異世界のトンネル#2
そんなこんなで異世界のトンネル探索をはじめた。
いや、その、なんていうか。
日本でもわざわざ古いトンネル見物に出かけていたし、確かに嫌いじゃない。
実際俺というのは、きらびやかな天守閣よりも山間の古時代の、おそらく百年単位で使われている名もない石垣とか、そういうものの方が見ていて楽しい種類の人間でもあるし。
しかし。
そういう昔の経験を持ち出すまでもなく。
「これ、おかしいだろ」
絶対おかしいぞこれ。
え、なんでかって?
だってさ。
ずっと昔に遺跡と化している、という話の大トンネル。
なのに。
まるで平成に作られた近代トンネルみたいにピッカピカなんだぜ?
いくらなんでも、これで『遺跡』ってのはねえだろ。
「ずいぶんとよく整備されているなぁ」
コンクリっぽい、でもきれいな壁面。ほこり一つ落ちてない風景に、俺はためいきをついた。
定期的にある灯火も壊れてるのなんて一つもない。
でも。
「綺麗すぎて面白くねえ……あ、いや」
思わず本音を言ってしまって、あわてて訂正しようとしたんだが、
「ふふ、正直でけっこうじゃないか」
「ははは……ごめん」
「いやいや」
オルガも笑っていた。
「実際、どんなにすごい設計でも、ほこりひとつないって事はないだろ。何百年だっけ?」
「一桁違う。記録どおりなら二千年前のはずだ」
おっと。
「なぁオルガ、これが二千年放置の風景に見えるか?」
「まさかだな」
で、なぜか試すように俺の方を見るオルガ。
「オルガ先生、先生の見解をお伺いしたいんですが?」
「ほう、ここで先生と呼ぶのか。
しかし、だったらまず生徒側の見解を知りたいねえ」
う、そうきたか。
「しかし、俺にはこっちの技術やトンネルの知識がないからなぁ」
「いや、むしろそれでいい。地球製のハチの見解で答えてくれないか?」
「地球の?なんで?」
「まぁいいじゃないか、まずは教えてくれないか?
もしハチが自分の故郷で、こんな古いトンネルに遭遇したらどうする?」
「……そうだな」
俺は改めて外の風景を見て、そして言った。
「これほど綺麗だと、まぁ昭和後期か平成のトンネルだな。つまりせいぜい30年そこそこ、長くても半世紀たってないトンネルだと判断する」
日本に数ある土木建築物の中でも、トンネルと公衆トイレは指折りに頑丈な部類に入る。特にトンネルは、広さなどで問題なければ百年オーバーのものでも当たり前に使われているわけで、息の長い近代建築のひとつと言えるだろう。
そんなトンネルだから、平成初期のトンネルなんざ、よほど周囲の土地に問題でもないかぎり、まず確実に新品同然のピッカピカなものだ。
で。
目の前の風景は、地球基準だと間違いなくそっちだ。少なくとも千年過ぎているようには見えない。
「興味深い、続けてくれるかねえ?」
どうやらオルガは、本当に興味をもっているようだった。
意味がわからないが、とにかく続けてみた。
「もし本当にここのトンネルが二千年過ぎているとしたら、それはおそらく誰かが管理しているんじゃないか?
それも、ただ掃除するだけじゃない。
古びてきたら補修をしたり、そういうレベルでだ」
「ふむ。根拠は?」
「もう共用されてないはずなのに電気……いや違うのか?とにかくエネルギーが通ってて、しかもホコリも見えないんだぜ?
しかも、壁面にはツギハギなどの修理跡がみつからない。
これはもう、あれだろ。
誰かが定期的に来て……しかも素人レベルでない、ちゃんとした管理業務をしていると見るべきだろ?誰がやってるか知らないけどさ」
「……なるほどな」
そこまで聞くと、オルガは大きくうなずいた。
「結論からいえば、保守はたぶんいるぞ。人間じゃないだろうけどな」
「人間じゃない?」
「そうだ。動いているところに遭遇できるかはわからないが」
ふむ?
「それはどういう……って、ありゃ?」
っと、ずーっと前方に何かいる?
