魔力機関
食事がすんだ。
片付けるからー、となぜか笑顔で食器をぶんどっていったアイリスに甘える形で、俺とオルガはふたたび技術論めいた話に戻った。
「こっちのエネルギーの話を教えてくれ。確か石炭は使ってないんだよな」
「ああ、その話があったねえ」
オルガは大きくうなずくと、空間の小物入れを開いて何か石のようなものを出した。
それは小指ほどの赤い小石だった。
「これは?」
「魔石というものだ。この赤みは、熱を秘めた魔力が閉じ込められている」
「熱を秘めた?」
「魔力というものには本来、色がないんだ。
だけど人間側のイメージとして、たとえば暖房に使いたいのは熱気だし、真夏には涼しい、冷たいものがほしいだろう?
ゆえに、どうしても魔力には色がついてしまうんだ。このようにね」
手のひらに赤い魔石を乗せると、上に小さく、ろうそく程度の炎がともった。
「お」
「これはわたしの魔力ではなく、魔石の魔力を開放している。
わたしは今、熱をイメージしていないが、この魔石は熱を出している。それはつまり、この魔石に魔力を込めた時、その人が込めた熱が再生されているからなんだ」
へえ。
「よくわからないが。つまりそれ、人間の意思が介在してまぁ、一種の『属性』みたいになっちまってるってことか?」
「うむ、おおむねそのとおりだ」
オルガは大きくうなずくと、さらに今度は真っ黒い石、それから灰色の石を出した。
「これは?」
「人間のイメージを排除し、機械的に魔力をチャージした魔石だ。無色だと鮮やかな黒になり、そして中身を使い切るとこのように灰色になる」
ほほう。
「ちなみにこの技術は我々魔族の得意技のひとつだな。他の種族でこれができるのはドワーフくらいと言われているが……彼らは今、産業を支えられるほど地上にいないからな」
「地上にいない?」
「ああ、そのうち話を聞くと思うから話しておこう。
かつてこの星で大きな文明を持っていたのは古代アマルティア人、そしてその次に出てきたのがドワーフと言われる連中なんだが」
「ほう」
いるのかドワーフ。
「ドワーフか……やっぱり小さくて毛が多くて力が強いのか?」
「いや、小柄でモノづくりが大好きで技術に明るいが、毛が多いという事はないぞ?」
「そうなのか」
ふむ。
西洋人がよく描くドワーフのイメージとは少し違うかな?
「彼らは古代アマルティア人と親しくしていた者たちの子孫だと言われているんだ。
アマルティア人たちが友情のメッセージと共にこの星を去ったあと、彼らを見送った者たちがドワーフに変化したんだそうだ。友人だった者たちの姿をその身に焼き付け、アマルティア人たちの好んだモノづくりが大好きな性質も受け継いでね。
一説には混血もしていたと言われるが、それについては真偽不明だな」
「へぇ……って、この星を去った?」
どういうことだ?何か古代の謎でもあるのか?
でもそんな俺の疑問は、あっさりとオルガによってはらされた。
「どういうも何も、古代アマルティア人は異星人だぞ?」
「な!?」
「残された文献によると、彼らは母星で大きな災害が起きて、それが収まるまでこの星に避難してきていたんだそうだ。そもそも彼らはこの地の状況に興味をもち、昔から調べていたそうだし」
「興味をもつ?」
「君が転移してきた原因だよハチ」
そういうと、オルガはまっすぐな目で俺を見た。
「文献によれば、この星に異世界のものがしばしば転移してくるのは理由があるんだそうだ」
「理由?というと?」
「さて、それ自体は不明だ。というか彼らもそれに興味をもち昔から調べていたらしいけど、彼らも最終結論には至ってなかったようだ。
ただ残されている文献にはいくつかの仮説があってね。
それによると、巨大な歪みがこの星の一角に存在し、それが時空の歪みを引き起こしているというのが彼らの仮説らしい。空間そのものでなくこの星の自転に追従し、引きずられているらしい」
「……なんでまた?」
「さて、なんでだろうな。わたしも専門外なのでわからない」
そういうと、オルガはためいきをついた。
