地図
今さらだけど、俺のタブレットの話をしよう。
アイリスに使わせているタブレットは俺の愛用品で、ワンセグすらついてないシンプルなものだ。いわゆるSIMフリーってやつで格安SIMをいれてあるんだけど、本来はもちろん非常用。普段はキャリバン号に仕込んだwifi親機とつながっている。
しかし、言うまでもないけど異世界に基地局があるわけがないのに、なんでつながってるのかねえ。いや、ホント今さらなんだけどさ。
ちなみに地図ソフトも最初からついてたもので、当たり前だけど元々は異世界仕様じゃない。
なのに。
ちゃんと地球式の表示でなおかつ、異世界の地図が日本語で見られるこの不思議。
実際何がどうなっているのやら。
さて。
アイリスが発見したものだけど、それはトンネルのものだった。
「この破線がトンネルだよ。ほら、ここを見てごらん出入り口だ」
「これがそうなの?」
「ああ」
ちゃんと手前には堀割りもあるし、周囲の地形を考えてもきちんとトンネル入口になっているっぽい。
ああ……ただしつながる道はないみたいだけどな。
「オルガ」
「うむ、ちょっと見せてくれ」
タブレットを受け取ったオルガは、ああだこうだと見ていたが「ふーむ」という思案顔になった。
「地上部があるのか。どうなっているかは……さすがにわからないようだな」
さすがにストリートビューまでは入ってないようだからね。
「でもなぁ、さすがに開口はしてないだろ」
「ハチ、なぜそう思う?」
「いやだってさ、あいてたら動植物やら何やら入り放題になるだろ?」
「そうか?」
「そうかって……昼は涼しくて夜は温かいだろ、外に比べてさ」
ここは砂漠地帯なので、どうしても昼暑く夜寒い。
活動中ならともかく、生き物が休息するにはいい環境のはずだ。
それに。
「地下につづいているなら、なおさらだよ。昼間の暑さを避けて逃げ込む生き物がいると思うんだ。……開いてるなら」
今だって、キャリバン号が止まっているとエアコンの効きも悪いのか、じわじわ暑くなってくる。しまいにゃ壁なんかの金属部も熱くなるし。
そのあたりは、さすがに砂漠ってことだろう。
「ハチ」
「ん?」
「この地図の見方がよくわからないが……もしかして近いんじゃないか?」
「近いと思う。アイリスはどう思う?」
「……ここが本当に出入り口なら、東に70キロメートルくらいかな?」
「ふむ、オルガ先生どうする?とりあえず行ってみっか?」
「そうだな。ハチ、アイリス嬢、すまないが頼めるかねえ?」
「おう」
「わかったー」
「わんっ!」
「おんっ!」
なぜかケルベロスたちまで返事した。
そして約一時間後、俺たちはその場所にいた。
岩場の間に隠れ、一見するとわかりにくかった。
さらにいうと。
「これはちょっとわかりにくいわ。いやマジで」
「そうだねえ」
周囲はデコボコした岩場だらけで見通しがきかず、しかも目立った目印も皆無。そして街道からも離れすぎてる。
「先駆者がなんらかの形でマーカーするか、俺たちみたいにマップの助けがなきゃたどり着けないぞこれ。オルガ、何かマーカーでも仕掛けるか?」
「今はやめておこう」
オルガは首をふった。
「後で面倒じゃね?」
「こちら側から利用するのは確かに難しいだろう。
でもそれは、現時点でここを悪用したい人にとってもそうだろう」
「なるほど」
かりに開放するにしても、もっと研究がすすんでからって事か。
「それにハチの言うように、どのみち安全をまず確認しないとな」
人間の捜索能力というのは限られていて、どこでも調べられるってわけではない。
だからこそ、ここを目印しておかないというのは意味のある事だろう。
「しかし本当、おまえの装置は素晴らしいな。我々が未発見の古代のシステムも見つけられるんだからな」
「……それはそうだが危険もあると思うぞ」
他に誰も来られない施設でうっかり遭難したらどうする?やばいぞ絶対。
よく他人のネット記事でものすごい廃道や廃墟の探索記事があるけど、俺は、少なくともひとりでは行きたくないと思う。あれは同志や仲間と行くべきところだと。
旧道くらいなら、まだ人も来るかもだけど……さすがに廃墟・廃道はね。
そういうとオルガは笑った。
「だったら今は問題あるまい。ひとりじゃないんだからな」
「あ」
確かに、ごもっとも。
「……調べてみるか?」
「うむ」
さて、問題の入り口だ。
大きさは自動車も普通に入れるサイズ、しかもほとんど二車線サイズだった。
つまるところ。
「車両を想定した大きさっぽいが……こんな広くて本当にいいのか?」
「いいとも」
「根拠は?」
「わたしの知るムラク道の幅員と一致するからだ。本道は全部この幅なんだよ」
「へぇ……そうなんだ」
俺は、扉の下から少しだけ見えている路盤に触れてみた。
「すべりの少ない素材だな」
ずいぶんと上質の舗装だな。
これ、アスファルトより良質な気がするのは俺の気のせいか?
