古代街道を目指してみよう
余談だが、オルガが語尾に「ねえ」をつける時は、どうやら心理的に余裕がある時らしい。
余裕がなくなってくるとまず男口調になる。
そして、完全に余裕がなくなると物凄く子供っぽい物言いに変化する。こうなるとパニック中とか、本当にいっぱいいっぱいらしい。
まぁ、その、なんだ。
初対面の頃のあの妖艶な美人だとたぶん「チャーミング」ってことになるんだろうな。
しかし、今は下手すると女子高生かいなって外見になっちゃってるわけで。
特に、最後の子供っぽい口調だと、外見にさらに輪をかけて若く見えるので、本当にまるで女学生。
あれだ。
たぶんだけど、子供っぽい物言いを隠す習慣がついたのもわかる気がする。研究者としては……外見や物言いでナメられないようにって、もっと昔、本当に若かった頃についたクセなんじゃないかな。
え?今?
「ハチ、その生暖かい視線は何かねえ?」
「悪い、なんでもないよ」
まずい、目線に気づかれたらしい。
どうも魔族っていうのは東洋人的、しかもどっちかというと日本人的な容姿らしいんだよな。よりによって。
で、それでカワイイときたもんだ。
なんていうか……外見だけかもだけど人種的に近いところが、異人種な外見のアイリスと違って生々しくてちょっと困るんだよな、うん。
え?具体的に言え?
んー……たとえばさ、アイリスが風呂上がりに全裸で駆け回ってるとするだろ?
日本生まれ日本育ちで唯一出かけた外国がタイのバンコクだけって俺にしてみれば、北欧系人種の子供の容姿であるアイリスは同族の生々しさを感じないんだよね。ひたすらカワイイけど、それは子猫やお人形のかわいさだったり。微笑ましいし好ましいけどな。
ああ、もちろん「はだかんぼで走り回るな!」って注意はするけどね。
まぁ実際、俺はロリコンじゃないしな。
オルガが女学生的な外観に若返ったのだって正直ギリギリだったんだ。中身があの夢で会った美女だって理解できなきゃ、今みたいな関係にはならなかったろうと断言できる。
……全裸?
ああ、そういえば。
オルガが全裸でウロウロしていたら……それは……。
「ハチ、どうしたのかねえ?」
「うぇ!?な、ななんでもない!」
「……ふむ?まぁいいが?」
おっとあぶねえ!
なんかオルガの笑顔がニヤニヤ笑いになった。ま、まさか気づかれてないよな?
ふう、気をつけないとな。
「あーうーコホン、それよりもうひとつの問題なんだが」
「何かごまかしてないかねえ?」
「ないって」
その笑顔やめて、ホントやめて。リアルおじさんがアレなのは外見だけなの、中身はセンシティヴなんだよぅ。萎えそうだからホントマジで。
で、本題。
「それよりも、はっきり言おう。遺跡のトンネルなんて実用に使えないと思うんだけど、そこはどうかな?」
うん、問題はむしろそっちなんだよな。
キャリバン号は古い軽四で、今どきの高速道路網をバンバン使うには負荷が大きかった。だから、しばしば幹線道路を避ける時には情報機器を駆使し、抜け道を駆使したり旧街道を通ったりと、クルマの性能にあわせた古い時代の道を利用していた。タブレット置き場をとりつけてあったのもそのためなんだ。
そんな時、しばしば、今は共用されていない、いわゆる廃隧道なんかにも遭遇していたんだけど。
そう。
どんな立派で頑丈なトンネルでも、共用が終わって管理者がいなくなると荒廃は早い。
たとえば本体が頑丈で全然崩れてなかったとする。
でも、それでも出入り口に少しずつたまった土砂でせき止められ、それが原因で排水がきかなくなる。
排水がきかなくなると中に水や土砂が加速度的にたまり、洞内湿度が上昇。わずかなすき間やコンクリの弱い部分にも水が入り込み、腐敗と破壊を促進。
そしていずれ、組織の疲弊と自分の質量から崩壊を引き起こす。
どんないいトンネルだって、経年変化の前にはいつか壊れる。
特に前後の道ごと放置されたら、その寿命がくるのは驚くほど早いんだ。
ましてや遺跡状態の古いトンネルなんて……。
とても使えるとは思えなかった。
オルガはその話を聞き、なるほどなとうなずいた。
「ハチは古い建築物にも目がいくのか。頼もしいな」
「いや、道路関係だけだぞ?それに専門家じゃない」
「もちろんわかっているとも」
オルガは小さく笑った。
「わたしが言いたいのは、そういう方面に目のいく者は意外に少ないとうことだ。
たとえば立派な橋があるとするだろう?
