考えまとめ
考えをまとめたいと思ったので、今夜は別々に休む事にした。
そういうとオルガは「フム」と考えたうえで「ではわたしも、やるべき事をやってから寝るとしよう」ということで、今夜は別々となった。キックボードへの術式の埋め込みなんかをするんだろう。
このテントには窓がある。ビニールとは違う何か異質な素材でよくわからないけど、少し外を見ることができる。
本当、よくできてる。
で、その窓の向こうには日本の古い民家が見えている。
「……似ているんだよな」
実は、オルガには言わなかったことがある。
うんと小さい時に母が連れて行ってくれた、母方の古い家にすごく似ているんだよ。似すぎなくらい。
いや、そういう問題ではなく。
そういう記憶以前に、何かこう、雰囲気が似すぎていたというか。
ものすごく昔の思い出が蘇るというか。
日当たりのいい子供用の三畳部屋。
あたたかい睡魔の中でたゆたっていた自分。
遠くから、かすかに聞こえる大人たちの声。
──健一は寝てますかね?
──ええ、奥で寝てるわよ士郎さん。お静かにね。
昔。
どのくらい昔かって、三畳の部屋に横に寝て全く余裕でみんな通れたくらい昔。
そんな時代の、とおい記憶。
当時、両親の仕事が忙しく、しかも姉貴が病弱。俺はよく母方の祖母の家に預けられていた。
でも俺はひどい甘えっ子で親の顔を見ると帰りたがるので、寝ている最中に時々様子を見に来ていたらしい。
いやそこ、いい歳こいてとか言うなよ。誰にだって昔はあるものだろ。
なにしろ物心つく前のことなんで、具体的な記憶がない。だから比較はできない。
でも。
どうしてか異様に懐かしい気がしてならないんだ。
もしかしてあの家って?
ああ、それとあともうひとつ。
母方のおばあちゃんの姓が村上なんだこれが。
本当に偶然かこれは?
まさかと思うけど、遠い親戚だったり……まさかねえ。
でもそんな時、オルガの言葉が頭をもたげてくる。
『異世界転移には謎が多い。古代アマルティア人も興味をもち研究していたらしい』
ふーむ。
専門家でない俺にはわからないけど。
やっぱり何か、そこには法則性とかあるのかね?
たとえば、何かのきっかけで転移しちゃった最初のひとがいたとして。
その人とつながりのある人が転移しやすくなるとか、そんなことが?
「サンプルがあればなぁ」
近い親戚が後で転移した例が他にもあればハッキリしやすいんだが、うーん。
過去に実例とかあるんだろうか?
うん、とりあえずスマホに記録しておこう。
そんなことをしていたら「パパ、入るよぅ」とアイリスの声。
「おう」
というか、別に断らなくていいけどな。
アイリスが入ってきた。なぜか下着姿で。
「っておまえ、寒くないのかよ」
このへんの気候は乾いてるみたいで、日が落ちると結構冷えてきた。
「ん?寝るだけだもん」
なるほど、寝に来たのか。
見れば、ついてきてるラウラも眠そうだ。もう左右の首は半分寝ていて、真ん中の首だけがかろうじて起きているっぽい。
ササヒメと遊んでいたはずだが……よほど遊び疲れたんだろう。
まあいい、こっちとしては全然かまわない。
「ああよしよし、寝とけ寝とけ」
「うん」
そういって一人と一匹は寝床に入ってしまった。
「パパもはやくー」
「俺はもうちょっと」
「そっか」
子供であるアイリスの横に小さなわんこの首が3つ並んでいる姿は、実に微笑ましい。
たちまち眠ってしまうラウラの世話をしながら、アイリスが俺の方を見た。
「ねえパパ」
「ん?」
「もしかして、何か気になってない?」
気づいていたか。
もしかして、わざわざそれを確認しにきたのか?