ただ、やはりというか当然というか、きっちりした扉で入り口は閉鎖されていた。
「手で開きそうでもないなぁ」
ロックされているんだろうけど、外せなきゃ意味がない。
で、オルガがそれを丹念に見ていたんだけど、こんなことを言った。
「ハチ、これは元々あった扉じゃないぞ。ドワーフ式のロックがかかってるが、専門家なら誰でも開けられる種類のものだ」
「そうなのか?」
「うむ、おそらくハチの懸念した理由で軽くロックしたのだろう」
そういうとオルガは、書かれている注意書きを見ていた。
「外からでも内からでも、特定の魔力を秘めたキーワードで開くそうだ。しかも、そのキーワードもわざわざ書いてくれている」
「なんだそれ、意味ないじゃん」
「あるさ。単にキーワード読むだけじゃ開かないからな」
「なるほど。で、オルガは開けられるか?」
「もちろんだとも。『開放』」
オルガがそういうと、中でゴンっと重い音がして、そして。
「おお」
するすると静かに扉が開いていった。
「おー、中もキレイじゃないか」
地球の舗装路によく似た、しかしセンターラインも路肩もない道が中にずっと続いていた。
「シャリアーゼ側から見たのと同じだな。やはり保全システムが動いてる」
中はコンクリ造りで、地球のトンネルを思い出させるものだった。燈火類も定期的についている。
ま、こんなシンプルな構造物じゃ違いようもないんだろうが。
「この壁ってコンクリ……じゃないよな」
「そこはお察しだな。でも用途的にいえば、キミの世界のコンクリとやらと同じと考えて間違いないだろうさ」
「まぁな」
ところで。
そんな話をしているうちに扉の方はというと、自動的に閉じてしまった。
「一分くらいかな?」
「とりあえずキャリバン号は通れるだろうが……どうする?入ってみるかねえ?」
「オルガ的には調査が必要なんだろ?少なくとも入ってみたいんだろ?」
「……それを言われると弱いねえ」
クスクスとオルガは笑った。
「しかし、そういうハチも好奇心まんまんに見えるが?」
「まぁ、好奇心はあるんだけどな」
俺は頭をかいた。
「ただの俺のポリシーとして、いわゆる廃隧道は今まで入らないようにしていたんだよ。基本ひとりだったし、何か起きた時にこまるからな」
「あー、ひとり動けなくなったりしたら、そのまま死にかねないからねえ」
「そういうこと」
でもそういうと、オルガはチッチッと指をふった。
「なら今は問題ないんじゃないかねえ?」
「え?」
「最悪の場合でもアイリス嬢がいるし、我々もいる。
……きみは今、ひとりじゃないぞハチ?」
「!!」
そういえばそうだった。
「し、しかし危険がやっぱり」
「自分でいうのもなんだが、わたしはこの手の遺跡設備全般の専門家だぞ。
それにハチ、君はどうせ徐行で探りながら進むのだろう?」
「そりゃ当たり前だ」
「だったらおそらく大丈夫と思うが?」
「……」
た、たしかに。
「……アイリス、オルガ、手伝ってくれる?」
「もちろんいいよー」
「手伝え、ねえ。それはむしろ、わたしのセリフなんだが」
にっこり顔のアイリス。
そして、にやりと笑うオルガ。
俺はふたりの顔を見て、そして。
「……行ってみるか」
「うん!」
「よし、では行こうかね」
こうして、我らが混成チームによる初調査が始まるのだった。