普通の人は大きさや、そのデザインの立派さに目がいく。多少とも目のある人なら、これほどの巨大な橋をどうやって支えているのかって技術面も関心をもつかもしれないし、古い橋から今も通れるのかと考える者もいるだろう。
だがね。
経年変化や周囲の環境まで見て、疲弊の大きさを考えたり、断裂や崩壊のことまで考えつつ分析する者は意外に少ないんだ。一般人にとって道は道であり、そういう思想はむしろ道路を維持管理する側の考えだからね」
「そういうもんか?」
「そういうものさ」
オルガはうなずいた。
「使えるかどうかという件だが、ふたつの理由から問題ないと考えている。」
「というと?」
「見つかった痕跡なんだが、やたらと綺麗なんだ。まるで今も開通しているかのように。
しかも動力もつながっているし、乾燥した風も流れていた」
「……なに?」
さすがに驚いた。
いわゆる、詰まった廃隧道は風が流れない。貫通してないんだから当然だな。
そして大抵、逃げ場のない水により湿度が高くなっている。
なのに乾燥した風が流れているということは。
「貫通しているか、あるいは換気システムがきちんと動いているってことか。
ひともいないのにキレイってことは、保守のための何かが今も動いてると?」
遺跡なのに?
どういうことだろう?
「オルガ」
「何かねえ?」
「それって動力源はなんだ?どこから取ってるんだ?」
仕事をするためならエネルギー源が必要。
昔、見物しにいった千葉県の田舎の明治製の素掘りトンネルには、ちゃんと東京電力のマークの入った電気工事の跡があったぞ。戦後に電気工事をしたって事だろう。
使われていた灯りが蛍光灯なのには笑ったけどな。実は結構レアな光景だと思うし。
そんなことを考えていたら、オルガが「これはナイショなんだが」と前置きして教えてくれた。
「推測だが……南大陸、コルテアの一角に古代の動力炉が今も動いてるんだ。おそらく、そこからのエネルギー供給が絶たれてないんだろうさ」
「リアクター?」
古代から動き続けてる動力炉?
「まさか超古代からノーメンテで動いてるってか?どんなエネルギー炉なんだ?」
「さて、くわしくは知らない。おそらく核融合炉だと思うが」
ちょっとまてオイ。
「核融合炉?核融合炉の遺跡!?」
ウソだろうと思ったんだけど。
「ん?驚くようなことか?」
「驚くことだろう!」
核融合炉だぞ核融合炉!そんな危ねえもんが保守なしで動いてるなんて!
しかし。
「古代アマルティア人には人気の発電機だったらしいぞ。彼らの目線では枯れた技術で、一端動き出せば保守もいらず、何千年でも地中や海底で動き続ける便利な代物だったそうだが?」
「……」
そういや古代アマルティア人って、遠くの星から避難してきてた異星人なんだっけ?
うーむ、想像を絶するものがあるな。
でもそういうとオルガは笑って言った。
「そうか?確かに今の我々の技術ではたどり着けないが、遠い空の彼方というだけで空間的にはつながっているんだぞ?
わたしにしてみれば、つながっていない異世界人のハチの方が不思議な存在だがね」
「……そう来たか」
考えてみたら、俺ってここじゃ異世界人だもんな。宇宙人どころの話じゃないってか。
思わず、ためいきをついた。
そんな話をしていたら、アイリスが突然に動いた。
「パパ」
「ん?」
「地図にヘンな記号があるんだけど、これって何かなぁ?」
変な記号?
「点線みたいなものが、ずーっと」
あ。
もしかして。
「ちょっと待て」
そういうと、俺はとりあえずキャリバン号を止めた。