「アイリス」
「なあに?」
「前方に何かいる!よくわからんが」
「え?」
そういうとキャリバン号を一時停止させた。
「ちょっと待って……」
アイリスは眉をしかめ、しばらく何かを探るように見ていた。
「パパ、大丈夫。生き物じゃないよ」
「これは……キミの世界でいう、噂をすれば何とやらってやつだろう」
「というと?」
「管理機械ではないかねえ」
「管理機械?」
「ハチにわかりやすくいえば、与えておいた命令通りに動き続ける魔術仕掛けさ。動力源はこの灯火と同じで、待機場所で受け取ってるんだろうさ」
「……」
「ハチ?難しかったかねえ?」
「いや、逆っス。これ以上なくわかりやすかった」
「そう?でもじゃあ、その反応は?」
「ちっょと返答に困っただけだ」
だって。
与えた命令通りに、ずーっと掃除や管理をするようになってて。
そして、仕事がすんだら待機場所に勝手に戻って自動的に充電すると。
それ、どこのル○バだよ。
お掃除ロボットじゃねえか。
そんなもんを魔術仕掛けとやらで作ってるっていうのか。
「オルガ」
「何かねえ?」
「そいつ、近づいても大丈夫か?」
「軍事拠点のやつだとまずいだろう。しかし、ここはただの道路だ。問題ないさ」
「ふむ。証拠はある?」
「軍事モデルなら、現時点でこちらに急接近するか警告してくるさ。何もないってことは、ただの作業マシンだからだな」
なるほど。
だったら。
「なぁオルガ」
「なにかな?」
「見てみたい」
俺は即答していた。
大きなトンネルにはよく、作業坑という小さな側道トンネルがあるものだ。これは工事中や災害発生時に使われるもので、本来のトンネルとの間には定期的に通路があり、そこから出入りできる事が多い。
具体的には、大きなトンネルの随所に少し広くなっているところを思い出してほしい。
そういう場所は非常時の緊急停車場にもなっているんだけど、よく見たら奥に必ず、そのさらに奥に入る扉があったり、非常時にはそこから避難するよう指示があったりするんだよね。
うん、そうだよ。それこそが作業坑の入り口。もちろん普段は立入禁止なんで、あまりウロウロと中に入るのはやめてほしい。おじさんとの約束だよ?
さて、話を戻そう。
肝心の作業マシンなんだけど、現物を見た俺はかなり驚いた。
だって。
「なんだこれ……ゴーレムってやつか?」
なんか、石か金属でできた蜘蛛みたいなのが、ゆっくりと動いてる。
八本足のうちの二本が作業用のアームらしいんだけど、そもそも、ネジ止めをしているような場所とか、バラせそうなところが全然ない。ボルトの一本、ネジ穴のひとつも見当たらない、のっぺりした大きな足の多いものが、ゆっくりと掃除しながら動いていた。
掃除は……ちゃんとできてるみたいだな。ホウキの先みたいなのもなきゃ、吸い込んでる気配もないのに。どうやってるんだ?
「オルガ、なんかネジのひとつも見えないんだが?」
「こういう作業機械は、壊れやすい機械部品を排除しているんだ。動作効率が低下するし早く動けないが、組み合わせた素材そのものを魔術的に変形させて動いてるのさ」
「うわ、汚ねえ!」
壊れやすいメカを排除して、長い年月の使役に耐えるようにしてあるのか。
「なるほど、ネジがなきゃ劣化するワッシャーもゴムもないってか」
機械部には必ず可動部があり、そして、そこは必ず摩耗や劣化を引き起こす。
この対策法は色々あるんだけど、まさか、自動機械でそもそも可動部を作らないって選択肢をとるとは。
なるほど。
根本的に発想が違うのがよくわかるわ。
「オルガ。これって自己判断で動いてるの?それとも司令塔があるの?」
「司令塔がどこかにあるはずだ。
いくら故障知らずにしていても長年の酷使にはやはり壊れるわけで、故障した個体の管理なども思うと集中管理のほうがいいはずだからな」
「じゃあ、その司令塔に問い合わせて調べる事はできないのか?」
「それは無理だな。できればシャリアーゼ側でとっくにやってる」
「そりゃ残念」
俺は肩をすくめた。
「ところでオルガ、あれの横を通過するのはまずいと思うがどうする?」
異世界の乗り物なんて真横を通ったら、こっちに害はなくとも誤動作の原因になるかもしれない。
そういうとオルガは「ああ」と言った。
「向こうに休憩所が見えるだろ?たぶんあそこで一度停止するはずだから、その間に抜ければいい」
「え、そういうものなの?」
「そういうものだ。
古代の文献にも、作業機械は休憩所に必ず立ち寄るので、道を塞がれている時はそれを待てと書いてあった」
「わかった」
しかし。
近代的コンクリトンネルのお掃除と維持管理を、魔法で動くゴーレムでやるとか。
うーむ、これが異世界か。




