
いやそれどころか、その存在すら伝えられてない。違うかねえ?」
「あ、うん。それは」
そういうと俺はアイリスを見た。
「アイリス嬢。
確認するが、ハチに強化系を提案してないのは危険だからで間違いないかねえ?」
「うん、そうだよ」
オルガの言葉に、アイリスが大きくうなずいた。
「わたしから説明するが、かまわないかねえ?」
「うん、かまわないよ」
「わかった」
オルガはなぜかアイリスに許可をとると、ミラーごしに俺の顔を見た。
「ハチ、ちょっと簡単に説明しよう。
まず、異世界人の思考はこの世界の者とは異なる。ハチが普通の魔法を使えないのはこのためである……ここまではわかるねえ?」
「おう。確か、パソコンでOSが違うようなもんなんだよな?」
「まぁ、おおむねそのとおりだ」
驚くべきことにオルガは地球のパソコンの知識も少し持っていた。さすがに触ったことはないそうだが。
それで概念だけでも知ってるのが、つまり天才ってことなんだろう。
「同じ機械でも、違う基本OSを使ったり、その上に乗せる目的別のあぷりけいしょんとやらを取り替えると別のものになるのだろう?」
「そうだ」
アプリのことも知ってるのか。
「そうやって中身を電気的にポンと取り替える事により、いちいち機械から再設計しなくても、様々な用途に活用されている。
そういう、極めつけの汎用性の高さが身上の情報機械だと聞いているが間違いないか?」
「ああ、おおむねその理解で間違いない」
言い方がアレだけど、かなり正確に理解してるみたいだな。
俺は技術者なんてお世辞にも言える人間じゃないが、まったくITに無知の人間にパソコンについて口頭で説明するなら、俺も似たようなことになってしまうだろう。
さて、話を戻そう。
「つまり魔法とはその基本OS上で走るプログラムのようなものだと思えばいいのさ」
「……つまりそれは、ひとのココロを基本OSに例えてるってことで間違いない?」
「うむ、正解だ」
そんな仕組みだったのか……。
「ニンゲンという機械の上で、ココロという基本OSが動いている。
魔法とはそのココロを使い、精霊分を操って引き起こす現象だと考えてくれ。
そう考えると。
異世界人でありココロの構造が違うおまえが、同じ魔法を使えないのは理解できるだろう?」
「……ココロの成り立ちが違う、つまりOSが違うから。
だからこそ、そのOS用に作られたアプリケーション、つまり魔法が動かないわけか」
「そういうことだ。
だが機能そのものは存在するわけだから、ちゃんとおまえ用に作られた魔法や、あるいはおまえ自身が設計した魔法は正しく動くと。まぁ、そういうわけだな」
「……ひとつ質問いいか?」
「何かねえ?」
「じゃあ、ココロのありようが違う俺は、なんでオルガやアイリスと交流できるんだ?」
「そりゃ、ココロの範疇が異なるからさ」
「ココロの範疇?」
「ちょっと待ってろ」
オルガはそういうと自分のタブレットをだし、そして何か操作した。
そして。
「え?」
胸にさしてあるスマホが、ポーンと着信音をたてた。
これ、ショートメールの音じゃね?
思わず左手でポケットから出してみた。
そして通知欄を見て我が目を疑った。
「……なん、だと?」
「どうだい、読めるかねえ?」
おいおいマジかよ。
通知欄には、こうあった。
『+66********* Hora』
ちゃんとショートメールになってるぞオイ。
国番号が66になってら。オルガがタイ人扱いか。
いや、それよりも。
「オルガ」
「ん?」
「もしかしてオーラと書きたかったのか?だったら Hola じゃないかな」
なんでスペイン語なのかは置いといてな。
ちなみに意味は英語のハローとほぼおなじはずだ、よく知らんけど。
「てか、どうやってこれ送ったんだ?」
「おまえの情報機器類だが、どうやって外とつながっているか考えたことがないか?」
「えっと、ある」
「そいつがつながってるのはな、精霊分を用いた情報ネットワークなんだ。真竜どのたちが使っているのと同じだな」
へええ。
「もちろん、使えているのには理由があるんだが……ドワーフの情報ネットワークは聞いたことがあるか?」
「いや、すまん。わからない」
「ドワーフの基幹ネットはとんでもなく高性能でな、今でもこの星の全域をカバーしているんだ。もう彼らの社会がこの星を去って長い時間が過ぎているというのにな。
しかも、その通信方式がおそろしいほど巧妙なんだ。
精霊分を使って通信する存在を検知するだろ?
するとな、制御している人工精霊……アイリス嬢の親戚みたいな統合管理者がいてな、その存在の通信プロトコルを解析してな、いちいちそれに対応してしまうんだ」
「……それって」
思わず、俺はダッシュボードのタブレットを見た。
「キャリバン号も自動登録されているってことか?」
「うむ、そうだ。だからこのタブレットからメッセージが届いたんだな」
「マジかよ」
「言っておくが、日本語が正しく届くかどうかは知らんぞ。
英数文字は使えるのを昔の論文で知っていたからな、それで試したわけだが」
「充分だろ」
頭が痛くなってきたぞオイ。