「歪み、揺れ動きながらいくつもの時空連続体とぶつかりあっているんだそうだ。転移が起きる直接の原因はこれなんだが、不思議な事はそれだけではないらしい」
「というと?」
「原理的にいうと、生命体はたまたま周囲の物質ごと巻き込まれるだけで、実際の転移は空間転移なのではないかと考えられるんだが。
ところが、生命体を一切含まない形では転移が起きていないという研究結果もあるそうでね」
「なんじゃそりゃ」
思わず唸ってしまった。
「彼らもそこが疑問のようで、滞在中にもその調査を行っていた者が多かったようだ。
しかし結局結論は出なくて。
それどころか、彼らの滞在中に異世界のひとつから精霊分の流入が起きて大変なことにもなったらしい」
「……なんかスケールのでかい話になってきたなぁ」
なんか、ファンタジーなのにSF要素がよく入る、まるで洋ゲーみたいな世界だなと思ってたけども。
なんか、ひとつ間違えたらスペースオペラじみた感じになってきたなぁ。
「まぁ、アマルティア人の話はいいとして魔石に戻ろう。
我々が石炭の時代をもたないのは、この魔石のおかげなんだ。これ、どうやって得られると思う?」
「いや、わからん。どこだ?」
「殺した魔物の身体、特に呼吸器・心臓・そして脳神経系あたりから生成できるのさ。つまりこの世界では、魔物の身体は動く鉱山というわけだ……しかも石炭のように空気も汚さない」
「うわ」
なるほど。
精霊分と魔物。
地球に存在しないこのふたつが、魔法と、それからエネルギー資源をもたらしているってわけか。
「凄まじいことになってるんだなぁ」
「そうかもしれないな。
だが、地下を掘りまくったり海を汚さなくてもエネルギー資源を得られるという意味では幸いだろう」
「うん、それは同意する」
蒸気も石油もすっ飛ばして電気自動車社会になるようなもんだしな。しかも天然の電池がそこいら中にあると。
すごい。
こんなとんでもない方法でエネルギー危機が回避できるとはね。
魔法が使える事なんかより、はるかに素晴らしいことじゃないか。
「ちなみに問題はないのか?」
「残念だがある」
オルガはきっぱりとうなずいた。
「まず現状、魔獣車の代わりにするにはコストが高すぎる。この点は今まさに研究中だから、いずれ改善されるとは思うがね。
それと魔石なんだが。
皮肉なことに、我々魔族や獣人族の身体からも当然、作れるんだ。
……何を言いたいのかわかるかねえ?」
「まさかと思うが……人間族が狙うのか?」
「正解。特に我ら魔族の身体は高純度でね、ひとつ確保すればいいエネルギーがとれるそうだよ」
「……なんてこった」
一度話をきいて、その時には話半分という意識もあったんだけど。
当の魔族が肯定するのなら、もう間違いあるまい。
「ひとつ質問なんだが」
「何かねえ?」
「もしかして、それって俺もそうなのか?俺を殺せば高純度の魔石がとれる?」
「とれるといえばとれるけど。
君の場合だと、生かしたまま洗脳するか名前で縛り、魔力を搾り取る戦略をとってくる可能性も否定できないねえ。
……おそらくだが、君ほどの魔力があれば、埋もれている太古の超兵器ですら稼働できるかもだし」
「太古の超兵器?」
「正しくは、古代アマルティア人が残していった護衛機械なんだけどね」
そんなものまであるのか。
「護衛機?」
守りのためのものってことか?
「星間戦争もできるような連中の『護衛機』だぞ。その戦闘力もおのずと想像つくだろう?」
「それは」
確かに、あまり想像したいレベルのものではないな。
俺が顔をひきつらせていると、オルガがククッと笑った。
「まぁ、そう怯えるな。
いくら人間族が阿呆でも、あれを……デストルクシオを稼働させようなんて思うまいさ」
「デストルクシオ?」
「古代アマルティア語で、絶対的な守護者を意味するそうだ」
「……」
「ハチ?」
「いや、偶然だろう」
デストルクシオ。
地球でその言葉の意味するものを、中二病だった頃に調べたのを覚えている。
たしかラテン語だ。
意味はたぶん……破壊とか殺しとか、要はそういう物騒な意味で。
偶然、だよな。
でも。
言い知れぬ不安が俺の胸をよぎった。