「なんでわかった?」
「なんとなく」
「そうか」
俺はためいきをつくと、あの家に感じていたことを正直にアイリスに言ってみた。
「あの家がパパ由来の可能性がある?」
「そこまでは言わないよ。でも、何かあるんじゃないかとは感じてる」
とはいえ重要なのは家じゃないだろう。むしろ。
「重要なのは、一緒に転移してきた住人の方だな。何者だったのか」
まさかとは思うけど。
「親戚とか、パパに関係する人ってこと?」
「あくまで可能性だぞ?」
「んー……いなくなった親戚とか、心当たりは?」
「いないとは言わない。確信はないが」
「……」
それは誰、と言わんばかりのアイリスに俺は言った。
「俺の母をねえちゃん、ねえちゃんって慕ってた女の人がいるんだ。その人は最後、連絡がつかなくなっちまってそれっきりなんだけどな。
あと、ばあちゃんの姉で、母がお気に入りで嫁入り先から養女に呼ぼうとした人。この人も俺を知っててな、俺も懐いてたんだけど最後がよくわかってないんだ。
このふたりかな、可能性があるならば」
「お母さんの親しい人ばっかり?」
「そりゃそうだ、母の里の関係者だし」
そこはまぁ色々とな。
「とはいえ証拠も何もない。あくまで俺の印象でしかないんだよなぁ」
「でも違和感あるってこと?」
「んだ」
「うーん……ちょっと待って」
俺の言葉を最後まで聞いたアイリスは、しばし考え込んでいた。おそらくドラゴン氏に確認しているんだろう。
そして、しばらくしてアイリスは顔をあげた。
「確信がないけど、ありえない話ではないかもだって」
「そうなのか?」
ちょっとだけ希望があったか。
「ただ、異世界人同士の続柄っていうのはグランド・マスターはあまり関心なかったみたいでね、そもそもデータがないみたい」
「ああ、そういうことね」
関心のない情報なら網羅されているわけもないよな。
「いい方法ないかな?」
「オルガさんも何か知ってるかもだから、まずは確認してみたらどうかな?」
「ああたしかに、それもそうだな」
オルガの寝室をあけると、そこにはファンタジックな魔法陣、それから銀色のキックボードがあった。
その横では、オリジナルサイズのササヒメがドーンと寝ている。
「お、やってるな?」
「実はちょっと難儀しているねえ」
「そうなのか?」
「あれを設定したのはだいぶ前なんだねえ。ちょっと細かい術式を忘れていてね」
あらら。
「そんなことより、アイリス嬢とふたり揃って何事かねえ?」
「おう、それだ」
事情について話した。
オルガは俺の話で少し考え込んでいたが、ちょっと待てと顔をあげた。
「昼間に、あの家を管理している者と連絡をとりあっていたろう?その時、おまけ程度に流れていた情報があるんだが」
「ああ、あの時ね」
オルガたちの愛用するタブレットは実は古代のもので、同じタブレット同士なら連絡がとれたりするそうだ。ま、とはいってもタブレットにお絵かきした内容を送り合うに等しい感じだそうだが、それでも凄いよな。
「その返答がさっき来たんだが……隅っこに面白い情報があってねえ。本人は中央大陸情勢だしという事で送ってくれたようなんだが。
例のショウワ生まれの聖国の元聖女だが、再婚するそうだ。まぁ自分の玄孫の結婚の介添みたいな立場なんだが」
「介添?」
「聖国のあるあたりでは妻をふたり持てる地域があるんだが……この二人目の妻というのが面白いんだ。そこに選ばれるのは多くは年を取った女性でね、実際にはふたりの結婚生活をサポートする役割をおっているのさ」
「へぇ」
おもしろい結婚制度だな。
「それって男がする場合もあるの?」
「違法じゃないけど、まずないね。だいたい女のほうが多いという事もあるし」
なるほど。
「ま、そのへんの話はいい。問題は、その元聖女様の結婚相手さ。
確認をとる必要があるが……実は元聖女の大叔父とか、そういう立場の者らしい」
「え、そうなの?」
「うむ。しかも歳は元聖女の方が百以上も上らしいが」
なんだそれ。
「わけがわからないな」
「おそらく、転移する前は元聖女の方が下だったんだろうが。なんともややこしいな」
「まったくだ」
俺はためいきをついた。




